
自由チベット学生組織 (SFT) のテンジン・ドルジ副代表が去る3月24日、ギリシャでの灯火式直前にジャック・ロゲIOC会長を捕まえて、チベット問題に関して直談判を行ったニュースに関して今回は取り上げてみます。
24日にギリシャのオリンピアで行われた北京オリンピックの採火式の開会式に「国境なき記者団」のメンバーが手錠をデザインした五輪旗を持って乱入した事件は日本でも欧米でも随分報じられていましたが、現地時間午前11時の開会式に先立つ24日朝に、IOCの会議が行われていてロゲ会長が滞在しているアマリアホテルに、ドルジ氏が直接押し掛けてチベット問題に関して中国に働きかけるように促しています。
ドルジ氏は昨年の4月にエベレストで抗議活動をやって以来、チベット人権問題の活動家として英語メディアでよく名前は目にしますが、昨年の8月の北京オリンピック1年前のカウントダウンの際に、自由チベット学生組織のテトン代表が北京でロゲ会長に接触を試みてけんもほろろにされたという伏線は前エントリーで扱いました。
(このエントリーはシリーズの3本目です。最初のエントリーはこちら)
聖火灯火式の前日の23日にドルジ氏がギリシャで記者会見を開いた模様は読売新聞でも軽く報じられていますが、そこでは24日の灯火式に合わせてオリンピア市内で抗議活動を行う事、IOCに対して聖火リレーのコースからチベットを外すように求める声明が発表されています。
![]() 2008年3月23日 (日)、オリンピックの発祥の地、ギリシァ南部のオリンピアで会見を行うチベット人活動家のテンジン・ドルジ氏。チベット反体制グループは北京大会の灯火式の間に抗議活動を行う計画を表明し、IOCに聖火リレールートからチベットを外すように呼びかけた。(写真付録の解説の訳) (AP Photo/Phil Ipparis) |
以下その時の会見の模様のビデオ。ドルジ氏の名前を日本のメディアで見かけるのは読売新聞の一つの記事のみですが、実際この会見はGoogleで確認出来るだけでも世界の85の英語メディアで報じられており、日本とはやや温度差があるようです。
ビデオに含まれているのは付録テキストの第三段落まで。赤字の部分は欧米メディアが盛んに引用していた部分。
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テンドールがギリシャでIOCに呼びかける Tendor Calls Out IOC in Greece (1'34") 2008年3月23日 訳・字幕:Red Fox The original was posted on YouTube on 3/23/08 by Students for a Free Tibet http://jp.youtube.com/watch?v=wnmOXh32GNw (テキストで見る) |
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今回この聖火採火式に、どうしてここまで異例な程に抗議活動が集まったかと言う背景はあちこちで分析されていますが、まず第一に台湾が聖火の受け入れを拒否した理由と同様に、北京オリンピックの聖火が「中国の国内として」香港マカオの後にチベットを通る事は、IOCや参加各国がチベットを中国の一部として認めるという事、つまり中国政府のプロパガンダを受け入れた事になるとして、チベット人や支援団体側から抵抗が強いという点があります。
そして第二点としてチベット支援グループが問題にしている点はもっと広義であり、「文化や国籍を越えた友情と連帯感の平和でよりよい世界の実現に貢献する」というオリンピックの理念にも拘らず、現在にも人権蹂躙と弾圧が起こっている中国でのオリンピック開催に対する疑問視であり、ここでドルジ氏がロゲ会長に対して求めているのは「IOCの役割は中国に対してオリンピック開催にふさわしい国になるように促す事である」という主張であり、これはチベット問題に限らずダルフール問題など、世界の人権団体や著名人が強く主張している事とも共通しています。
![]() 2008年3月24日、北京大会の投下式に先立ちIOCのジャック・ロゲ会長と話すチベット活動家のテンジン・ドルジ氏。中国が「血にまみれた」聖火をチベットに入れないように23日に呼びかけたドルジ氏は24日に警察に拘束されたが釈放された。 (AP Photo/Getty Images) |
以下はドルジ氏がロゲ会長に直談判を行った時のビデオ。これは自由チベット学生組織が撮影して同日24日17:29 (NY時間10:29) にYouTubeにアップされています。ドルゲ氏はこの前日23日の夜、記者会見の後に、IOCに電話をしてアポイントを取ろうとしてやはり北京の時と同様に断られているため、アポなし直談判に踏み切ったようです。
付録のテキストはドルジ氏が携帯電話で録音したものから聞き取っているので、冒頭にビデオに含まれてい部分があります。
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テンドールがギリシャでIOCのロゲ会長に直談判 Tendor confronts IOC's Rogge in Greece (4'20") 2008年3月24日 聞き取り・訳・字幕:Red Fox The original was posted on YouTube on 3/24/08 by Students for a Free Tibet http://www.youtube.com/watch?v=hooZ2_OETWE (テキストで見る) |
まあ確かに灯火式の当日の開会式直前の分刻みのスケジュールで面会を求められても応じるのは難しかったのは当然の話と言えばそうですが、チベット問題はIOCとオリンピック全体に対するイメージを損なうリスクが大きいのと、ビデオや写真でも見られるようにかなりの数のメディアがドルジ氏に同行していたため、それで4分間の面会に応じたという事なのでしょう。
このロゲ会長との面会のすぐ後にドルジさんが路上でギリシャの警察、20人の私服警官に逮捕・拘束されるというハプニングが起こっていますが、丁度現場には数十の海外メディアがいたために、前日のインタビューに続いてこの様子がCNNやBBCなど西側メディアで大きく報じられる事に。
![]() 2008年3月24日、ギリシャの古代オリンピアの五輪聖火リレーが始まる前に、チベット人活動家のテンジン・ドルジ氏がギリシャの警察署に連行される。(写真付録の解説の訳) (Reuters) |
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NTDテレビ:ギリシャでのオリンピック抗議活動 Tenzin Dorjee of Students for Free Tibet Detained in Greece (1'56") 訳・字幕:Red Fox The original was posted on YouTube on April 1, 2008 by New Tang Dynasty TV http://youtube.com/watch?v=BxeB_W-6ovA (テキストで見る) |
![]() (Photo: Reuters) |
ドルジ氏本人によれば、ギリシャに入国する段階で1時間半に亘って警察に取り調べられたとの事で、この2週間前の3月10日 (チベット蜂起記念日) にチベット人グループがオリンピア遺跡で「チベット自由の聖火」の灯火式を行い現地警察や中国大使館とトラブルになったため、ギリシャ当局からも問題人物とマークされていたようで、ギリシャ入国後に記者会見で聖火灯火式に合わせて抗議活動を行うと表明したために、灯火式の前に拘束されたと見られます。
ただし現地時間の15:48にブログに以下のドルジ氏のメッセージがアップされているため、拘束自体は数時間であったようです。
マイケルと私は町中の広場で20人以上のギリシャの私服の秘密警察に逮捕された。殴られこそしなかったまでも、両側からかなりの強い力で掴まれて警察署に連行された。電話を使う事は許可されなかった。現場には数十人の撮影班が私達が連行されている様子を撮影していた。近いうちに中国旅行に行く予定だった友人に悪い事をした。彼にビザが出るかどうか。
それにしても、4月のパンチェン・ラマの誕生日にエベレストでの抗議活動、8月の北京オリンピック1年前のカウントダウンに万里の長城での抗議、世界規模のデモが始まった3月10日は1959年のチベット蜂起の日であり、今回は聖火灯火式に合わせてメディアを意識した抗議活動をやるなど、この世界規模の「自由チベット」ネットワークは北京オリンピックをターゲットにかなり周到な計画のキャンペーンを行っているようで、欧米メディアでも次のロンドンやパリでも一悶着ある事が既に予想されています。
余談:
21世紀の帝国主義・植民地主義・拡張主義国家「中国」
灯火式の後の聖火リレーの開始の路上パレードが更に大規模な抗議運動に晒されたニュースは世界中でセンセーショナルに報じられていますが、ここで抗議活動を行ったのはチベット人グループの他に、スイス、ドイツ、ギリシャ、チェコ、カナダ、英国、米国などの欧米からの支持者の複数の団体が多数参加しています。
ヨーロッパからの抗議活動家が多いのは、恐らくその動機の根底にあるものは、西側諸国に根強いアンチ共産・アンチ一党独裁感情もあり、それから現代は世界に「植民地」というものが一部の委任統治を除いて存在しない時代に、一つの民族がここまで大規模に隣接地域と民族を支配している国、現代において「支配民族の“本来の自国”の面積」と同等またはそれ以上の「植民地」を持っている国は恐らく世界でも中国とロシアだけではないかと思われます(アメリカ大陸のように移民や混血がマジョリティとなっているケースはまた別で、それも19世紀以前の話)。だから恐らくそういう前時代的な拡張主義・帝国主義の中国に対する不信感と反感が根強い層が欧米に多い事の表れなのかもしれません。
以下の中国の民族分布図で青の部分が漢民族地域ですが、こうやって見ると中国全体の半分程度で、そこから満州を除けば半分にも満たなくなります。
![]() 中国の民族分布図 (Britannica) |
![]() チベット民族の居住地域 (チベット史情報室「テングリノール」) |
ところで、先日YouTubeのコメント欄で「チベットの人口の92.8%がチベット人で、漢民族は6.1%だから、中国が移民政策で漢民族でチベットを占領していると言うのは嘘である」という在米中国人らしき書き込みがあったので反論して置きました。その人はチベット自治区の数字だけで判断をしていた訳ですが、本来のチベットはチベット自治区だけでなく、四川省の西半分、青海省、甘粛症の南西部、雲南省の北部にまたがっていて、更にチベット人の人口が多いのもそれらのチベット自治区外の「東チベット」です。
結局中国のやった事はチベットのうち人間が住めない高山地帯と砂漠が大部分を占める西チベットを「チベット自治区」とし、使える地域を青梅省と四川省に分割した訳です。
中国の同化政策
中国の同化政策は更に徹底していて、四川省出身の知人によれば「中国政府は、チベットの民俗芸能や民謡、伝統文化などを漢民族のものと混ぜ合わせ、それを中国国民向けの宣伝に用いて『チベットは漢文化に属する』というプロパガンダを徹底的に行ったから、多くの中国人は本来のチベットを全く知らない」との事です。
今回のチベット問題に関してネット上で見る中国人の反応もとにかく「チベットは昔から中国の一部である」「国家分断の策略である」という意見ばかりですが、これも中国政府による既成事実作りのための徹底した情報コントロールの結果であります。
そしてこれがまさしくチベット人側が言っている「ジェノサイド」という意味でもあります。ジェノサイドとは皆殺しにして滅亡させなくとも、その民族のアイデンティティと文化を抹殺する事でもあります。(例えば、清朝時代に満州族が中国全土を支配した事により文化が交ざって漢民族化してしまったために、清朝滅亡後に満州族自体が滅亡したに近い状態になっている --- 遼寧省瀋陽出身の知人によると)。
中国は本物のパンチェン・ラマを拘束して、中国政府が新たなパンチェン・ラマを指名、パンチェン・ラマの消息が不明なままダライ・ラマが高齢になっている状況で、偽パンチェン・ラマが全国人民代表大会常務委員会のメンバーに選出されるという辺りから、チベット人側にとって堪え難い状態になっているのは想像に難くありません。
知人の香港人は「中国政府は権威を失う事を恐れているから、だから台湾問題も絶対に妥協出来ない。中国国民が統一を望んでいるのだから妥協すれば政権崩壊につながる」と言っていましたが、中国が自ら侵略し、それを正当化するために国民を教育し、その結果多くの国民が狂信的「統一中華」主義者になり、「統一」が政権の権威の条件となったため、崩壊に対する恐怖から「統一」に強迫観念的に拘る、つまり自ら撒いた種に怯えている訳です。
1949〜1979年の間に120万人のチベット人が死亡したというチベット亡命政府の資料を中国ははねつけているようですが、南京などで白髪三千丈をやっている国が一体何を言っているのかと(笑)
次回エントリーに続きます。
特集『自由チベット学生組織』
1. エベレストに「Free Tibet」横断幕 自由チベット学生組織の抗議活動 (2008.3.26)
2. 万里の長城に「Free Tibet」垂れ幕 自由チベット学生組織抗議活動 (2008.3.29)
3. 自由チベット学生組織、IOCのロゲ会長に直談判 (2008.4.1)
4. 「チベット自由の聖火」がオリンピアを走る (2008.4.18)
関連記事:
聖火採火式のオリンピアで抗議活動予定…チベット活動家 (2008年3月24日13時36分 読売新聞)
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【オリンピア(ギリシャ)=大塚貴司】チベット人の市民活動家、テンジン・ドルジ氏(28)が23日、北京五輪の聖火採火式が行われるオリンピア市内で、24日の採火式に合わせて抗議活動を行う考えを明らかにした。 テンジン氏は、市民の犠牲者が、報道されているよりもはるかに多いと指摘。「チベット人は平和的に抗議しているのに、中国政府は武力で弾圧した」と中国政府の対応を批判した。また、国際オリンピック委員会(IOC)が中国政府に対して行動を起こさないとして、その姿勢にも不満を示し、聖火リレーのコースからチベットを外すよう求める。 (2008年3月24日13時36分 読売新聞) |
帝国電網省の関連資料
・チベットは中国の領土ではない! (1997.2.21)
・「解放」と言う名の侵略 ── チベット解放 (2002.1.8)
・『チベット17ヶ条協定』に見る「一国両制」の欺瞞 (2002.2.7)
・第二のチベット動乱 ── チベットは「中国のコソボ」だ!! (2008.3.17)
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