Red Fox

『俺は君のためにこそ死ににいく』英米とオーストラリアでは

 先週公開された映画『俺は君のためにこそ死ににいく』に関する海外の反応として、ロイター通信の記事と、オーストラリア放送協会のラジオ放送の訳を紹介します。

 まず以下のロイター通信の記事ですが、Googleニュースで引っかかっただけでも、アメリカのワシントンポスト、フランスのヘラルド・トリビューンを始め、イギリス、インド、オーストラリアの17のメディアに掲載されています。特にオーストラリアで多くのメディアがこの記事を掲載していて、特攻隊に一番関心のある国は実はオーストラリアであると言うことが分かります。一方、中韓の英語メディアでこのニュースを扱ってる所はありません。

 この記事で書かれているニュアンスとしては、この映画は平和へのメッセージであることですが、日本の憲法改正案に絡めた書き方をしており、また特攻隊は「自暴自棄」であるとの視点で、更にこれは戦争美化ではなく日本の観衆も愛国映画的な受け止め方はしていないとの記述となっています。また、特にアメリカでは、特攻隊と911テロやイラクの自爆テロが比較されがちなのですが、そういう面にも若干触れています。

 この記事を書いたイサベル・レイノルズ記者はロイター通信の東京特派員。

(Photo: USEN Group)


日本の第二次大戦の「神風」映画は平和への問題提起をする
ロイター通信 2007年5月12日 (土) 6:44EDT
イサベル・レイノルズ

 【東京:ロイター通信】東京のナショナリスト知事によって書かれた、日本の戦時中の「神風」特攻隊隊員を讃える映画が土曜日に公開され、観客の愛国的よりも平和主義的反応を引き起こした。

 第二次大戦の敗戦以降、60年に渡って日本の軍事活動を厳しく制限して来た米国作成の憲法を改正するための投票に向かって日本政府が進んでいる中、この映画が製作された。

 『俺は君のためにこそ死ににいく』は、作家から政治家になった石原慎太郎氏(74)によって書かれ、爆薬搭載機を米軍艦に体当たりするために訓練された青年達から母親のように慕われた、食堂経営者女性の実話によるものだ。

 日本南部の島、九州の知覧にある鳥濱トメさんの食堂は、10代や20代初めの特攻隊訓練員の家のような存在であった。彼らは第二次大戦の最後の月に、米国の侵入を死にもの狂いに防ぐための究極の犠牲となるための準備をしていた。

 学校での国家斉唱強制を導入するなど、石原氏は愛国者として知られているが、制作費18億円のこの映画から聴衆はそれとは違ったメッセージを受け取った。

 東京中心部の映画館でこの映画を見終わった、ヒロと名乗る58歳の会社員は「この映画は決して戦争をするべきではないと私達に考えさせるものだ。戦争は悲惨であり苦痛しかもたらさない」と語った。

 新城卓監督は戦時中の日本の極端な政策を美化する意図はなかったと言っている。「一言で言えば、当時の軍幹部は卑劣であったと思います。彼らは純粋で未経験な若者を徴集し死に追いやった。彼らは責任を取るべきです」と、新城監督は火曜日のインタビューでそう語った。

 新城氏と石原氏の両方ともが、戦時中の神風と現代の自爆攻撃者の違いを強調しているが、多くの人はそれら2つの現象には共通点があると考えている。

 今年中に日本で公開される特攻隊ドキュメンタリー映画『Wings of Defeat』(敗北の翼) の制作に携わっているリンダ・ホーグランド氏は「片道任務のために若者を選び、彼らをその気にさせる方法には、見過ごす事の出来ない類似性があります」と指摘している。

自暴自棄

 日本がフィリピンのコントロールを失う間際、大西瀧治郎海軍中将は米国艦に航空機を突入させると言う破れかぶれの戦略を始めた。1944年のレイテ島での最初の「神風」の攻撃の成功は、更に多くの若者を募集するきっかけとなった。会社員のヒロ氏は「自殺攻撃は日本の戦前の軍国主義の必然の結果で、ある種の宗教じみたものです」と言った。

 日本の百科事典によると、戦争末期の数ヶ月で、2000機以上の飛行機が使用され、34隻の米国艦が特攻隊によって沈められたとある。

 戦時中の空襲を経験した80歳の人は「その戦いを知らない人に理解するのは難しいだろう」と語った。鈴木国光氏は映画を見終わって「彼らを誇りに思うとは感じません。彼らがどのように教育されそして強制されたのか、彼らは他に選択はないと感じていたのではないか」と語った。

©ロイター通信2007
http://www.reuters.com/article/filmNews/idUST26213420070512 [魚拓 1 2]
訳:Red Fox

 2001年に911があった直後は、アメリカのテレビは狂ったように日本の特攻隊や真珠湾の映像をテレビで流していて、私もいささか不快な思いをしていたのですが、アメリカは独立戦争以来本土攻撃と言うものを経験してない国なので、911はショックが大きかったようで、そこで比較の対象に出来るのが特攻隊と真珠湾しかなかったと、結局これには余り深い意味はないのかもしれません。



鳥浜トメさん(鹿児島県知覧町にて昭和20年) (Photo: 草思社)
 英語で自爆攻撃に該当する言葉では「suicide attack」(自殺攻撃) 、「suicide bombing」(自殺爆撃) 、「suicide terrorism」(自殺テロ) などがあり、意味によって使い分けられており、第二次大戦の軍事作戦として用いられた「kamikaze」を「suicide terrorism」と表現する事はないとは思うのですが、日本のメディアこそが海外の自爆攻撃を一律に「自爆テロ」と訳してるために、日本国内で「特攻隊は自爆テロではない」と言う議論が出て来る一因にもなってるように思えます。

 ただ西欧では「自殺」と「殉教」の定義の問題があるので、本人の意思でなく強制されたものか、本人の望んだものなのか、それとも状況的に納得したのかなどの違い、殉教だとすれば日本人のその対象は国家神道であるのかなど、あとは「自己犠牲」と絡めたりなど、彼らなりに理解しようとはするみたいですが、西欧人からみればイスラム殉教とも共通したものに見えてしまうのかもしれません。

 この映画の英題は『For Those We Love』(我らが愛する人々のために) ですが、原題の一人称から複数に変えられ、更に「死ににいく」の部分が含まれていません。


 次の記事は、オーストラリア放送協会 (ABC) の12日のAMラジオでこの映画が紹介された時の放送内容。オーストラリアの方がやや政治的な主張は控えた内容となっています。

論議を呼んだカミカゼ映画が日本で公開
オーストラリア放送協会 2007年5月12日 (土) 08:28:00
レポーター: シェーン・マクロード

エリザベス・ジャクソン:
 引き続き映画の話題ですが、今度は日本の映画です。今週末に巨額を投じて制作されたカミカゼ映画が封切りになります。その内容がオーストラリアの高年層に不快なものかもしれないと言う心配もあります。それは第二次大戦末期に連合軍の船舶に多大な被害と死者をもたらした、自殺攻撃の特攻隊員の映画です。それでは北アジア担当のシェーン・マックロード特派員です。

(『俺は君のためにこそ死ににいく』の音楽)

シェーン・マックロード:
 数百万ドルの予算、豪華キャストとポップスのサウンドトラックで、『俺は君のためにこそ死ににいく』は日本のヒット作になるべく、作られたように見えます。

 この巨額の予算を投じて制作されたこの映画は完成までに1年以上かかり、特攻隊基地の近くにあった軍指定の食堂を経営していた女性の鳥濱トメさんの実話を基に作られています。若い青年パイロット達と彼女の触れ合いと、帰ることのない任務に旅立つ彼らの出撃を彼女が見届ける物語です。

(『俺は君のためにこそ死ににいく』からの抜粋)

 日本の自殺攻撃隊の映画は常に論議を引き起こしていますが、この映画の作者と制作責任者がどういう人物かと言う事で、よりいっそう論議が白熱しています。時折好戦的になる石原慎太郎氏は東京都知事であり、都市の事実上の市長です。彼は日本の歴史や在日移民に関して歯に衣着せぬ意見を述べる政治家として知られています。

 新城卓監督は、これが難しいテーマである事は分かっていたが、戦場に向かった若者達の現実を見せる映画を作りたかったと語っています。「私は戦争を賛美したり美化する意図は全くありません。軍の指揮官がこれらの若者達に、彼らがしたことをするように命令したと言う事実を考えた時、怒りすら覚えます」

 日本の戦時の主要なテーマとして巨額の予算で制作された一連の作品で、この映画が最新のものになります。このテーマにはよく、ラブストーリーの演出が加えられた犠牲物語の脚色がされます。

 しかし、この映画は周辺国家の反発を招く恐れがある内容を含んでいます。日本は頻繁に中国や韓国から歴史歪曲と非難されています。この映画の登場人物の一人は日本人の俳優が演ずる若い朝鮮人の役であり、特攻任務につくことを望み、朝鮮民謡を歌いながらその準備をする人物ですが、これは実在の人物がモデルになっています。

 新城監督は「この映画は政治的議論でなく、日本防衛のために送られた若者達の現実である」とコメントしています。映画は今週末に全国で公開されます。

 AM東京レポーター、シェーン・マックロードがお伝えしました。

©2007ABC
訳:Red Fox


(Photo: 知覧特攻平和会館)
 両方の記事で新庄監督は軍幹部への批判を語っていますが、昨今死亡したSATの林一歩巡査部長がなぜ死ななければならなかったのかと、その議論とも通じるものがあります。なぜそこまで至ったのかと言う点は、反戦思想も美化も一切排除して検証されるべきものだと思います。

 民間人を狙った騙し撃ち無差別殺人の自爆テロとの比較論は論外として、「お国のために」「天皇陛下のために」と言う、アイデンティティやその象徴に自分を捧げると言う精神的なものと、それまでの上層部の失策の尻拭いと言う現実、それから特攻隊員が身を呈した意味自体を否定する一億総玉砕の矛盾、これらは混同してはいけないと思います。

 特攻隊作戦自体は、人間と航空機を使い捨てとした時点で軍事作戦としては限りがあり終わりが見えてるもので、その時点で戦争に勝つ意思などとっくになかった訳です。欧米から見て理解出来ない点は、勝てない戦争のためになぜ更に命を落とすのかと言う、そういう部分が大きいのだろうと思います。ロイター通信はそれを「破れかぶれ」「自暴自棄」と表現しています。当時の日本国内の価値観はともかく、国際常識的にはそのように見られているのは仕方ないのかもしれません。


posted by nagumo4 (2007.2.14)


ご訪問有り難うございました。

日頃ランキングにご協力頂きありがとうございます。
  • 『With2人気ブログランキング』は、ランキングサイトからのアクセスが多いので参加しておりますが、これはバナーアイコンをクリックしてこのブログ上から直接ランキングサイトにアクセスする事でカウントされる仕組みになっており、1つのIPアドレスは1日に1カウントまでです。クリックを宜しくお願い致します。m(_ _)m

  • 『ブログ拍手』はFC2独自のデフォルト機能で、これはランキングではありませんが、各エントリーの反響に関する参考にさせて頂いております。

当ブログからの引用
  • 当ブログはリンクフリーとするので、私の文章及び訳の引用にその都度許可は必要とはしませんが、引用元の明示を必ずお願いします。また当ブログ上の引用記事や写真等は著作権の関係上可能な限り出典元を明記しておりますが、それらの二次転載によるトラブルに関しては責任を負いかねます。

リンク先
  • 引用記事や写真には出典元提示のために元サイトのリンクを埋めてありますが、特にウィンドウズユーザーの方に関しては中国サイトなどウィルスに関する安全の保証は出来ないので、海外サイトのうち大手メディアを除く個人サイトなどはクッションURLを埋め込む事で対応しておりますが、そこから先は十分注意して個人の責任でお願い致します。

コメント
  • 基本的マナーの欠落したコメントや返事の必然性のないコメントに対してはレスはしません。リンクやメアドのないステハン投稿者(こちらから追跡出来ない相手)による中傷、荒らし目的などのコメントは予告なしに削除およびアク禁に、悪質なものに関してはIP公開などの手段を取る事もあります。なお、レスがついたコメントを削除または内容の差し替えを行う行為はルール違反なので以後閲覧禁止とします。

トラックバック
  • コメント欄やTBを解放していないブログ、キーワード系や宣伝・営利目的ブログ、および当ブログとは著しく無関係の内容のTBは受け付けておりません。

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

ホームページ アフィリエイト レンタルサーバー FC2ブログ 専門学校