『人体展』に関する不透明な死体入手ルートと、中国の死刑囚の人体闇市場に関するABCニュースの報道に関する第五弾、今回は2月から4月にかけて出た記事を数点紹介します。
アメリカABCニュースの報道スペシャル番組『20/20』が今年の2月15日に放送した、米国のプレミア・エキシビション社が主催する人体展『BODIES...The Exhibition』に中国の死刑囚の死体が用いられていたという疑惑に関してのニュースで、番組中でABC取材班は大連医科大プラスティネーション研究所からプレミア社への死体取引ルートを突き止め、「取引される死体の1/3が死刑囚のものである」という死体取引業界の元関係者の証言などを報じ、その時期にニューヨーク州の検事総長が公式に調査に着手し、その結果各州の議員が人体展を規制する法案を提出するなど米国内で大きな反響があり、それが人体展に対する疑問の声と抗議運動の大きな追い風になったという、そこまでが前エントリーまでの経緯です。
動画![]() 『人体展:彼等はどこから来たのか』 ABCニュース報道スペシャル『20/20』 2008年2月15日放送 (18'46") 訳・字幕:Red Fox |
以下は『20/20』の報道の5日後の『Observe China』(中国信息中心) の記事で、プレミア・エキシビション社の株価が暴落したため、財務部長の解任された旨が報じられています。
写真:2007年4月10日、NASDAQにおけるプレミア・エキシビション社のアーニー・ゲラー代表。
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死刑囚展示の疑いでプレミア・エキシビション社の株価が暴落
華 子岡
観察 (中国信息中心) 2008年2月20日
労改基金の暴露とABCニュースの報道のため、米国のプレミア・エキシビション社の投資家に対する信用は失墜し、先週金曜日に同社の株価 (PRXI) は23%下がって$4.29となり、過去1年の最安値に達した。投資家の信頼を回復するために同社は財務部長を解任、ウェブサイトで声明を発表し、中国の死刑囚との関係の潔白を装う事を試みた。
今月15日 (金)、ABCニュースは夜10時に中国から来た死体の出所の問題の根の深さに関する報道番組を放送した。以前、ABCなどの英文メディアや中国情報センターなどの中国語メディアはそれぞれ、関連する内容を報道し、中国の死体展が死刑囚の死体を使用しているという疑惑を公表して来た。これらの報道で投資者は著しく同様しプレミア・エキシビション社の信用は失墜し、木曜日以来PRXI株券が暴落し、15日の株式市場の開始と共に更に一直線に下降し、この1年の最低価格となった。
投資の衰退を回復するため、プレミア・エキシビション社はスティーブン・コートゥア財務部長を解任し、ヘラルド・インガルス氏が新財務部長に就任した。同時に同社はオフィシャルサイト上で4つの証言を公表し、同社経営の死体展で用いている中国の死体は全て自然死であると発表した。
市場を救うためのこの処置は現在すでに効果があり、今週火曜日の取引開始以降同社の株価は上昇を続けている。しかしプレミア・エキシビション社が市場を回復出来るのは一時的なものであり、同社が根本的に苦境から抜け出すためには、死体の出所を厳しく検査し、中国側の協力者に対し人権に関する道義責任を果たすように促す事が必須であると、中国信息中心はそのように考えている。
プレミア・エキシビション社は米国の大手展示会社であり、プラスティネーション死体の展示会は同社の主要業務の一つである。この会社の展覧会で用いられているプラスティネーション死体は中国から来たものである。人権機構の労改基金会はかねてより中国が大量に輸出しているプラスティネーション死体の出所を調査しており、これらの死体に少なからぬ数の中国の死刑囚が含まれている事を確信している。
その数週間後の3月に、プレミア・エキシビション社のアーニー・ゲラー代表が辞職をした事が、4月21日のABCニュースの記事で報じられています。
ABCニュースでの既出情報は紫文字で表示。
![]() 『20/20』の報道を受けて「人体展」の責任者が辞職 プレミア社側は、ゲラー氏は引退のために辞職を決断したが『20/20』の調査とは関係ないとしている
アンナ・シェクターABCニュース 2008年4月21日 証券取引委員会へのプレミア社からの報告によれば、「プラスチック化」した中国人の死体を展示して論争の的となったプレミア・エキシビション社の代表が辞任をしたとの事。
同社のブライアン・ウェインガー法律顧問は、ゲラー氏が「引退するべき時であると決めた」ため彼は辞任をした。彼は「会社の日々の業務に携わっている訳ではない」が、理事会の議長職は続けるつもりであると述べた。 中国の大連にある医大から人体が来たと報じた『20/20』の報道は、プレミア社とゲラー氏の説明とは真っ向から対立している。同大学の代表は『20/20』に対し、米国での展示のために人体を提供した事は「事実ではない」とし、その代わり同医大の教授によって運営されている企業から人体が供給され、大学は悪評版が立ったために最近撤退したとの情報を『20/20』は突き止めた。
『20/20』は中国人の人体の「盛んな闇市場」を発見し、死刑囚の死体を含む人体が一体200-300ドルで売却されている取引所への「人体ルート」を説明する人体闇市場のディーラーとする人物の証言を報じた。 プレミア社が死刑囚の死体と知りながら使用したとの疑いをゲラー氏は否定している。 ウェインガー氏によれば、プレミア社は展示会の運営方法の変更をじき発表するとの事。 ニューヨーク州のアンドリュ−・クオモ検事総長は、現在進行中の調査に関するコメントはしないと見られる。 Schecter, Anna. "'Bodies' CEO Resigns After '20/20' Report". ABC News, April 21, 2008. [魚拓]
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![]() ABCニュースのブライアン・ロス記者に中国での死体取引の写真を見せられるアーニー・ゲラー代表。(ABCニュース) [b] |
ここで意見が対立しているというのは、プレミア社側は、大連医科大から死体を入手したと説明しているのに対し、大連医科大側はABCニュースの取材に対して、米国での展示のために死体の提供をしたという疑惑を否定[5]、その代わりABCニュースが突き止めたのは『大連医科大プラスティネーション研究所』という大連医科大教授の経営する民間会社からプレミア社に死体が提供されていた点と、元々死体取引の70%を行っていた大連医科大本体は悪評判が立ったために撤退したとの情報です[6]。
インター・プレス・サービス (IPS) の2006年の記事[7]によれば、中国の最近の処刑は銃殺から薬物注射に移行をしているとの事で、その場合プラスティネーション処理された後では死刑囚のものかどうかの判定はより困難になると見られます。
欧米の人体提供者は自らポーズを選んでいる
![]() ミネソタ州、中央の「DONOR」の赤文字 (Life Source) [c] |
前エントリーで扱った新唐人テレビ論説委員の李天笑氏の記事では、死体を“物”として扱う事に中国では抵抗が強いという興味深い記述がありますが、これは肉体にこだわらない仏教よりもむしろ儒教的価値観であり、文革期に儒教を徹底弾圧した中国であっても現在でも文化的習慣は根強いようです。
![]() ペンシルバニア州、写真下「ORGAN DONOR」の緑文字 (Pennsylvania Department of Transportation) [d] |
尤もキリスト教における宗教的奉仕の精神や、「器である肉体」に対する認識などの文化背景はともかくとして、しかし一方では現実問題として葬儀や埋葬費用を避けたいために献体を希望するというケースもあるようで、これに関しては日本でも近年増加傾向にあると聞いた事があります。
以下は、中国の死体ビジネスから既に撤退し、欧米からの献体を主に扱っているプラスティネーション発明者のハーゲンス氏の人体展『Body Worlds』に献体を希望する人物に関して書いたABCニュースの記事です。
![]() プラスティネーション展示のために人体提供者は自らのポーズを選んでいる 多くの人体提供者は、自身の体が伝統的埋葬をされるよりもプラスティネーションの方がより「有用である」と言っている。 アンナ・シェクター ABCニュース 2008年2月26日
彼女は、細胞や骨がシリコン浸けになりプラスチック化する「プラスティネーション」と呼ばれる処理法での死体保存を希望しているドナーの一人であり、ハーゲンス氏のドナーリストにはおよそ8000人が登録をしている。 ハーゲンス氏は1970年代にプラスティネーション処理を発明し、これまでに献体された数百体の人体を加工し、展示会のために様々なスポーツ、楽器、チェスやポーカーのプレイのポーズを取らせている。展示会は世界の数十の都市で開催された。 その人生の大半を医学分野で働いているパヴリックさん (52) は、展示されたあかつきには「ようやく旅に出られる」と語った。彼女の27歳の娘のエレンさんは看護婦であり、展示会に飾られたいという母親の願望は彼女の性格から来るものであると語った。エレンさんは「母はいつでも自身が関わった社会に恩返しをしたいと考えています。私がプラスチック化した母を初めて見る時に非常にショックが大きいであろう事は確かですが、長い目で見ればいい事なのだと思います。母が望んでいる事なのだから」と語った。 バレーボールのポーズに加え、パヴリックさんは展示会に出される前にまず家族や友人に対してプライベートに展示して欲しいと希望している。 ハーゲンス氏は、ドナーの希望に出来るだけ沿いたいが、プラスチック化した彼等の体に将来何が起こるかを正確には約束出来ないとしている。 ドナーは、自身の体が最寄りのハーゲンス氏が運営する死体保存施設に輸送される費用を家族が持ち、未使用の部分も家族に返される事はないという条件を家族が理解しているという誓約書にサインをしなければならない。 一部のドナーはプラスティネーションを費用の高額な葬儀、埋葬や火葬を避ける方法であると考えている。ドナーの多くはそれを伝統的埋葬よりもより「実用的である」と考えている。カリフォルニア在住のリン・クラトミさん (46) は「ドナーになる事は建設的で教育的で実用的です。誰だって展示されたいと思う筈でしょう?」と語った。 クラトミさんは日系米国人で仏教を信仰している。彼女は「私の文化では、それは人生を今どう決断するかの問題です」と語ったが、死後展示されるという彼女の決断を夫や息子は快く思っていない。
今月のABCニュースの『20/20』に出演したアトランタ在住のラビ・ルイス・フェルドスタインさんは「死をエンターテインメントに利用する事は、かつて生きていた人生の尊厳と神聖さを踏みにじるものである」と批判している。 現在は700人近くのアメリカ人が献体希望をしている。7000人がドナーリストにあるドイツに次いで米国は二位である。数人の米国人は既にプラスティネーション処理されているがまだ展示されてはいない。 昨年一人の米国人男性が切断した足を献体した。ハーゲンス氏の下で働くナディーン・ディウェルシ氏によれば、その足は展示される準備がほぼ整っているそうだ。 ディウェルシ氏は、一体の人体を完全にプラスティネーション処理するのは平均で1年かかるが、「(ハーゲンス氏が) 展示に出すに満足するようにポーズを取らせるには数ヶ月かかる」と語った。 |
確かにアメリカ人は「社会に奉仕したい」と考える人は多く、そういう辺りが大成して一財産を築いた大富豪が寄付をしたり慈善事業に手を付けたりなど、そういう動機の一部にはなっているようですが、一概に宗教的動機と言っても、聖書が具体的に献体を奨励している筈もなく、考え方は人それぞれではあるようです。また、本人が希望しているからと言って家族が納得をしていないという、こういう辺りは日本とそう大差はないような面もあります。
またここに出て来る日系人で仏教徒だからその文化的背景から献体を希望しているという、こういう記述はいささか首をかしげます。同じ仏教でもチベット仏教辺りでは肉体には拘らない文化だとしても、日系人にそういう背景はないでしょう。
特集『人体展と中国の人体闇市場』
1. プラスティネーション発明者が中国から撤退 (2008.7.25)
2. ニューヨーク州検察と中国当局が人体闇市場の調査を開始 (2008.8.1)
3. 中国人人権活動家が人体展示に関して深刻な問題を提起する (2008.8.9)
4. 『20/20』の報道を受けて、議員達が人体展に関する徹底調査を議会に要求 (2008.8.20)
5. 『20/20』の報道の後、人体展の責任者が辞任 (2008.9.2)
6. 人体輸入取引規制法案を全米21人の議員が支持 (2008.9.8)
7. ニューヨーク州検事総長による人体展への厳重取り締まり (2008.9.13)
8. 「人体展:彼等はどこから来たのか?」米ABC"20/20"の特集番組 (2008.9.20)
9. 大連のプラスティネーション死体企業の調査 (2008.9.28)
10. ペンシルバニア州で人体展禁止法案を検討 (2008.10.14)
11. カリフォルニア州の人体展禁止法案 (2008.11.9)
12. プレミア・エキシビション社の献体同意書は偽物だった (2008.12.22)
脚註
- ^ "All of the specimens in the Exhibition were obtained by Premier Exhibitions through the Dalian Medical University plastination laboratories in the People’s Republic of China", "Legal documentation provided to Premier Exhibitions by Dalian Medical University states that only the bodies of people who are deceased from natural causes", "There is no evidence that any of the specimens in BODIES…The Exhibition are anything but unclaimed and unidentified bodies." Carnegie Science Center. "Origins of the Specimens" (PDF), Jan 2008. Quotation cited in WCPO.com "Bodies ...The Exhibition Draws Criticsism", Jan 29, 2008 1:13am. [魚拓]
「全ての展示用標本はプレミア社が中華人民共和国の大連医科大プラスティネーション研究所から入手しあたものである」「自然死した人体のみである事を述べた法的書面が大連医科大よりプレミア・エキシビションに提供された」「『BODIES ...The Exhibition』のどの標本にも証拠はないが、それらは引き取り人がない身元不明の人体である」. カーネギー科学センター『標本の出所』, 2008年1月. - ^ "Premier Exhibitions said it would cooperate fully in the investigation". Ross, Brian, Rhonda Schwartz and Anna Schecter. "N.Y., China Investigating Black Market in Bodies". ABC News, February 15, 2008. [魚拓 1 2]
「プレミア・エキシビション社側はその調査に全面的に協力するとしている」. ABCニュース. 『ニューヨーク州検察と中国当局が人体闇市場を調査』, 2008年2月15日. [全訳] - ^ '"If these can actually be attributed to even the people that we're doing business with, we would have to do something about that immediately," Geller said'. ibid. ABC News.
「私達の仕事相手にすらももし実際にそのような結果が起こりうるなら、私達はその件に対し直ちに何か手を打たなければならないという事になる」. ibid. [全訳] - ^ ”On August 21, 2008, the Board of Directors appointed Arnie Geller as the Chairman, President and Chief Executive Officer of the Company". Forbes.com. "Arnie Geller". [魚拓]
「2008年8月21日、役員会はアーニー・ゲラー氏を会社の代表及びCE役員に任命した」. Forbes.com. 『アーニー・ゲラー』 - ^ "The president of the Dalian Medical University, Dr. Tang Jianwu, told ABC News his university does not supply bodies to Premier or any company for public display". Ross. "N.Y., China Investigating Black Market in Bodies". ABC News.
「大連医科大学の唐健武学長はABCニュースに対して、大学側が公開展示のためにプレミア社やその他のいかなる会社にも公開展示のために人体を提供した覚えはないと述べた」. ABCニュース. 『ニューヨーク州検察と中国当局が人体闇市場を調査』. [全訳] - ^ "The supplier for Premier's "Bodies...the Exhibition" is actually a private, for-profit company called the Dalian Medi-Uni Plastination Labs located 30 miles away from the Dalian Medical University. The company is run by a professor from the medical university who says the university initially owned 70 per cent of the operation and provided bodies, but has recently pulled out because of bad publicity". ibid.
「プレミア社の人体展『BODIES...The Exhibition』 への提供は実際は、大連医科大学から30マイル離れた大連医科大プラスティネーション研究所という民間企業によって行われていた。この企業は医科大学の教授によって運営され、その人物によれば大学は当初は70%の業務を受け持ち人体を提供していたが、悪評判が立ったために最近撤退したのだという」. ibid. [全訳] - ^ "The middle kingdom has developed a fleet of mobile execution vehicles slowly, starting recently after cautiously experimenting with lethal injections for the first time in selected provinces since 1997. It is now adopting them on a larger scale in more localities". Bazlova, Antonaneta. "DEATH PENALTY-CHINA: Rapid Death by Roaming Vans". Inter Press Service, July 18, 2006. [魚拓]
「1997年以来いくつかのセレクトされた省で致死注射を周到に実験をして以降の近年、その“中心王国”は移動処刑車を徐々に開発している。現在は更に多くの現場でより大規模なスケールで採用されている」アントナネッタ・バズロヴァ. 『中国の死刑:移動バンでの迅速な死』. インタープレス・サービス, 2006年7月18日.
日本語全文訳:JANJAN - 山口響・訳; 朝霧勝浩・編. 『中国:移動車での薬物処刑』, 2006年8月20日. [魚拓]
写真:
- ^ . "Arnie Geller, Chairman and Chief Executive Officer of Premier Exhibitions, Inc., presides over the closing bell", April 10, 2007. [魚拓]
- ^ ABC News Store. "20/20: Human Bodies On Display -- Where Did They Come From?/Plane Crash Survivor: 2/15/08".
- ^ Life Source. "Document Your Decision".
- ^ Pennsylvania Driver & Vehicle Services. "Organ Donation".
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