先日全文訳を紹介した、6月14日付けのワシントンポスト紙に掲載された慰安婦問題に関する意見広告に関連して、そこで当時の資料として言及されていた陸軍省通牒や内務省や警務局の発警の原文を紹介します。
意見広告中、以下の「事実1」の章では、戦前の軍や警察が民間ブローカーによる人身売買や誘拐や強制を禁じ、その募集に関する合法的ガイドラインを示していた事が書かれています。
歴史学者や研究団体によって発見された如何なる歴史的な記録にも、女性達がその意志に反して日本軍によって売春を強制されたことを明確に示すものはない。戦時中の政府や軍幹部の指令を保管しているアジア歴史資料センターの記録でも、女性達が「イアンフ」又は「comfort women (慰安婦)」として働くために、強制的に駆り集められたと示すものは何も探し当てる事は出来なかった。
陸軍省副官通牒2197 (1938年3月4日) |
それとは対照的に、女性達をその意思に反して強制しないよう民間ブローカーに対して警告している文書が多く見つかっている。
1938年3月4日付の陸軍省副官通牒2197では、軍の名義を不正に利用したり、誘拐と見なされる方法での募集を明確に禁止しており、そのような方法での採用行為は罰っせられていると警告している。1938年2月18日付の内務省通牒(乙第77号)は、「慰安婦」の募集は国際法に従うべきで、女性の奴隷化や誘拐を禁じている。同年11月8日付の警保局警発(甲136号)は更に、21歳以上で既に売春婦として働いてる女性のみを「慰安婦」として募集して良いとの命令をしている。そこではまた、女性の家族や親類の許可を義務としている。
一方「慰安婦」の数は20万人に及んだと主張している歴史学者(米国メディアでよく引用されている主張)は、この通牒が軍の積極的な関与の証拠であると考えている。
この意見広告内で言及されていたのは、1937年12月の南京陥落の翌年、1938年(昭和13年)3月4日の「陸軍省副官 通牒2197」、同年2月18日の「内務省発警 第五号/警保局警発 乙第77号」、そして同年11月8日の「警保局警発 甲136号」の三つです。
まず以下の「陸軍省副官通牒2197」では、軍の名義の不正利用や誘拐の禁止、違反者は検挙されているとの記述があります。
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註: |
・原文の旧仮名及び旧漢字は現行仮名と新字に置き換えてある。
・原文の仮名部分は片仮名で書かれたものを平仮名に置き換え。
・句読点は原文にあるものを除き編者による。
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陸軍省副官通牒2197
軍慰安所従業婦募集に関する件
兵務部
副官より北支方面軍及中支派遣軍参謀長宛通牒案
支那事変地に於ける慰安所設置の為、内地に於て之が従業婦等を募集するに当り、故らに軍部諒解等の名義を利用し、為に軍の威信を傷つけ、且つ一般民の誤解を招く虞あるもの、或は従軍記者、慰問者等を介して不統制に募集し社会問題を惹起[*1]する虞あるもの、或は募集に任ずる者の人選適切を欠き、為に募集の方法、誘拐に類し警察当局に検挙取調を受くるものある等、注意を要するもの少なからざるに就ては、将来是等の募集等に当りては、派遣軍に於て統制し、之に任ずる人物の選定を周到適切にし、其実施に当りては、関係地方の憲兵及警察当局との連繋を密にし、以って軍の威信保持上、並に社会問題上、遺漏[*2]なき様配慮相成度、依命通牒[*3]す。
陸支密第七四五号
昭和13年3月4日
*1. 惹起:事件や問題をひきおこすこと、*2. 遺漏:手落ちがあること、手ぬかり、*3. 書面による通知
次に言及されているのが、同年2月18日の「内務省発警 第五号通牒/警保局警発 乙第77号」と同年11月8日の「警保局警発 甲136号」で、そこでは国際法違反の婦女売買を禁じ、女性の誘拐を禁じ、更に渡航に際して女性の家族や近親者の許可を必要とし、売春婦として既に働いている21歳以上の女性に限って渡航就労を認めている旨が書かれています。
内務省発警第五号 昭和13年2月23日
警保局警発乙第七七号 昭和13年2月18日
支那渡航婦女の取扱に関する件
最近支那各地に於ける秩序の恢復[*1]に伴い渡航者著しく増加しつつあるも、是等の中には同地に於ける料理店、飲食店、「カフエー」又は貸座敷[*2]類似の営業者と聨繋[*3]を有し、是等の営業に従事することを目的とする婦女寡な[*4]からざるものあり、更に亦、内地に於て是等婦女の募集周旋[*5]を為す者にして、恰も軍当局の諒解[*6]あるかの如き言辞を弄する者も、最近各地に頻出しつつある状況に在り、婦女の渡航は現地に於ける実情に鑑みるときは、蓋し[*7]必要已むを得ざるものあり、警察当局に於ても特殊の考慮を払い、実情に即する措置を講ずるの要ありと認めらるるも、是等婦女の募集周旋等の取締にして、適正を欠かんか帝国の威信を毀け皇軍の名誉を害うのみに止まらず、銃後[*8]国民特に出征兵士遺家族に好ましからざる影響を与うると共に、婦女売買に関する国際条約の趣旨にも悖る[*9]こと無きを保し難きを以て、旁ゝ[*10]現地の実情其の他各般の事情を考慮し、爾今[*11]之が取扱に関しては左記各号に準拠することと致度、依命此段及通牒候。
*1. 恢復:回復、*2. 〔明治になって公娼が妓楼の座敷を借りて営業することがあったことから〕女郎屋。遊女屋、*3. 聨繋 (れんけい):連携、*4. 寡 (すく) ない:少ない、*5. 周旋:売買や雇用などの交渉で仲に立って世話をすること、斡旋、*6. 諒解:了解、*7. 蓋 (けだ) し:思うに、恐らく、*8. 銃後:直接戦争に参加していない一般国民や国内、*9. 悖(もと)る:道理にそむく、反する、*10. 旁ゝ (かたがた):方々、*11. 爾今 (自今):以後
記
一、醜業[*12]を目的とする婦女の渡航は、現在内地に於て娼妓[*13]其の他事実上醜業を営み、満二十一歳以上且 (かつ) 、花柳病[*14]其の他伝染性疾患なき者にして、北支、中支方面に向う者に限り、当分の間之を黙認することとし、昭和12年8月米3機密合第3776号外務次官通牒に依る身分証明書を発給すること。
二、前項の身分証明書を発給するときは、稼業の仮契約の期間満了し、又は其の必要なきに至りたる際は、速に帰国する様、予め諭旨[*15]すること。
三、醜業を目的として渡航せんとする婦女は必ず、本人自ら警察署に出頭し、身分証明書の発給を申請すること。
四、醜業を目的とする婦女の渡航に際し、身分証明書の発給を申請するときは必ず、同一戸籍内に在る最近尊族親、尊族親なきときは、戸主の承認を得せしむることとし、若し承認を与うべき者なきときは其の事実を明ならしむること。
五、醜業を目的とする婦女の渡航に際し、身分証明書を発給するときは、稼業契約其の他各般の事項を調査し、婦女売買又は略取[*16]誘拐等の事実なき様、特に留意すること。
六、醜業を目的として渡航する婦女、其の他一般風俗に関する営業に従事することを目的として渡航する婦女の募集周旋等に際して、軍の諒解又は之と連絡あるが如き言辞、其の他軍に影響を及ぼすが如き言辞を弄する者は、総て厳重に之を取締ること。
七、前号の目的を以て渡航する婦女の募集周旋等に際して、広告宣伝をなし、又は事実を虚偽若は誇大に伝うるが如きは、総て厳重之を取締ること、又之が募集周旋等に従事する者に付ては厳重なる調査を行い、正規の許可又は在外公館等の発行する証明書等を有せず、身許の確実ならざる者には之を認めざること。
*12. 醜業:卑しい職業、*13. 娼妓:公娼、*14. 性病、*15. 言い聞かせる事、*16. 略取:暴行・脅迫によって他人を支配下におくこと
警保局警発甲第一三六号(11月8日施行)
大阪、京都、兵庫、福岡、山口各府県知事宛
南支方面渡航婦女の取扱に関する件
支那渡航婦女に関しては本年2月23日、内務省発警第五号通牒の次第も
有之侯処、南支方面に於ても
之等醜業を目的とする特殊婦女を必要とする模様なるも、未だ
其の渡航なく、現地よりの希望の次第も有、
之事情
已むを得ざるやに認めらるるに
付ては、本件極秘に左記に
依り之を取扱うことと
致度に付、御配意
[*1]相成度。
*1. 配意:配慮、心配り
記
一、抱主[*2] たる引率者の選定及取扱
(イ) 引率者(抱主)は、貸座敷業者等の中より身許確実にして、南支方面に於て軍慰安所を経営せしむるも、支障なしと認むる者を抱主たる引率者として選定し、之に対し南支方面に軍慰安所の設置を許さるる模様に付、若し其の設置経営の希望あるに於ては便宜関係方面に推薦する旨を懇談し、何処迄も経営者の自発的希望に基く様、取運び之を選定すること。
(ロ) 醜業を目的として南支方面へ渡航を認むる婦女、数は約400名とす。之を大阪府約100名、京都府約50名、兵庫県約100名、福岡県約100名、及山口県約50名を割当られたるに付ては、之を引率する為、適当なる者を前項に依り選定し、其の引率者(抱主)に限り陰に行う右婦女の雇入れを認め、其の渡航は以下各項に依り取扱うこと。但し渡航する婦女の出府県は、右指定府県以外にても差支なきこと。
(ハ) 一引率者(抱主)の引率する婦女の数は10名乃至[*3]30名程度と為すこと。
(ニ) 前三項に依り慰安所経営を希望する者あるときは、直に其の引率者たる経営者の住所氏名、経歴及引率予定婦女数を密に電話等に依り内務省に通報すること。
(ホ) 前項報告に基き軍部の証明書を送付するに付、之に依り右醜業を目的として渡航する婦女を密に募集すること。
(ヘ) 前項渡航婦女の内地出港の場合は、
其の引率者氏名、渡航婦女の数、内地出港地名予定月日及、台湾高雄到着予定月日(内地より高雄までの費用は引率者負担)を内務省に通報すること(
此の通報に依り台湾よりの便船を手配す)。尚、高雄よりの便船を用うれざるときは、同地にて広東行便船に依り渡航すること(の場合には船賃は引率者負担とす)。
*2. 抱主 (かかえぬし):女郎屋の主人、*3. 乃至 (ないし):から〜まで
二、渡航婦女
(イ) 醜業を目的とする渡航婦女は、現在内地に於て娼妓其の他事実上醜業を営み居る者にして、満21才以上且身体強壮なるもの。
(ロ) 前項の外、本年2月23日警保局長通牒に依り取扱うこと。
(ハ) 醜業を目的とする渡航婦女に対する身分証明書は、発給前健康証明書を提出せしむるか、又は健康診断を行う等、健康なることを認めたる上、之を交付すること。
三、引率者(抱主)との契約
(イ) 引率者(抱主)と渡航婦女との締結する前借契約は、可成短期間のものとし、前借金は可成小額ならしむること。
(ロ) 其の他稼業に関する一切の事項は、現地軍当局の指示に従うこと。
四、募集
醜業を目的とする渡航婦女の募集は、営業許可を受けたる周旋人をして、陰に之を為さしめ、其の希望婦女子に対しては必ず現地に於ては醜行に従事するものなることを説明せしむること。尚、周旋料等は引率者(抱主)に於て負担せしむること。
五、予防注射、健康診断等
(イ) 伝染病の予防注射は現地に於て軍之を行う。
(ロ) 健康診断は随時軍医に於て之を実施す。
(ハ) 治療に要する衛生材料は経営者の負担とす。但し現地の状況に依り薬品等補充困難とする向に対しては当分の間、軍より之を支給する予定。
六、慰安所設置場所、営指
(イ) 慰安所設置の場所及建物は現地の状況に依り当分の間、軍に於て之を選定使用せしむる見込。其の変更に付、亦同じ。
(ロ) 其の他、軍に於て指揮監督するものとす。
当時の軍や警察の資料を見る限りでは、軍や官憲が主導しての「従軍慰安婦」の「強制連行」が公然と行われていた事を示す記述はどこにもないどころか、むしろ軍と警察は犯罪抑制と不正防止に相当神経を使い、軍名義又は軍関係者を偽って募集が行われる事に関して神経質になり、警察は増え続ける慰安婦に関しての対策に追われていた様子が伺えます。
つまり、軍が慰安所を設けているケースがあっても、あくまでも慰安婦は軍の管轄ではなく、陸軍が嫌がってるのは詐欺や誘拐まがいの手法で募集が行われる事で、またその他のガイドラインに関しては警察の管轄であり、要するに犯罪防止と取り締まりに関して警察が関与するのは、別段何も不思議な事ではないと、素直に読めばそう見えます。
これらの資料を見て、軍が慰安所の設置や運営に関与し警察が慰安婦を容認したから軍や国に責任があるとする意見、またこれらの通知は日本国内に出された物で、朝鮮や台湾での強制がなかったと言う証拠にはならないとする反対意見もあります。
しかし、この通牒を素直に読めば、悪徳業者を取り締まるのに軍と警察が通達を出していると、それだけの話に見えます。それからここまで神経質にきめ細かく犯罪抑止に手配りしてる軍や警察が、一方では悪魔の如く女性を拉致していたなど、どうやったらそこまで変貌出来るのか。また、大陸に業者や慰安婦が渡航した際に、実際その安全を誰が保証していたかと言うと、ここには具体的には書かれていませんが、それは当然軍の管轄だった訳で、強制連行どころか、軍には彼女等の安全を守る責任があった筈です。
もう一つ興味深い点はこの陸軍通牒が南京陥落の3ヶ月後に出ている事で、もし大虐殺やレイプが起こるほど軍の統率が乱れてるのなら、そんな所になぜ慰安婦が大量渡航していたのかと言う点が説明出来ません。
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