
エベレストでの自由チベット抗議の3ヶ月後、北京オリンピック1年前のカウントダウンの前日の2007年8月7日の朝には、『自由チベット学生組織』によって万里の長城に「自由チベット2008」の垂れ幕がかけられ、英国、米国、カナダ人メンバーが中国当局に拘束されるというハプニングが起こっています。
その結果、垂れ幕設置を実行した米国人3名、カナダ人2名、英国人1名の6人がまず拘束され、その後この自由チベット学生組織のリーダーであるカナダ国籍チベット人のラドン・テトンさんら2名が翌日8月8日の午後に北京で拘束され、その後全員が釈放され国外退去となっています。
ワイヤーに吊り下がって垂れ幕の設置を実行しているのはカナダ人の2人で、そのうち右側のサム・プライスさんは、6年前に中国のカナダ通商使節団に抗議行動を行い4時間拘束された後にカナダに送還されているという人物です。
(このエントリーはシリーズの2本目です。前エントリーはこちら)


サム・プライスさん (カナダ)

メラニー・ローウールさん (カナダ)
この時もやはりエベレストの時と同様に、撮影終了後に直ちに抗議活動実行の5分ぶんの実況映像がYouTubeにアップされており、カナダCTVの記事によれば中国の監視を避けるために携帯電話で撮影されライブウェブカムのネット経由でニューヨークの本部に送られ、そこからYouTubeにアップされたとの事。結局釈放される時に携帯を没収されなかったため、彼等の帰国後の8月11日に以下の高画質版がYouTubeにアップされています。
万里の長城での自由チベット抗議活動 (高画質)
Free Tibet Great Wall Banner High-Resolution (0'58")
Posted by SFTHQ (2007.8.11)
4月のエベレストでの抗議活動は、チベット内で初の国外の活動家によるオリンピック批判となったという事であり、その 4ヶ月後の万里の長城の垂れ幕は2時間そのままの状態だったらしく、オリンピックのカウントダウンに浮かれる北京で、中国当局にとっては面目丸つぶれの大失態となった事でしょう。
ここで面白いのは、実際YouTubeが一般的にポピュラーになったのは2006年の夏以降で、これは本当にまだ新しいツールであり、数年前には考えられなかった方法で世界にメッセージが発信されてしまうと言う、例えば昨年春の『フェイク・オブ南京』や年末の『白豪主義オーストラリアと反捕鯨』など非常に反響の大きい動画がYouTubeに出現して物議を醸し出したりなど、文字サイトよりももっとダイレクトにメッセージが伝わり易い映像メディアを発信する手段を一般ユーザーが持ってしまった事により、当局が取り締まる前に証拠映像をネットに流してしまうというゲリラ戦法が可能になったという、中国にとっては丁度北京オリンピックに先駆ける2年ほどの間に発達したメディアによって、世界に情報が筒抜けになってしまうという何ともタイミングの悪い事態とも言えます。
特に中華は伝統的・文化的に「体面」を異様に気にする面があり、同様に共産主義政権も体面に拘る傾向があり、更に多民族をまとめている巨大国家というこれもまた体面と秩序が崩れるのを異様に恐れれる面があるからこそ、あそこまで台湾問題に執着しているのが中国であり、要するに「体面」が中国の最大の弱点の一つではあります。
また、携帯電話にカメラ機能が標準で付くようになったのはこの4-5年ほどの事で、動画撮影機能が付くようになったのは更に最近の事。それが若い世代中心の活動グループだからこそいとも自然に最新テクノロジー前提の活動になっている訳です。
これらの計画は1年前から周到に準備されていたようです。
それにしても中国も欧米の若者におちょくられていますね(笑) これが同じ事でも中国人民がやったらかなりヤバイ事になりそうですが、まずオリンピック前という時期に垂れ幕を下げたというだけの理由で米国民、英国民、カナダ国民に対して下手な事は出来ないという状況であろうし、大抵が数時間から2日で釈放されている訳で、中国の対応も随分と甘くはなっている印象です。
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万里の長城の「自由チベット」抗議をカナダCBCニュースが報じる CBC News Covers Free Tibet Protest on Great Wall (3'12") 2007年8月7日 聞き取り・訳・字幕:Red Fox The original was posted on YouTube on 10/15/07 by Rangzen08 http://youtube.com/watch?v=Nj-QMxmh9gA (テキストで見る) |
同じ頃、自由チベット学生組織 (SFT) のテトン代表はIOCロゲ会長との接触を試みる
この万里の長城の垂れ幕の設置が行われていた7日朝には、自由チベット学生組織 (Students for a Free Tibet) のラドン・テトン代表が、北京のハイアットホテルでIOCのロゲ会長と接触を試みてけんもほろろにされたという裏話もあります。
2008年北京オリンピックが1年後に迫った昨日8月8日は中国にとってはお目出度い日であった。ただ残念ながらチベット独立運動とその広報活動で有名な、自由チベット国際学生組織ののラドン・テトン代表が容疑不詳で中国当局に拘束された。彼女はオリンピックの1年前における中国の人権状況の調査のために中国に6日間滞在しただけだった。
チベット人女性のテトンさんはカナダで生まれ育ち、この10年間は若者によるチベット独立運動を築くのに熱心に活動している。彼女は数多くの場でチベットの状況に関して語り、特に1998年にワシントンDCで開かれたチベット自由コンサートでは6万6000人の前で演説を行った。彼女はまたブログ『北京ワイド・オープン』で膨大な数の支持者を得ている。 北京滞在3日目に、彼女のブログは広く知られるようになった。特にチベットでは多くの人が彼女の勇敢な中国訪問を見守っていた。チベットのために彼女が自分自身の自由を危険に晒していたからである。拘束される前にテドンさんは「オリンピックは中国に変化を促すチャンスであり、北京政権の仮面を剥がすのが私達の責任です」と語った。 まず中国当局は数人のガードマンをテドンさんに同行させたが、5日目には30人の私服SPや車両が彼女の一挙一動に付いて廻った。 8月8日の朝、万里の長城に「自由チベット」と書かれた垂れ幕が海外の活動家によって吊るされた事を彼女はブログで報告し、「言葉になりません。6人の驚くべき人達がチベットの人々を守るために火中の栗を拾ったのです」と書いた。3人のアメリカ人、2人のカナダ人、1人のイギリス人の6人が、2時間後に国家安全を脅かしたという告発で拘束され、活動家達の現在の状況は分かっていない。
『北京ワイドオープン』に投稿された読者投稿には、彼女と万里の長城での活動に対して多くの支持のコメントが寄せられた。 「長城の6人に感謝します。希望、涙、大胆な行動による不屈のサポート、勇気とそのリスクでもって皆さんは私達を満たしてくれました。安全を祈っています。どうもありがとうございました」 「頑張れ自由チベット学生組織とラドンさん! 自由チベット! IOCよ恥を知れ。諦めるな! チベットは自由になる!」とのコメントもあった。 テトンさんは8月7日にジャック・ロゲIOC会長と面会して、中国とその人権問題に対して話す事を試みていたが、面会が断られたためにホテルに直接出向き、彼を待っていた。ロゲ会長が現れたので彼女は彼をつかまえてチベットの事を話したいと伝えたが、完全に無視され、警備員に押しのけられたと、自由チベット学生組織のテンジン・ドルジ副代表はニューヨークから電話で本紙に対し語った。 8月8日にテトンさんは、チベット自由運動の長年の支持者である仲間のポール・ゴールディングさんと共に中国当局に拘束され、まず北京警察に連れて行かれ取り調べを受け、それから香港に送られそこで開放された。 ドルジさんは「平和と人道というオリンピックの理想を中国が宣言するまさしくその瞬間に、中国はテトンさんが北京オリンピックやチベットに関して自由に意見を述べる事を許さず黙らせたという事です。この1年前のカウントダウンは、中国が自由で開かれた社会と宣伝する努力と相反する露骨なプロパガンダを露呈させる事となりました」と語った。 そのような状況でブログに書かれたラドンさん自身のコメントは更に率直であった: 「中国政府が世界に嘘を売ろうとする、これはまさしくそういう事です。彼等はオリンピックのスポットライトが欲しく、国際的なイメージを良くしたいだけであって、実際その権威主義を変える積もりなど更々ないのです。首都を飾り付けているだけに過ぎず何ら問題は改善していないのです」 テトンさんとゴールディングさんが香港で開放された報告を受けドルジさんは、テトンさんがまた中国に戻る事が出来る事を信じていると付け加えた。彼女の望みは中国の人権蹂躙を報告しチベットの自由のために戦う事であると。 |
ハイヤットホテルでのロゲ会長との一部始終を彼女の同行メンバーがビデオで撮影しており、早速それを同日YouTubeにアップ。
ラドン・テトンがジャック・ロゲ会長のインタビューを試みる
Lhadon Tethong tries to interview Jacques Rogge
Beijing Hyatt, August 7th, 2007 (3'20")
Posted by beijingwideopen (2007.8.6)
(これは通信障害で音声が非常に不明瞭で内容が半分位しか聞き取れないので訳は不可能)
実際彼女は、この前日の8月6日に天安門広場からIOCに電話してロゲ会長との面会を申し込んでおり、
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IOCへの電話 Conversation with IOC (4'35") 2007年8月6日 訳・字幕:Red Fox The original was posted on YouTube on 8/6/07 by Beijing Wide Open http://jp.youtube.com/watch?v=8BIrj726RvE (テキストで見る) |
しかし返事が来なかったため、6日の晩に彼女がハイヤットホテルを訪れ、彼女がをブログ上にポストしたロゲ会長への手紙、それから天安門広場でIOCへ電話した様子をYouTubeにポストし、世界中がそれを見る事が出来、既に2万人のアクセスがあったとマネージャーに伝えたため、IOCのコミュニケーション・コーディネーターのロバート・ロックスバロー氏と非公式の面会を持ち、最終的に多忙を理由にロゲ会長との面会を断られ、翌日にもう一度ホテルを訪れ突撃インタビューを試みたという顛末のようです。
以下はラドン・テトンさんが8月8日午後に中国当局に拘束される前夜、カナダのCTV系の朝のニュースショーの『カナダAM』に北京から中継でインタビュー出演した時のビデオ。『カナダAM』はカナダの朝で、北京の現地時間は7日の夜。
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『カナダAM』でのラドン・テトンさんのインタビュー Lhadon interview on Canada AM (4'53") 2007年8月7日 聞き取り・訳・字幕:Red Fox The original was posted on YouTube on 8/7/07 by Students for a Free Tibet http://jp.youtube.com/watch?v=Z7Y05EiiesM キャスター:ビバリー・トムソン (テキストで見る) |
結果としてテトンさん達は解放され何事もなかった訳ですが、ここで印象的なのはやはり、カナダのニュース番組で語られている中国のイメージというものが、やはりいざとなると何が起こるか分からない不気味な監視社会の一党独裁国家という、依然としてそういう認識が根強いという辺りが、キャスターの発言からも伝わって来る辺りです。
ここで興味深いのは、何故欧米の若者がここまでチベットに熱狂しているのかという事で、対イスラム戦争に疲れた欧米が仏教に何か安らぎを求めているのか、冷戦時代から持っているアンチ共産という潜在的な意識が現在唯一の共産大国の中国に対して向いているのか、いずれにしてもチベットが中国の人権蹂躙のシンボルとして考えられている事は確かであり、そういう面では彼等の方法が支持者を集めて10年で国際組織にまで発展したのは成功と言えるでしょう。
つまりチベットの「非暴力主義」が欧米に与えているインパクトも大きく、そこに全く対極的に位置する軍拡覇権主義の一党独裁の「レッドチャイナ」という、これもまたシンボリックな組み合わせでもあります。
「活動家」と言えば何となく狂信的で粗野で恐ろしくて過激なイメージがありますが、この欧米の若者達は何というか明るいと言うか発想が楽しいと言うか。いずれにしても、破壊活動を伴わない外国人による抗議活動には中国当局もどうしようもないという、そういう構図が露呈した形ではあります。
ただ、上記のYouTubeの動画に付いているコメントを見ると、やはり欧米人の書き込みで目立つ声が「中国人が悪いのではなく、悪いのは共産主義と中国政府だ」という主張で、中国人自体を批判するとマイナスポイントが付けられてしまうという、やはり人種差別に過敏になっている欧米の場合はどうしても「悪いのは共産主義」というそういう方向に行っているような印象はあり、しかし中国の拡張・侵略主義はそもそも「中華主義」に拠るものであって、必ずしも共産党政権の問題ではないという辺りが余り見えていないのが現状のようです。
勿論亡命チベット人や、実際活動に携わっている欧米人はある程度分かっているだろうし、実際に心ある中国人、共産党政権に批判的な中国人も多い事は確かですが、一方でそういう中国人達が「国家分断工作は許せない」「中国は一つ」と言っているという「統一中国神話」はやはり中華主義的発想の最たるものであります。
Photos: The Secret Tibet
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次回エントリーに続きます。
おまけ
インドでの対中ホッケーの試合、韓国には思わぬ追い風に(笑)
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自由チベット オリンピック抗議−在マドラス・チベット学生会 Free Tibet Olympic Protest-TSAM (1'06") TSAM (マドラス・チベット学生会) 第7回アジアホッケーカップ(中国vs韓国) 自由チベット 抗議運動
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女の子達が中国の選手に対して「Free Tibet!」と叫んでいますが、中国側が言うようなダライラマが裏で主導しているとか、CIAがバックにいるとか、そういう感じではなさそうですね(笑)
特集『自由チベット学生組織』
1. エベレストに「Free Tibet」横断幕 自由チベット学生組織の抗議活動 (2008.3.26)
2. 万里の長城に「Free Tibet」垂れ幕 自由チベット学生組織抗議活動 (2008.3.29)
3. 自由チベット学生組織、IOCのロゲ会長に直談判 (2008.4.1)
4. 「チベット自由の聖火」がオリンピアを走る (2008.4.18)
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