Red Fox

サン紙の圧力に米国防総省が屈服

 「やった!」「バンザーイ!」と雄叫びが聞こえそうな記事です。これはザ・サン紙の2月6日の特ダネの翌日の記事ですが、やはり王室ゴシップネタで有名な、権威をからかって遊ぶイギリスの大衆紙、ロンドンの「cockney」(ロンドンの民衆) や「red neck」(イギリスの白人労働階級) が読む下世話な大衆紙と言うか、後半は読んでて恥ずかしくなる位の自画自賛ではしゃぎ回っている様子が目に浮かびます。

 朝日新聞の2月9日の記事では、米英国防当局が一転3月から再開される英兵の死因審問に証拠としてビデオを提出することを認めたところまで報じられているので、この記事も参考にしている筈です。


ザ・サン紙の圧力に米国防総省が屈服
トム・ニュートン・ダン (国防記事担当)
ザ・サン紙 2007年2月7日

無惨に破壊・・・『友軍攻撃』の後のシミター戦車の新たな写真独占入手

 昨日、本紙は秘密の「友軍攻撃」フイルムを機密扱いから外させた。そしてそれは審問に出されることも可能となった。本紙がその痛ましい15分のコックピット録画のDVDコピーをジェフ・ウェブ検視官に引き渡すことによって、プレッシャーをかけたと言うことだ

 公式資料はマッティ・ハル兵長の死に関する調査をしているオックスフォードのアンドリュー・ウォーカー検視官副代理に渡される。

 米軍高官は、先週その録画の存在が公になった後もその「最高機密」の公表を拒んで来た。しかし昨日、本紙のスクープの容赦ないプレッシャーの後、米国防総省は屈服した

[そのショッキングなビデオはここをクリック]

 しかしそれは国防省と米国防総省のトップ会談の後である。情報筋によると、英国の高官が米国側に分別をわきまえるように頼んだとのことである。米国側は午後5時についに折れ、ロンドンの米大使館のスポークスマンが「交信記録とDVDを検視官が内密に使用することを英政府に許可することを確認した」と述べた。

 ウォーカー検視官が昨日、コクピットビデオは既にザ・サン紙が入手し事実上公のものであると伝えたところ、その決定的瞬間は訪れた。彼は以前に(米側によって編集された)公式バージョンの使用を拒んでおり、本紙に対して感謝を述べた。

 米側が折れる前にDVDを受け取ったウェブ検視官は「検視官全員を代表して、この資料を提供してくれたことを感謝します。この資料が公のものとなった今、これは証拠として認められます。英国防省が金曜日までにテープを提供しないのなら、ザ・サン紙提供のコピーを提出することが出来ます」と語った。


引き渡し・・・ザ・サン紙のアレックス・ピーク記者が検視官にテープを渡す

 デスブラウン防衛秘書官はこの急展開に関して「この決定はマティ・ハルさんの遺族への朗報であり、私もそれを嬉しく思います。最も近い同盟国にも拘らず、その機密情報を引き出すことは決して容易ではありませんでした。でもこれは実現されるべきことでした。」と語った。

 自由民主党党首のメンジーズ・キャンベル氏は「良識は全てに打ち勝つ。人々が既に見たものを検視官が証拠として使用出来なかったのなら、それは『不思議の国のアリス』の状態だったでしょう」と語った。


 ザ・サン紙の読者は本紙の快挙を挙って絶賛した。


犠牲になったマティ・ハル兵長
(写真: ロイター通信)
 元軍パイロットのピーター・クロゴンさんは「こんなこと信じられません。 目標を特定するのに10秒以上時間があるなら十分ラッキーです。このパイロット達には5-6分も時間があったのに。オレンジの識別サインを彼等は知ってたにも拘らず、管制官は攻撃の後にそれを知らせた。これは危険のないコンピューターゲームで遊ぶのとは訳が違う」と語った。

 1988年のロッカービー事件で娘のフローラさんを失い、その死にまつわる真実を調査するのに何年も費やしたジム・スワイヤーさんは、テープを渡した本紙の快挙を絶賛した。

 「4年前ハル兵長がなぜどのように殺害されたかの真実が明らかになったことは、遺族の知る権利にとって最高の贈り物であり、おめでとうと言いたい。このことで彼が戻ることはないが、遺族が彼の死に関して知る権利はあったのだから。」と語った。

 ウィルツ州スウィンドンのビジネスマンのダレン・キングさん(36)は「陸軍に知人がいますが、彼はザ・サン紙がこれを公表したことは全ての兵士にとって非常に嬉しいニュースだと言ってました」と語った。

 サンダーランド在住のビリー・ケールさんは「ビデオを見た後、この殺害された哀れな兵士に関して悲しみと怒りを覚えます。またたまたまその日の任務にあたった不運なパイロットもまた哀れです」と語った。



昨日のザ・サン紙の特ダネ紙面
 本紙の衝撃スクープは昨日野火のように世界中に広がった。中国からアラスカまで、テレビ、ラジオや新聞は我々の特ダネの細部に渡って伝えた。その間フリートストリートの我々のライバル紙は狂ったように本紙の報道をコピーするだけだった。この特ダネは一日中スカイニュース、BBCとITVのトップニュースであった。

 本紙の劇的なスッパ抜きはアメリカの全国ネットのCNN、CBSやFoxでも扱われた。

 CBSは「両国の軍が公にされることを防ごうとしていたにも関わらず、ザ・サン紙はそのビデオを入手した」と報道。

 Foxニュースでは記者が「2003年イラクでの護衛隊に対する友軍攻撃に関する米パイロットのコクピットビデオを国防総省は隠そうとした。漏洩したビデオでアメリカ人パイロットが『俺達は刑務所行きだな』と言っている」と報道した。

 その間全米の何十もの地方テレビ局は本紙の特ダネを報道した。ノースカロライナのWWAYテレビは「英ザ・サン紙がイラクでの友軍誤射事件の漏洩したビデオを公開した」と報道、オクラホマ州タルサのKOテレビは「ビデオは友軍誤射事件で英兵士を殺害した米パイロットのミスを詳しく伝えている」と報道した。

http://www.thesun.co.uk/article/0,,2-2007060284,00.html
訳:Red Fox

 ここで表現されている「中国からアラスカ」と言うと極東地域を指すので深読みしてしまいますが、これは恐らくイギリスの視点から見た「地球の裏」みたいな表現なのではないかと思います。つまり「大西洋中心の欧州の世界地図」の両端を繋ぐみたいな感じで。「世界中に広がった」の部分は原文「went around the world」が「世界を回る」、つまり「地球を一周した」 と言うニュアンスのある言葉なので、よく考えてみたらそういうニュアンスなのではないかと思いますが、訳で完璧に原文のニュアンスを伝えるのは至難の業です。


 イギリスとアメリカは同じ言語を話し、イギリスはかつてはアメリカの宗主国で、現在も最も近い国でありながら、米軍による英兵誤爆殺傷事件に関する一連の報道を見ると、一方では近親憎悪に近い反米感情も強い国であるなと感じます。イギリス人は何かにつけてアメリカ人を馬鹿にする発言が多いのも、現代の世界一の経済・軍事大国に、かつて世界を制覇した大英帝国のお株を奪われたある種のコンプレックスが深層心理にあるのでしょうか。

 ザ・サン紙は普段は芸能人スキャンダルネタとかグラビアネタの日本で言うスポーツ新聞系なので、日本でそれに相当するのは東スポとか日刊スポーツ辺りでしょうか。そういうタブロイド紙が独自取材でアメリカ政府を脅したと言うのが面白いですね。

 ザ・サン紙はトップページを見ただけでも芸能ネタやセクシー系がメインの新聞ですが、そういうところにジャーナリズム魂があると言うのもやはり近代化の歴史の長いヨーロッパの面目躍如たるものなのかなとも思います。

 ただザ・サン紙が日本のマスコミと決定的に違う点は、イギリス国防省がグルになっていたという状況でも自国の政府を殆ど批判しないところです。

 以下は同日に報道された、友軍攻撃をした米軍パイロットに関しての記事です。


ハル兵長殺しのパイロットは今もトップの殺し屋を養成している
トム・ニュートン・ダン(国防記事担当)
2007年2月7日 ザ・サン紙


恐ろしい事に・・・大失敗をしたパイロットは現在他のA10パイロットをトレーニングしているのだ

 恐怖の「友軍」パイロットは今、他の米軍操縦士を殺人のためにトレーニングしている。ザ・サン紙はそれを暴く。

 「スキーター」のニックネームを持つ操縦士は米軍基地で国防軍のA-10対戦車砲搭載機訓練機関で大佐に昇格した。

 彼はどのように降下してターゲットに機銃掃射するかを教える。彼自身が騎兵連隊伍長勤務のマティ・ハル兵長を攻撃し殺害したように

 我々は未亡人のスーザンさんにこの攻撃の様子のビデオを見せたところ「この二人の愚か者の手によって私の夫が死んだことがようやく分かりました。サン紙がこの事件を暴いてくれたことを嬉しく思います。私はマティの死に関して何かが決定的に間違っていたことは分かっていました」と語った。

 昨日、我々は事件の核心に関わるテープを公開したことで世界を驚かせた。これはA-10内部で撮影されたものである。それは米スラングで「蚊」を意味する「スケーター」のニックネームを持つ操縦士が、規則を犯してハウスホールド機甲部隊の4台の護送に攻撃をした様子を写し出している。彼は同僚と無線で交信をしていた。

 オックスフォードのアンドリュー・ウォーカー検死官副代理は、英国国防軍と米国政府に対してそのテープを渡すように要求している。昨日の我々の報道の後、米国国防総省のトップが遂に折れて、テープを機密情報のリストから外し証拠として用いることに同意をした。

 この攻撃は2003年3月28日、イラク侵略の7日目に起こった。アイダホ国防空軍の第190海外派遣飛行隊員の「スキーター」にとって彼の初めての戦闘作戦であった。それは20年以上のベテランパイロットであったにも関わらずである。

 米国空軍准将は、密室の裏で不正が行われていたのではないかと調査していたが、何も公表はされなかった。しかし「スキーター」と彼の同僚は職務剥奪や裁判などから逃れていたことをザ・サン紙は突き止めた。

http://www.thesun.co.uk/article/0,,2-2007060289,00.html
訳:Red Fox

 この「殺人のためにトレーニングしている」はちょっと微妙ですね。戦闘機パイロットの養成とは要するに殺人のためのトレーニングなので、それはイギリスでも行われている事。目標を攻撃して殺害する事を教えるのが問題なら、イラク空爆のために英兵をトレーニングした英軍も問題という事になります。これはイラク人は殺していいがイギリス人を殺したら「殺人パイロット」になるという、人種優位主義と取られかねない言い方ですが、これはむしろアメリカに対する近親憎悪に近い感覚に思えます。

 ザ・サン紙は2月8日と9日に、「ポポフ36」の身元を暴き、アメリカにまで取材攻勢をした記事を載せていますが、それ以降はこの事件に関する記事はありません。ロンドンっ子は飽きっぽいのか。

次回に続きます
mixi日記 2007年02月15日17:58



特集『米軍機による英軍誤爆事件』
 1. イラク戦争時に米軍が英兵士を誤爆、コックピット生映像がTVに流出 (2007.2.12)
 2. 命中の浮かれ騒ぎは一転して戦慄に (2007.2.14)
 3. ザ・サン紙の圧力に米国防総省が屈服 (2007.2.15)
 4. 米軍パイロットの実名報道 (2007.2.17)
 5. 未亡人の苦悩 (2007.2.18)






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