先月に英紙タイムズに掲載された、ロールスロイスとシェルなど英国経済の中枢企業のネットワークシステムに中国のハッカーが侵入したという記事を2本紹介しましたが、今回は先月末にワシントン・タイムズに掲載された、米国の安全保障局 (NSA) が中国のダミー会社によって通信傍受などの機密情報が盗まれたニュースの記事の全訳を紹介します。虎御前さんに情報提供を頂きました。
記事の概略は産經新聞に詳しく書かれていますが、要するに、ハワイにある米国国家安全保障局 (NSA) の施設が、中国やアジア諸国の通信傍受記録などの機密情報の英訳を委託した翻訳会社が中国のダミー会社で、機密情報が中国に筒抜けになっていたらしいという事、それから中国がターゲットにしてるのが、中国系アメリカ人のスパイ獲得工作である点などが触れられています。
オペレーション地下施設の入り口 (Photo: Paul Hanrahan)
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中国はアメリカでのスパイ活動に踏み込む
ビル・ガーツ
ワシントン・タイムズ 2007年12月21日
米国情報関係者によると、安全保障局 (NSA) のハワイ施設の機密である通信傍受内容が、中国語翻訳会社を通じて中国情報機関に筒抜けになっていたとの事だ。
スパイの侵入は海軍犯罪捜査局 (NCIS) の対スパイ捜査によって数年前に発見され、コードやその他電子秘密情報収集と、そのアクセスもろとも軍人・軍属をスパイ獲得工作する中国の大規模な活動の存在が調査によって判明した。
中国最大の情報機関である国家安全省が、米国企業を偽った翻訳会社をハワイに作る事でスパイ活動を行ったと、匿名を条件に政府情報筋は語った。
その策略は、安全保障局の哨所・航空・船舶傍受ネットワークが収集した数百万件に及ぶ通信傍受記録の一部の英訳を、海軍と安全保障局をこの会社に機密に委託させる事から始まった。
![]() クニアの国家安全保障局/海軍治安グループのクニア地域安全オペレーション地下施設の入り口 (Photo by CTMC Karl F. SItler, USN) |
クニアの施設は、中国とその他アジアの言語の膨大な量に及ぶ通信集計・処理地であり、それらの通信は軍事・政治目的の機密情報報告書を作成するために英訳されている。
中国のスパイ侵入の件に詳しい海軍の情報関係者は、クニア施設の分析済みの情報とその「原文」が流出し、米国の監視対象や情報源などの詳しい情報を中国政府が把握した事は米国諜報活動にとって深刻なダメージであると語ったが、中国のスパイ活動が発見される前にどれ位の期間行われていたかについては言及しなかった。
海軍犯罪捜査局はまた、中国の主な情報活動として、中国系米国人のスパイ獲得工作と、クニア施設の機密情報にアクセス権のある軍人・軍属職員に対するスパイ獲得工作が行われた事を発見した。
その関係者によると、2005年に海軍の暗号技師が中国政府が経費負担をした中国へのただ旅行をした事で逮捕された後に、情報職員への中国のスパイ獲得工作が発覚したという。
それを発端として海外犯罪捜査局は徹底調査を行い、その他の情報部員が中国のスパイ獲得工作の標的になっていた事をつきとめた。その多くが退職直前であった。
中国系米国人に対するスパイ獲得工作は同様の戦術がある。中国の情報機関は情報局員などを使って、機密情報にアクセスのある中国系米国人を見つけ、親族を訪ねるなどの中国旅行を提供するなどし、そしてそれを理由にそれらの中国系米国人をスパイとして獲得するという作戦である。
中国系米国人グループは以前に、アジア系米国人がスパイのターゲットであるとした米国政府を非難し、対情報活動職員を人種差別として訴えている。しかし中国のスパイ獲得工作活動は、中国政府がそれらの民族グループによってスパイ活動拡大を目指している事を示している。
安全保障局と海軍犯罪捜査局の広報担当は、ハワイにおける中国の情報収集活動に関する質問への回答を示さなかった。
![]() I. C. スミス元FBI諜報員 (Photo: PBS) |
スミス氏はまた、それが古代中国の戦略家・孫子の「先見」の究極例であるとし、「情報機関にとって敵のコードと電子情報を把握する事以上の標的はありません。それは中国の国安部や2PLAにとっても同じ事です」と語った。
スミス氏は、米国の電子情報とコードの収集は米国が何を知っているかの具体的な情報を中国にもたらし、「仮定ではなく知識による」防衛策を中国政府に与えるだろうとし、「確信を持って嘘情報を流す事も可能であり、それは基本的に敵に対して情報機関が有利になる事であります」と語った。
安全保障局のハワイ・オペレーション・センターには数千人の職員がいて、昨今では3億5000万ドルの予算に膨れ上がっている。安全保障局の8月の広報は「(この拡大は) 強力な脅威の状況に弾力的で機敏で効果的に対処する、地球規模の暗号解読発展への安全保障局の努力の一面である」と書いている。
その情報共有制限のポリシーのため、その機関は過去にも情報改革の提案がされていた。
先日の英タイムズ紙に書かれているのと同様に、どうも華僑系移民をターゲットに、中国国内の家族や親族を人質にスパイ獲得工作活動をやるというのが中国の常套手段のようですね。ここで書かれている「Chinese American」(中国系米国人) というのは米国籍保有者であり、こういう国家機関で働くという事は米国で生まれ育った2世か、在米が長い1世でそれも優秀なキャリアの持ち主と思われますが、「中国へのただ旅行」「退職直前」というのは恐らく移民1世がターゲットではないかと思われます。
今回に関して言えば、シェルやロールスロイスの大企業への高度なハッキング技術なんてものではなく、中国が作ったダミー会社を米国の国家安全保障局が信用してしまったという大失態であり、やはり民間委託が進んでいるアメリカならではの問題にも見えます。
このニュースは産經新聞が記事にしていますが、産経新聞が主に情報源にしたのがこのワシントンタイムズの記事です。当ブログではワシントンタイムズの記事は昨年8月に、中国が米軍に太平洋分割統治を持ちかけたというニュースを紹介していますが、記事を書いたのは同じビル・ガーツ記者です。
ワシントンタイムズは1982年にレーガン政権が財閥にに呼びかけて保守系新聞として創刊された日刊紙で、その論調は一貫して保守の親共和党。そのバックにあるのが統一教会であるという不思議な新聞ではあります。前回の記事でも目立っていたのが、情報筋を明らかにしないながらも随分軍関係とコネクションがあるような書き方で、それは今回も同様であります。
関連記事:
中国に通信傍受筒抜け 翻訳、ダミー会社に委託 (産經新聞 2007.12.22 18:59) [魚拓 1 2]|
【ワシントン=山本秀也】米紙ワシントン・タイムズは21日、ハワイで中国の通信を傍受していた米国家安全保障局(NSA)の施設が、中国の情報機関が作ったダミー会社に業務を委託した結果、機密である監視対象や傍受内容が中国側に筒抜けになったと伝えた。業者への不十分な背景調査による大失態だが、米側の情報専門家は、軍や行政機関で急増する「民間への業務委託」を利用した工作ルートとして警戒を促している。 複数の米政府筋の話として同紙が報じたところでは、情報を盗まれたのは、ホノルル近郊のクニアにあるNSAのアジア向け通信傍受施設だ。傍受記録の英訳をハワイの翻訳会社に委託したが、この会社が中国最大の情報機関である国家安全省が作ったダミー会社であることが発覚した。 会社名や情報漏れの期間は報じられていない。事件は米海軍犯罪捜査局(NCIS)の対スパイ捜査から判明。数百万件もの傍受記録がこの会社に渡った結果、監視対象から米側の情報源まで中国側に把握された。 米海軍の情報関係者は、この失態で情報収集に支障が出たほか、米側を混乱させるための「偽情報」を流す中国側の工作まで手助けした懸念を示した。NSAに対しては、国家安全省のほか、中国の軍事情報機関である総参謀2部も工作を担当している。 業務委託の接点を通じて、中国側はこのほかNSA内部の軍人・軍属に対しても、スパイ獲得工作を図った。同紙は中国系米国人への工作を伝えているが、ハワイの連邦地裁に起訴された別の中国スパイ事件では、契約業者のインド系技師が中国の巡航ミサイル開発に有益な米側のレーダー回避技術を渡していた。 民間への業務委託が盲点となった事件について、米国防情報局(DIA)の日系元工作員、マイケル・タンジ氏は、ブログで「(問題となった翻訳は)10年前ならいずれも軍人か政府の文民職員がやった仕事ばかりだ」として、とりわけ翻訳の業務委託からの情報漏れの懸念を訴えている。 |
関連エントリー:
・中国の「太平洋分割管理」案 海外での報道は? (2008.3.14)
・シェルとロールスロイスに中国のスパイ攻撃(英紙タイムズ) (2007.12.21)
・英情報局保安部は中国のサイバースペーススパイの脅威を警告(英紙タイムズ) (2007.12.19)
・『中国、太平洋の東西分割提案か』ワシントン・タイムズ記事全訳 (2007.8.21)
・不正輸出のヘリ基に、中国が無人ヘリを開発 (2006.1.25)
・「ヘリの軍事転用不可能」、中国企業がHPで声明発表 (2006.1.28)
・中国当局、拘束のNYタイムズ紙助手を機密漏洩罪で起訴 (2005.12.25)
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