Red Fox

未亡人の苦悩

 これは米軍の友軍攻撃を報じたザ・サン紙の2月6日の特ダネ記事の翌日の、犠牲になった英兵の未亡人のインタビュー記事です。

 このインタビューでは、情報隠蔽に関しては英国国防省がグルだったこと、国防省が持っていた交信記録の一部が間違って夫人の目に触れてしまったことでそのビデオの存在を知ったこと、更にその記録自体が編集されたものであったこと、米パイロットが如何なる処分も受けずその後も引き続きイラク戦争で任務をこなしていた事が語られています。


未亡人の苦悩〜マティさんのビデオを見て
キャサリン・リスター(国防記事担当)
2007年2月7日 ザ・サン紙


勇気を持って・・・未亡人のスーザンさんは攻撃の映像を見た
写真撮影:ダン・チャリティ、ピーター・ジョルダン、スティーヴ・フィン
 米国のトップの殺し屋にイラクで殺害されたマティ・ハル兵士の未亡人は、夫の死の瞬間を見て涙をこらえた。勇気を振るってビデオを見たスーザン・ハルさんの目は昨日ザ・サン紙が公表した機密ビデオに釘付けになっていた。

 彼女は「何か隠蔽があることは分かっていました。そしてこれはその証拠です。私が知りたかったことは何がマティに起こったのか、その真実のたったそれだけです。でも誰も私に誠実ではありませんでした。

 この映像を待っていた4年をとても長く感じましたが、夫が2人の愚か者の手によって死んだと言う事実をここでようやくこの目で確かめることが出来ました。」と語った。

 ウィルト州シャフテスブリーの一戸建ての自宅の居間で、小学校教師のスーザンさんに本紙はその映像を見せた。

 テープは存在しなかったと彼女は繰返しそのように聞かされていた。しかし彼女は真実を突き止め正義を得るために時間を惜しまず活動を行った。彼女が10代の時に初めて出会い2000年に結婚したマティさんのために。

 現在30歳のスーザンさんは「ザ・サン紙がこの嘘を暴いたことをとても感謝しています。マティの死に関して何かが決定的に間違っていたことを私は知っていました。当時国防省はどのような違反行為もなかったと言って私をはぐらかそうとしていました。マティは私が会った中で最もプロフェッショナルな男性で、そして最もアンプロフェッショナルな2人と接触した不運によって命を落としたのです。」と語った。



幸福な日々・・・結婚式でのマティ兵士と花嫁スーザンさん

 「米パイロット達は武器使用の許可を得ていなかったが『戦争のもや』の中で混乱が起きたと、私はそのように言われました。その物言いに私は怒りを覚えました。なぜなら攻撃する理由は何もなかったからです。そのパイロット達は攻撃されていた訳ではないし、実際彼等には何の危険も迫っていなかったのだから。

 この映像を見ることが出来て初めて、私は本当の意味で救われました。知った方が知らないままでいるよりまだましなこともあります。私は夫の、かけがえのない人の人生の最後の瞬間を今見ました。全くの無能な人達によって夫の人生は短く切り捨てられたのです。これが夫が死ぬ様子の映像でないことがまだ救いですが、パイロット達の愚かさがショックでした。懲戒を受けることもなく彼等は再び空を飛ぶことを許され、それは同盟軍の他の兵士達をも危険に陥れる行為であったのです。

 私を本当に打ちのめしたことは、そのパイロット達が夫をいとも気楽に殺害したことです。更に酷いことに、その恐ろしい間違いを自覚した時に、彼等は犠牲者よりも自分達の心配をしたのです。マティの人生を終わらせたのは彼等にとっては数秒でも、彼等の行為は私と夫の家族にとって一生癒えることのない悲しみを残しました。私達は打ち砕かれました。夫は永遠に戻らないのです。

 でもそれと同じ位に酷いことは騙され続けていることなのだと気付きました。どれだけ時間がかかろうとも真実を見つける決心をしました。」


 マティさんのいた護衛隊車列への攻撃の後、パイロット達の「ジョーク」と思われる発言に彼女は「吐き気を催した」そうだ。そして両手で顔を覆って絞り出すように言った。「神様、こんなに酷いことってあるの?」


胸が張り裂けそうに・・・未亡人スーザンさんはコクピット表示盤のビデオを見る

 「自分達のやってることが全く分かってない人達によってマティは殺されたのです。彼等は車両の上にオレンジのロケット弾があると話していたけれど、そんなものは存在しなかった。ターゲットが友軍だと分かるチャンスは幾らでもあったでしょう。私は今まで長いこと怒りを感じていましたが、今は悲しみを感じます。時間は痛みを和らげますが、真実を知らされないことは、傷口を何度も何度も切り開かれるように感じます。」

 2003年3月のマティさんの死の8ヶ月後、スーザンさんはロンドンのウェストミンスター寺院でブッシュ大統領に面会した。彼女は「大統領に手紙を渡して、彼は私の手を握って『出来ることは何でもすることを約束します』と言ったにも関わらず、真実は何ももたらされませんでした」と語った。

 「最初の希望が訪れたのは、マティが率いていた護衛隊への攻撃に関する記録文書を閲覧することを国防省が遂に私に許可した時でした。そこにはパイロットの交信記録の一部がありましたが、今この映像を見て、防衛省のものは編集されたものであることが分かりました。

 その後私は書類のコピー、特にコクピット通信記録の全文が欲しいと彼等にメールを送りました。でもそれは国家機密法に抵触するとすぐに返事が来て、受け取ることは出来ませんでした。その通信記録は何かの間違いでその書類に含まれていたもので、私が目にする筈のものではなかったのです。でもそれがその疑いに関して私を確信させた最初のものでした。

 ビデオを入手するのはまだまだ長い困難な道のりであると感じていました。だからザ・サン紙にとても感謝しているのです。夫が戻ることはないにせよ、これは私にとっては一つの区切りとなりました。

 無垢な人達の苦しみをよそに当局は罪人を匿っていた訳ですが、もはやそれは出来なくなったと言う事が、私にとってささやかな慰めです。一人の男の死を認め真実を告げる、たったそれだけの事すらも出来ず、彼等はそのミスを隠ぺいすることばかり考えていたのです」


 昨夜スーザンさんはアメリカ側がマティ・ハル兵長の審理のためにその映像を公式に公開すると言うニュースを受けて非常に喜び「とても上手く行ったと思う」と語った。

http://www.thesun.co.uk/article/0,,2-2007060292,00.html
訳:Red Fox

 朝日新聞が言及していた「2月7日のインタビュー」とはこの記事のことでしょう。「打ちのめされた」と言う表現が使われているので、この記事を見る限りでは未亡人のインタビューに関しては朝日の訳は順当のようです。

朝日新聞:
『攻撃で死亡した英陸軍のマティー・ハル伍長代理(当時25)の妻で、小学校教諭のスーザンさん(30)は7日付のサン紙のインタビューで、「操縦士たちがいとも簡単に夫を殺したと知り、打ちのめされた」と語った。』
The Sun:
 これが夫が死ぬ様子の映像でないことがまだ救いですが、パイロット達の愚かさがショッキングでした。... 私を本当に打ちのめしたことは、そのパイロット達が夫をいとも気楽に殺害したことです。
Thankfully it's not graphic in any way, but it is shocking because of the pilots' stupidity. ... What has really hit me hard is that these pilots killed my husband in an almost casual fashion.


2007年3月、BBCのインタビューに答えるスーザンさん (Photo: BBC)
 朝日の記事のインタビューの抜粋を見ただけでは未亡人の人柄までは分からなかった訳ですが、実際これだけの長さのインタビューで彼女がどういう言葉を使っているかなどを見れば、初めてその人柄が見えて来ます。犯罪被害で活動家になったヒステリックな復讐劇など、そういう種類の人とは違う感じがします。ただし、未亡人の論調の大半は「打ちのめされた」ではなく「私は救われました」です。


 これはイギリスの大衆紙なので、アメリカ追従のブレア批判、フォークランド紛争以降の根強いイギリスの反戦風潮、イギリスの愛国心を刺激する反米記事、更にお涙頂戴の悲劇物語など、とにかく大衆受けの要素が満載の印象はあります。

 尤も、未亡人に夫を殺害した瞬間の戦闘機のコクピット映像を見せてそれを取材すると言うワイドショー並の悪趣味さがタブロイド紙らしいと言うか、ただこの場合は事件を公にすることそのものが未亡人の望んでいることなので、そういう点両者の利害関係が一致していたとも言えます。


2007年3月、ブッシュ大統領宛の声明を発表するスーザンさん (Photo: Press Association)
 ここまで読んで分かる事は、ビデオの存在を最初に突き止めたのは未亡人であり、英国防省が交信記録を持ちながら「ビデオは存在しない」と隠蔽の片棒を担いでいたという事です。それで恐らく彼女かその支援者がザ・サン紙に話を持ちかけて、恐らく彼女の支援グループが中心になって米軍の造反者を巻き込んで暴いた話のようにも見えます。

 いろいろな点を総合してみると、どうもサン紙への情報はアメリカから直接入ってるのではないかと、そもそも米国国防総省や英国国防省の公認ビデオが編集版なら、編集される以前のもの、つまり現場に直接関わった軍関係者から出たとも考えられます。



イラクでのマティ・ハル兵士 (Photo: ITN)
 ただ一連の記事を見た印象として、ザ・サン紙の書き方に関しては「イギリス兵を誤撃したアメリカ兵を『殺人パイロット』『殺し屋』と呼ぶのなら、イラクを空爆してイラク軍兵士や民間人を殺害したイギリス兵は『殺人パイロット』ではないのか?」「一人の悲劇を盛大に演出するのなら、その他数多くの悲劇は問題ではないのか?」、未亡人に対しては「敵との戦闘で死亡したなら酷いことではないのか?」「軍人と結婚したのは自身の選択」などいろいろ突っ込みどころはある訳ですが、彼女が問題にしてるのは隠蔽行為の方ではあります。

 パイロットの通信記録を見ても、手柄を立てたいと言うのが最初の動機に見えます。それから、敵を潰してなるべく早く戦争を切り上げたい、敵の戦力を見逃したらそれは自分達の危険となると言う心理は働くでしょう。

 ブッシュ大統領は未亡人に対してリップサービスをしたようですが、結局それだけの事だったようで「力になります」と言うだけなら誰だって言える訳です。拉致問題ともダブリます。




特集『米軍機による英軍誤爆事件』
 1. イラク戦争時に米軍が英兵士を誤爆、コックピット生映像がTVに流出 (2007.2.12)
 2. 命中の浮かれ騒ぎは一転して戦慄に (2007.2.14)
 3. ザ・サン紙の圧力に米国防総省が屈服 (2007.2.15)
 4. 米軍パイロットの実名報道 (2007.2.17)
 5. 未亡人の苦悩 (2007.2.18)






ご訪問有り難うございました。

日頃ランキングにご協力頂きありがとうございます。
  • 『With2人気ブログランキング』は、ランキングサイトからのアクセスが多いので参加しておりますが、これはバナーアイコンをクリックしてこのブログ上から直接ランキングサイトにアクセスする事でカウントされる仕組みになっており、1つのIPアドレスは1日に1カウントまでです。クリックを宜しくお願い致します。m(_ _)m

  • 『ブログ拍手』はFC2独自のデフォルト機能で、これはランキングではありませんが、各エントリーの反響に関する参考にさせて頂いております。

当ブログからの引用
  • 当ブログはリンクフリーとするので、私の文章及び訳の引用にその都度許可は必要とはしませんが、引用元の明示を必ずお願いします。また当ブログ上の引用記事や写真等は著作権の関係上可能な限り出典元を明記しておりますが、それらの二次転載によるトラブルに関しては責任を負いかねます。

リンク先
  • 引用記事や写真には出典元提示のために元サイトのリンクを埋めてありますが、特にウィンドウズユーザーの方に関しては中国サイトなどウィルスに関する安全の保証は出来ないので、海外サイトのうち大手メディアを除く個人サイトなどはクッションURLを埋め込む事で対応しておりますが、そこから先は十分注意して個人の責任でお願い致します。

コメント
  • 基本的マナーの欠落したコメントや返事の必然性のないコメントに対してはレスはしません。リンクやメアドのないステハン投稿者(こちらから追跡出来ない相手)による中傷、荒らし目的などのコメントは予告なしに削除およびアク禁に、悪質なものに関してはIP公開などの手段を取る事もあります。なお、レスがついたコメントを削除または内容の差し替えを行う行為はルール違反なので以後閲覧禁止とします。

トラックバック
  • コメント欄やTBを解放していないブログ、キーワード系や宣伝・営利目的ブログ、および当ブログとは著しく無関係の内容のTBは受け付けておりません。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

ホームページ アフィリエイト レンタルサーバー FC2ブログ 専門学校