『パワー・トゥ・ザ・ピープル』関連で、かの増田都子氏も登場するBBS『イマジン!!』のトップに、ジョン・レノンの『イマジン』をモチーフにしたと思われる文章があります。
想像してごらん。国家なんてなく、
平和を求めて今日を精一杯生きている人々がいるだけだって。
国や宗教の違いのために、死んだり殺しあったりすることをなくすのは、
それほど難しくはないはず。
みんなが、この世界を分かちあって仲よく生きていきたいと、
夢みていることがわかれば…
ベトナム戦争の時代の1971年に書かれたジョン・レノンの『イマジン』は、反戦平和主義と反国家主義のある種のバイブルのような存在の曲で、一部ではレノン自身がそのアイコン (偶像・崇拝) 的存在になっている感がありますが、実際にレノンが書いた詩は以下です。
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ジョン・レノン『イマジン』 (1972年2月 マイク・ダグラス・ショーより) John Lennon - Imagine (Live) (Mike Douglas Show) (3'23")
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ここでBBS『イマジン!!』の冒頭文をもう一度見てみましょう。
平和を求めて今日を精一杯生きている人々がいるだけだって。
国や宗教の違いのために、死んだり殺しあったりすることをなくすのは、
それほど難しくはないはず。
みんなが、この世界を分かちあって仲よく生きていきたいと、
夢みていることがわかれば…
![]() 『イマジン』レコーディング時期のレノン。英バークシャー州の自宅の録音スタジオにて (1971) (Imagine...All The Outtakes) |
要するに原曲は、乱暴な言い方をすれば単なる独り言に過ぎないものが、この作品がある意味独り歩きした要因はつまり、これが能動的な政治運動讃歌に拡大解釈されたからという事。レノンの原曲は観念的で受動的な「想像してごらん」のユートピア思想でしかないのが、それが「実行してごらん」の活動家思想に変化した時点で原詩の意味は既に失われていると言えます。
実際レノン本人は自分自身が特定の思想や政治運動に関わる事を嫌っていたようです。
![]() John Lennon (1971) (Photo from Amazon.com) |
「天国も地獄もない」「今日のために生きている」と言うのはむしろ「死後の審判」など宗教の否定、「殺したり死んだりする理由」とは国や宗教という「枠組み」を指し、そして「飽食や飢えも要らない、人類は皆兄弟なのだ」は、人種問題と国家間格差のことを指しているように思えますが、宗教も国家も人種もいずれにしても彼にとっては「枠組み」であり、当時アメリカでは黒人公民権運動があったり、まだアラブやアフリカの多くが植民地だったりなど人種差別がまだ根強かった1960年代に国際結婚をしたレノンにとっては「枠組み」は大きなテーマであったのかもしれません。
また、「いつか君達も共になることを願う」はこの詩においては「一緒に想像しよう」と言っているに過ぎない訳です。
所有を否定した事で『イマジン』はニクソンには「共産主義の歌だ」と嫌われていたようですが、レノンはビートルズ時代の『レヴォルーション』で、毛沢東信者を強烈に皮肉ってたりなど、彼自身が共産主義思想や革命思想とは縁はなさそうです。
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ビートルズ『レヴォルーション』 (1968) より Beatles - Revolution (3'26")
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『イマジン』の3年前にレノンはインドの宗教家のマハリシ・ヨギと決裂しており、前年の1970年のビートルズ解散時のソロ作品の『神』で宗教やビートルズを含むそれまでの人生観の否定をしているなど、そういう内面的な葛藤がむしろ『イマジン』には色濃く反映されている印象です。
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ジョン・レノン『神』 (1970) より John Lennon - God (3'40")
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ビートルズ時代から含め、レノンの作品の大半は政治色よりもむしろ個人の内面の葛藤を扱ったもの、晩年は家族愛を扱ったものが多く、作品自体には外交的な活動家というイメージはなくむしろ内向的な性格が目立つ印象です。
『イマジン』はレノンの作品で最も知られた曲だと言われますが、数年前に夫人の小野洋子氏が、『イマジン』のアイデアは彼女自身の日本の戦時中の経験から来たものだと証言しています。

想像してごらん... もしジョンでなくヨーコがそのヒット曲を作ったとしたら
2003年8月31日 サンデータイムズ(英国)
リチャード・ブルックス(芸術担当)
大衆の世俗聖歌として根付きこれまでに書かれた歌詞でも最も影響力の強いものの一つである、ジョン・レノンさんの『イマジン』が小野洋子さんとの共作であるとの証拠が今浮上している。
小野洋子『A Grapefruit In The World Of Park』Poster, Carnegie Recital Hall, 1961. Lenono Photo Archive
イギリスの「好きな歌」に常に票が入り続ける『イマジン』のシンプルな歌詞は、レノンさんの更なる平和への願いによるものだと常にそう考えられて来た。しかし実際『イマジン』のフレーズは、第二次大戦下の日本での小野さんの少女時代の記憶が作り出したものだった。
1971年9月に米国で発表され翌月に英国で発表されたこの曲は、レノンさんのアルバム『イマジン』のタイトルトラックであり、世界で最も愛されてる曲の一つである。1980年12月に彼がニューヨークで射殺された後、イギリスでトップチャートシングルとなった。
この度その歌が書かれた過程における小野さんの重要な役割を彼女自身が明らかにした。それは戦争中に彼女自身と弟のための想像上の良い世界を作ろうと試みた事が発想の源であるとの事だ。
![]() (Photo: The MondayMorningMemo) |
「ひもじい弟のために(食事の)メニューを想像してあげると、弟は微笑み始めました。不可能だと思った事でも、それが出来たと想像する事は出来ます」と小野さんは話している。
『イマジン』で始まるフレーズは彼女がレノンさんに出会う以前の1960年代初めに書かれた彼女の幾つかの詩に見る事が出来る。その詩集は1965年に出版された彼女の著書『グレープフルーツ』に含まれている。
![]() ![]() 小野洋子『グレープフルーツ』表紙 (上) と裏表紙 (下)。1971年ジョン・レノンの序文付き再版版 (©2000, Simon & Schuster) (Photos: Simon & Schuster&FDBlog) |
彼のその発言の重大性はその死によって忘れ去られていた。「雨垂れを想像しなさい」「雲が滴り落ちるのを想像しなさい」「一匹の金魚を想像しなさい」など、小野さん自身はそれらの詩を「インストラクション小品」と呼んでいる。
小野さんはまた1971年の『イマジン』の作品と曲作りに関して述べている。それは主に当時彼等が住んでいたバークシャー州アスコットの近くの邸宅、ティッテンハーストで書かれ、「残りは旅行中の飛行機の中で書いた」としている。
小野さんは以前に『イマジン』について、「彼の夢や理想主義を具体化した作品で、それが彼が世界に対して本当に言いたかった何かなのです」と説明していたが、それが部分的には彼女自身の詩からインスパイアされたかに関しては決して語らなかった。
BBC2チャンネルのアリーナの編集者のアンソニー・ウォールさんは「ヨーコさんが夫よりも自分を前に出したくなかったから、彼女はイマジンへの影響を語らなかったのだと思う」と話した。(以下略)
![]() 『イマジン』の裏ジャケット(©1971, Apple Records) (Photo from MUSIC & MOVIES) 左下の部分には小野洋子『雲の小品』「imagine the clouds dripping. dig a hole in your garden to put them in. yoko '63」が引用されている。 |
『Imagine 〜』で始まるフレーズのアイデアになったのは、小野洋子氏がレノンと出会う以前の1964年に出版した『グレープフルーツ』に収録されている英語の詩集であるとの事で、更にサンデータイムズの記事には小野氏の『イマジン』の曲作りへの関わりに関して彼等は語らなかったとの記述がありますが、実際は『イマジン』の裏ジャケットの左下の部分(上記写真)には『グレープフルーツ』の一遍の詩『雲の小品』が引用されており、実際特に隠していた訳でもなさそうです。
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| 訳:Red Fox |
この小野洋子氏の詩集には上記の数点など「想像しなさい」で始まる詩が幾つか含まれていますが、これらの詩は画家などのアーチストへのインストラクションとして書かれたものだそうです。
この詩集に寄せてジョンは以下のコメントを書いています。
一人で見る夢はただの夢かもしれないが、二人が同時に見る夢は現実である。
![]() PopCultureToday.Com, Inc. |
ネット上でも『イマジン』の訳は多数見る事が出来ますが、その多くが「反戦平和運動のアイコンのジョン・レノン」の固定観念やイメージを持って訳されているためか、ニュアンスに多かれ少なかれ思想的バイアスがかかっているものが多いように見受けられまが、これは本来はジョンレノンのその他の作品同様に内面的なテーマの詩と考えた方がしっくり来る面もあります。
私の訳では各節の2行目で「It」と代名詞になっている主語を敢えて「想像」と繰り返しましたが、それは「想像」がこの詩の最大のテーマだからという事です。
余談:
上記の小野洋子氏の『雲の小品』は、何となく空襲を連想させる詩に思えます。「庭に穴を掘る」とは防空壕でしょうか。つい最近『火垂るの墓』を観たばかりなので、そう感じるのかもしれませんが。そう言えば私の祖母は東京大空襲の防空壕の中で子供をなだめるために必死で歌を歌っていたと言っておりました。
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