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人体輸入取引規制法案を全米21人の議員が支持

   プレミア・エキシビション社のプラスティネーション人体展『BODIES展』(BODIES... The Exhibition) には中国の公安局から入手した身元不明死体が用いられている事が2006年にニューヨークタイムズに報じられて以来、全米の各州議会では展示に用いる事への故人の同意が証明されない限り人体標本展示を禁じる法案が検討される動きがあるが、2008年2月15日にABCニュース『20/20』が、その背後に中国の人体闇取り引きがあり、そこに死刑囚の死体が流通している疑惑をスクープして以来、社会の注目が集まった事によりその動きが加速し、8月15日にはカリフォルニア州のフィオナ・マ議員が提出した人体展示規制法案が上院と下院の承認を受け知事の承認待ちという段階にまで至っている。

 一方、2月15日の『20/20』の放送直後に、米国議会下院のクリストファー・スミス議員が下院外交委員会に公聴会を要請、そして米国司法長官に調査の要請を計画中であるなど人体展問題に対する関心と行動を表明していたのをシリーズ第4回で紹介したが、結局それが4月2日に米国下院でプラスティネーション人体の輸入禁止の法案HR5677がミズーリ州のトッド・エイキン議員によって提出され[>>1]、その26人の法案共同支持者にスミス議員は名を連ねている[>>2]ため、スミス議員のアクションがこういう形で実ったという事になる。


 この連邦法案HR5677は、プラスティネーション人体の輸入を禁止し、違反には3000~1万ドルの罰金と人体標本の没収というものであり、つまり現在既に米国内で所有されているプラスティネーション人体と、米国内で制作されたプラスティネーション人体のみが使用が可能であって、プレミア社のように大連鴻峰社から人体標本をリースしているケースでは、いったん中国に返却をすれば再入国は不可能であり、現在米国内にあるものを使用するしか方法がなくなり、米国内の人体展示を止めるものではなくても、中国の人体市場を潤す事がストップされるという法案である。

 また、プレミア社が米国国外での人体展開催に対して米国内から人体を持ち出した場合に、米国に持ち帰る事が不可能となる。


 エイキン議員はこの法案の提出に関して、多くの人権侵害の情報がある中国の状況において、プラスティネーション人体のビジネスのために人々が殺害されるという可能性が払拭出来ないのが現状であり、人体ビジネスを潤わせる事をストップする事でこの人権侵害に対する防止になると述べている。[>>3]

 またこの背景として、トッド・エイキン議員の地元のミズーリ州カンザスシティで、ABCニュース『20/20』放送翌月の2008年3月14日よりプレミア社の『人体の暴露展』(Bodies Revealed) が開始し、時期が時期だけに地元でも懐疑的な注目のされ方をした[>>4]という事もあり、それが4月の法案に繋がったのではないかと思われる。

写真:2008年3月16日、ミズーリ州カンザスシティのユニオンステーションにおけるプレミア・エキシビション社の『人体の暴露展』への抗議。
(The American Society for the Defense Tradition, Family and Property) [a]


[特集『人体展と中国の人体闇市場』トップページに戻る]

 ABCニュースでの既出情報は紫文字で表示。




人体展への徹底取り締まりを議員達が要求
米国へのいかなる「プラスティネーション」人体の輸入も禁じる法案
アンナ・シェクター
ABCニュース 2008年5月21日


 中国人の死刑囚の死体が使用されているという疑惑から、人体展示による数百万のドル箱産業に決定的打撃を与える法案を21人の議員が支援をしている。

 ミズーリ州共和党のトッド・エイキン下院議員は、「プラスティネーション」人体のいかなるパーツも米国に輸入する事を禁じる法案を提案した。アトランタに本拠地を置くプレミア・エキシビション社は、全国各地で開催している『BODIES展』という展示会のために、「プラスティネーション」と呼ばれる処理でシリコン浸けにした「引取人のない」中国人の死体を使用している。

 エイキン議員は「これは世界中の人々の人間の尊厳を守るという人権問題である」と述べ、展示されている中国人が生前展示される事を本当に許可したのかどうかの懸念があると付け加えた。エイキン議員は「中国から来た人体の出所を確認出来ないのなら、我が国における最善の対策はプラスティネーション人体の輸入そのものを差し止める事である」と述べた。

 オハイオ州のマイク・ターナー下院議員は21人の法案支持議員の一人である。ターナー議員は「この人体展に展示されている人々が合意のもとに展示されているかどうかの確証がない。中国のこれまでの人権状況は、あの国から輸入された人体に関するどのような問題でも私達を躊躇させる」と語った。


 プレミア・エキシビション社側は、展示されている「引取人のない」死体は大連医科大学から合法的に入手したものと主張している。

 ABCニュースの『20/20』は先日、人体は大学からではなく25キロ離れた民間営利研究所から来ていると報じた。『20/20』は元闇市場関係者とする人物にインタビューを行い、人体が一体につき200-300ドルでその研究所に販売されているとの証言を得た。大連医科大学側はABCニュースに対し、数年前にプラスティネーション研究室との関係を打ち切ったと主張している。


自称人体闇市場関係者によれば、この写真は4年前に死刑囚やその他の死体が基本的に約200ドルで取引された現場で撮影されたとの事。その人物は後にこの施設から死体を購入したが、その一部が中国国内の医学院に、一部が米国での展示に死体を提供している大連の企業に渡ったと証言している。
 プレミア社の前代表で、現在も会社の理事会の一員であるアーニー・ゲラー氏の主張は『20/20』と真っ向から対立している。ゲラー氏によれば、取引相手は「これらは全て合法的かつ引取人のない死体で、それらは大連医科大学経由で来た」と保証したとの事。

 また彼は、中国人の取引業者から入手した人体の一部が死刑囚のものであるとの疑惑を聞いてぞっとしたと語った。ゲラー氏は「私達の取引相手にすらももし実際にそのような事が起こりうるなら、私達はその件に対し直ちに何か手を打たなければならない」とコメントした。


 プレミア社のブライアン・ウェインガー法律顧問によれば、同社は中国で献体された人体のみを用いた『人体の暴露展』 という別な展示会を催しているという。同社は引き続き展示用に「引取人のない」プラスティネーション人体を用い、同じ取引先から入手していると言う。


 人体展に対する批判者や人権活動家らは、「引取人がない」とは中国においてはどのような意味にでもなると批判している。ノースカロライナ州の自宅で人体展への批判サイトを運営するサラ・レッドパス氏は「米国において“引取人がない”とは具体的な法的根拠に基づくものだが、プレミア社が言うところの“引取人がない”とは、“不明である”との意味で用いられている」とコメントした。

 またレッドパス氏は、プラスティネーション人体の輸入に対してより多くの政府による規制があるべきであり、「エンターテインメント企業の利益のためでなく、この産業を規制するための人物を選挙で選ぶ必要がある」と語った。



人体展の主要な主催社の一つは、中国北部にあるこの寂れた建物を経営する企業から人体をリースしている。ABCニュースの隠しカメラが捉えた。表に腐ったゴミが散乱したこの建物はこれまで巧みに隠されていた。
 米国税関はこれまで、プラスティネーション処理は人体の本質を変えるため、プラスチネーション人体のパーツは人体ではなくプラスチック製品として輸入出来るとして来た。

 それに対してエイキン議員は「それは世界中の抑圧主義の政府が人々を非人間化するのに使ったレトリックと同じ論法である。プラスチックを染み込ませようが、それが人体である事に変わりはない」と怒りを露にした。

 人体が既に輸入されてしまっているため、エイキン議員の法案は現在行われているショーに影響しないと見られるが、この法案はプラスティネーション展示のうち特定の展示会や企業をターゲットにしたものではない。この法案においては、米国内で献体されプラスティネーション処理された人体のみが合法的に展示出来る。プラスティネーション人体密輸入のペナルティは一件につき最大1万ドルの罰金となる。


 この法案の影響を受ける可能性のあるその他の企業はコーコラン・ラボラトリー社である。ミシガン州に本拠地を置く同社は中国からプラスティネーション人体を輸入し、ウェブサイト上で宣伝を行っている。同社は教育目的で医学教育機関にプラスティネ-ション人体を販売している。

 プラスティネーション処理を発明したグンター・フォン・ハーゲンス氏は、プラスティネーション人体を展示している『ボディワールド』というショーを開催しているが、そのプラスティネーション工場がドイツとポーランドの国境にあるため、彼もまたこの法案の影響を受ける事になる。ハーゲンス氏は、人体は献体されたものであり中国から入手した死体を扱う事は金輪際ないとしている。


 法案は下院歳入委員会に提出されたが、審議はまだ未定である。

 カリフォルニアとペンシルバニアの州議会議員は、全ての展示人体が合法的な同意の下に献体された事を証明する書類の提出を人体展主催者の義務とする法案を提出、カリフォルニアでは州上院で、ペンシルバニアでは州下院司法委員会で審議されている。

[訳=岩谷] (原文:英語) (* 写真1は元記事付録、2番目以降の写真及び写真解説は労改基金会ウェブサイトへの転載記事に追加されているもの。写真はABCニュースのサイトからの転載)
*本翻訳の転載には許可を必要としないが必ず出典元を明記の事。

 この法案HR5677の全文訳はエントリー末の関連資料参照。



ノースカロライナの主婦活動家

 この記事中で紹介されているサラ・レッドパス氏は「Mom de Guerre」(闘うお母さん) のニックネームを持つノースカロライナ州キャリー在住の主婦で、2007年4月5日から同地で開催されていた『BODIES展』に抗議して会場前で抗議活動を行ったり[>>12]、抗議サイト『nobodies4profit.org』 (営利目的の人体展にNO) を開き、これ以降米国の人体展反対運動家の一人として度々公の場に登場する事になり、カリフォルニアやワシントン州と同様の規制法案を模索しているなどの活動を行っている人物である。[>>13]


2007年8月26日、ノースカロライナ州ダラムのサウスポイントモールでの『BODIES展』の展示会場の前で抗議活動として見物客にビラを配るサラ・レッドパス氏 (Duke Human Rights Center/flickr) [c]


その6日後、9月1日には抗議運動は集団に膨らんだ。 (Duke Human Rights Center/flickr) [e]


レッドパス氏らが配布した『nobodies4profit.org』の抗議ビラ。 (Duke Human Rights Center/flickr) [d]


レッドパス氏が配布したビラの内容:

NO
BODIES
4profit

www.nobodies4profit.org - 私達の嘆願書への署名をお願いします!

本物の人々 - 同意はない
中国で失踪した人々、そして家族は彼等を見付けられない。
そういう人々が展示されているのか?
プレミア社のイベントはそれを見る機会である。


プレミア・プロダクション社の医療ディレクターの「ロイ・グローバー氏は、全て中国から来たその死体は意思による献体ではないと述べた」
...ナショナル・パブリック・ラジオの記事は:
http://www.npr.org/templates/story/story.php?storyId=5637687

中国の大連:刑務所に隣接して11のプラスティネーション処理工場がある。

デビッド・バーボザ記者のニューヨークタイムズの記事『中国は展示用ミイラを製造』より

中国の死刑執行数は世界の残りの国の合計よりも多い - アムネスティ・インターナショナル

引き取り人がないとは?
多くの中国人が失踪しており、彼等が引き取り人のない死となっている可能性がある。黒竜江省出身の王斌氏 (44) は精神的信条のために逮捕され拷問死した。この殺害の後同意なしに彼の心臓と脳は摘出された。ひょっとすると皆さんは今日彼等に会えるかもしれない。

(The Epoch Times)



一連のスクープや運動の立役者


呉弘達氏 (1994) (Martin Ennals Foundation) [b]
 上記の記事が出た2008年5月は、オハイオ州シンシナティのユニオン駅シンシナティ博物館センターで2008年2月1日から9月1日までの『BODIES展』が開催されていた真っ最中であり、5月13日に労改基金会の呉弘達代表が『BODIES展』に関する疑惑や中国での死刑囚からの臓器窃取、そして中国の囚人労働など、中国での人権蹂躙問題に関するテーマでシンシナティ大学で講演を行っているので、それに関連した記事を紹介する。

 中国で政治犯として19年間労働改造所に投獄された過去を持つ呉氏と労改基金会に関しては、シリーズ3回目のエントリーで紹介しているが、この時は呉氏は2時間のラジオ番組にも出演[>>5]するなど、この時人体展が開催されていたシンシナティでのこの問題に対する関心の高さが伺える。

 ここで呉氏はABCニュースに提供した中国の銃殺死体闇取引写真を示しながら『BODIES展』にこれらの死体が流通している可能性を指摘しているが、これまでABCニュースなど米国メディアが報じて来た、遼東半島の沙崗子村にある大連医科大プラスティネーション工場 (大連鴻峰) を見つけ出したのも、隋鴻錦氏の元助手から死体闇取り引き現場の写真を最初に受け取ったのも、大連医科大とプラスティネーション社の関係、「引き取り人のない死体」が公安局から来た事、大連鴻峰社が人体展の収益の85%を得ている事など、労改基金会など中国国内に情報ネットワークを持つ調査機関でないとなかなか得られないような情報が、ABCの報道とタイミングを合わせて補足情報が労改基金会から発表されるなどの連携から[>>6]、中国国内の多くの情報を米国メディアに提供して来たのは恐らく労改基金会と見られる。

 欧米における中国系人体展は、2004年10月に英国ブラックプールで『人体の暴露展』が開始、2005年8月にジョージア州アトランタで『BODIES展』が開始して以来の事で、2006年8月のニューヨークタイムズの記事で人体の出所への疑問が提起されているが、その記事で既に中国公安の一貫しない発言など中国国内の自社特派員が取材しにくいような内容にまで触れられている[>>7]ため、恐らく労改基金会などの反共華僑の人権団体が大幅に協力していると思われる。


中国の人権のために主張する呉弘達氏
ピーター・ブロンソン
シンシナティ・エンクワイア 2008年5月21日

 最初のスライドは処刑された男性4人が血に染まった雪の上に横たわり、頭部はビニール袋で覆われ後ろ手に縛られているものである。シンシナティ大学のタンジマンセンターの聴衆は静まり返っていた。
 次のスライドは白衣の2人が死体の衣服を剥ぎ取りホースで洗う様子が映っている。最後の写真は研究室の検死台の上に全裸で横たわる若い男性の死体で、顔には穴が開いている。

 「鼻の横に穴が開いているのが分かりますか? 彼等はこれからプラスティネーション処理をされるところです」

 呉氏はもの柔らかでやや訛りのある英語で「これは自動車やコンピューターや家具の展示会ではなく、それらは人間なのだ。これは是非とも知るべき事である」と語った。

 呉氏が話しているのは、シンシナティ博物館センターで開催されている『BODIES展』の事であり、その展示会は既に15万枚の入場券を売り上げている (入場料は11~23ドル)。呉氏が「知るべき事」と言っているのは、博物館センターで皮膚を剥がれてエンターテインメント的なポーズで展示されている死体が中国の刑務所で処刑された人々である可能性があるという事である。

 呉氏は「これは氷山の一角に過ぎず、お見せ出来る事実はまだ沢山ある」と述べ、自分自身の壮絶な身の上話から語り始めた。

 私達がオリンピックで絶対に見る事のない中国の暗黒面を彼は知っている。それは独房監禁と同じ位に暗いもの。それは、死体が冷える前に臓器を収穫するために、メスを持った医療職員が立っている横で囚人が心臓を射ち抜かれる、ぬかるんだ荒野と同じ位に醜いもの。


 彼はまだ学生であった1960年に逮捕された。「私は資本主義者でカトリック信者で、またいつも率直に物を言っていた」と呉氏は語った。裁判も審問もなく、彼は19年間労働改造所での強制労働を強いられた。

 1979年に釈放された時、父親が逮捕され拷問のうえ殺害された事を知った。母親は自殺し、兄弟は助かるために家族と絶縁したが逮捕され拷問のうえ死亡した。

 呉氏は鞭打ち、拷問、骨折、飢餓と絶望の労働改造所から生還したが、2年間泣き続け自殺を試みた。「私の存在など野獣と変わらない」

 彼はポケットに40ドルを持って渡米し、泊まる場所のないサンフランシスコの夜の通りを歩いた。しかし彼はこの地を愛した。「私は自由になり幸福になった。何が起ころうとも労働改造所より遥かにましである」

 しかし心の声が彼に語りかけた。「一生かけても人々のために何かをしなければならない」

 彼は再び声を上げ始め、米国議会で労働改造所に関して、そして中国が死刑執行数を機密にし遺族に対してすらも明らかにしていないと証言をした。彼が見たある資料では11ヶ月で2万4000人の処刑が記録されている言う。


 呉氏によれば、私達が普段買っているゴム長靴、靴やクリップなどの輸入製品は思想改造労働の製品であると言う。中国は世界第二位の移植大国であるが「95%の臓器は死刑囚のものである」と語った。

 その恐れる事のない闘いの勇気のため、呉氏はノーベル賞にノミネートされた事もある。彼は何度も命の危険を冒して中国に戻り、労働改造所や死刑や人権抑圧の実態を調査して来た。それはシンシナティなどでの展示に用いられるプラスティネーション人体の問題も含む。1995年に彼は中国で再び拘束され「国家機密漏洩」で告発された。米国からの圧力によて彼は66日後に釈放された。「私はテロリストか? 私は銀行強盗か、それとも強姦魔だとでも言うのだろうか?」
 もちろんそうではなく、公正を主張する彼は中国当局にとってより大きな脅威であった。

 彼は今、中国に対して率直に物を言う。「中国の労働改造所は当局にとって金儲けの場所なのである」
 そして勿論「人体展」も例外ではない。


 シンシナティ大学での講演の前日に彼はわざわざ人体展を見に行った。呉氏は「今日は非常に気分が重い。これらの死体は全て中国人だ」と感想を述べた。

 博物館センターの担当職員は、複数ある展示団体のうち最も道徳的なものを選んだとコメントした。しかし実際それは、死体使用の同意書も持たず死体の出所も定かでない展示会の一つに過ぎない。

 呉氏は「私はシンシナティで展示されている死体の全てが死刑囚だと言うつもりはない。一つか二つかもしれないし、一つもないかもしれない」と語った。

 しかし呉氏は、数百人の処刑死体がプラスティネーション研究所に一体30ドルで売られた事は明らかであるとし、「処刑死体が紛れ込んでいる可能性が否定出来ないという事実を考慮しければならない」と述べた。呉氏は聴衆に対し「皆さんが展示会の排斥を望むなら、子供達にこのようなものを見せてはいけない」と促した。

 呉氏は「仮に展示人体の全てがユダヤ人や黒人やメキシコ人だったとしたら、それは一体何を意味するのか? そこに人種差別のニュアンスがあるのは否定出来ないのではないのではないか?」と問いかけ、「(問いかけに対し) 誰も反応がない事を多少残念に思うが、結局は金銭が重要であり展示会は金儲けの手段に過ぎない。それは間違った考え方であるが、現代において金銭が真理を上回る事を遺憾に思う」と語った。

 血に染まった雪に倒れた死者達は何も語る事はない。もし語る事が出来たなら彼等は問いかけるだろう    「人々が死体をエンターテインメントとして見るなら、もはや死刑が恐ろしくもショッキングでもないという事なのか?」と。

[訳=岩谷] (原文:英語) (写真1は元記事付録、2と3は『Christianesimo Cattolico』より)
*本翻訳の転載には許可を必要としないが必ず出典元を明記の事。
Bronson, Peter. "Amazing Wu still speaking up". Cincinnati Enquirer, May 21, 2008. [労改基金会の転載記事] [魚拓]
布朗森:著, 楊莉藜:編訳. 『呉弘達:為中国人権仗義執言』. 労改基金会, May 21, 2008. [魚拓]

 ここで語られているのは呉氏の波瀾万丈の人生の体験談に始まり、中国の死刑囚の献体や臓器の問題から人体展の事であるが、ここで興味深い問題提起は、市場に出回っている中国製品にやはり労働改造所の強制労働による製品が入っている可能性と、それをカモフラージュするための流通システムに関して言及されている点で、それは実際に呉氏の講演を聞きに行った人がブログにその件を書いている。


The Journey is the Reward

人権活動家の呉弘達氏に会った印象
The Journey is the Reward 2008年5月14日

 人権活動家の呉弘達氏が昨日シンシナティ大学で、囚人としての中国での体験を語った。呉氏は犯罪を犯した事は一度もないにも拘らず労働改造所に19年間投獄された。彼は「反革命分子」とみなされ、政府批判をしたために投獄されたのだ。

 今日、呉氏は労働改造所での強制労働への社会の関心を広めるために創設した労改基金会の代表であり、その焦点を以下のように拡げて来た:
ー労改基金会のウェブサイトより
「公開処刑、死刑囚からの臓器搾取、中国の人口抑制政策の強要や宗教迫害など中国での組織的人権蹂躙問題の情報を集め発表する事」

 呉氏は、刑務所システムの問題や、私達が日頃買っている製品のどれだけが刑務所労働で作られているかの問題を幅広く語った。ウォルマートで売られている製品は刑務所工場から来ている。製品が刑務所製造でない事を「証明する」役割を担う商社を通じて仕入れる事でウォルマートはカモフラージュをしている。しかし、中国において証明書を得る事は容易であり、中国での「証明」自体が何の意味も持たない。それが汚染食品や鉛入り塗料がいとも簡単に入って来る理由である。

 囚人労働は電気製品、重工業や消費製品など殆どあらゆる産業に利用されている。

 囚人の多くは有罪の犯罪者であるが、そこには「再教育」のために労働改造所に送られた政治犯もいる。


 また呉氏は死刑執行に関しても言及した。中国は年間の死刑執行数を明らかにしないが、呉氏は1万から2万人に及ぶであろうと確信している。

 中国は世界第二位の臓器移植大国で、その移植された臓器の約95%が死刑囚のものである。

 そして呉氏は『BODIES展』に言及した。もし全ての展示人体がユダヤ人やアフリカ系米国人だったとしたらどうなのかと問題提起をした。死体が死刑囚のものでそれらは無料か30-40ドルで取引された事を [大連医科大教授の] 助手が知っていたと呉氏は聞かされたそうだ。

 科学を信じ、科学に関心を持っているとしても、それらの展示死体が本物の人間である事を忘れてはならないと呉氏は述べた。


個人的感想:
  1. 製品製造のためにどれだけの囚人労働が利用されているかを聞いて驚いた。米国の企業や消費者はその状況に気付いていないか、何か行動を起こすほどの関心がないように見える。ウォルマートのような企業は関わり合いを否定する書類を求めるだけであり、問題から目をそむけているに過ぎない。

  2. 質問時間に寄せられた質問を聞く限りでは、シンシナティ博物館センターで開催されている『BODIES展』に関する疑いの余地のない事実に関して、シンシナティの一般人はさほど意識していないように見える。これらの人体は献体されたものでなく、同意のない一般人のものである。展示されている人体の一部が死刑囚のものである可能性が示された。

  3. 倫理的態度の最低レベルを選んだウォルマートと博物館センターは同レベルである。彼らは疑惑の状況に対して真実を求めない。これは彼等の金儲けであり、だから見て見ぬ振りをしているのである。彼等にはもっともらしい否認権があり、それ以上の実際の状況など気にもかけない。

  4. 私達は自由の国の国民であるが、自分達の持っている自由の価値をさほど考えてはいない。私達は世界の人達を助けるに十分な事などしていない。

  5. 呉氏の19年間もの投獄生活でどうして生き残れたのかが興味深い。「分かりません」という彼の答えに驚かされる。それは何か生きる動機となる夢を持つ事だと映画では言うけれど。

  6. 呉氏が小さな子供と遊んでいる様子を見るのは何か印象的だった。労働改造所の19年間がどのように人を変えてしまうのか想像出来ないが、命と自由が遥かに貴く見える事は確かなのだろう。


[訳=岩谷] (原文:英語;写真は元記事付録)
* 原文では呉弘達氏の名前は英語名の「Harry Wu」と表記
*本翻訳の転載には許可を必要としないが必ず出典元を明記の事。
Journey is the Reward. "My impressions of seeing Harry Wu, human rights activist", May 14, 2008 1:45 PM. [魚拓]


中国での「証明」自体が何の意味も持たない

 どうもこのアメリカ人が一番印象を受けたのはやはりアメリカの消費者という視点から、中国の刑務所労働による製品がアメリカに入って来ているにもかかわらず、それが消費者に知らされていないために、米国の大チェーン量販店の商業主義のために、アメリカの消費者がそういった中国の労働改造所や死の商人を支えている事になっているという疑惑に対する怒りのようである。

 それと同様に、人体展に金を落とせばそれが中国の闇の人体売買市場を潤わす事になるというのがトッド・エイキン議員が主張している事。

 そもそも一党独裁体勢で共産党の意思が正義となる独裁国家で、金儲けのためには偽装が当たり前という国民、そして書面を嫌い口約束とコネで物事が動くような国で、「証明」が何を意味するのかと言えばそれは自ずから知れた事であり、だからアメリカでは鉛入り機関車トーマスや毒ペットフードが起き、日本で起きた毒餃子事件に関してもまず中国当局の最初の反応は責任逃れに終始したというもの。





余談:

宗教的背景

 それにしても「自由の国から世界の人達を助ける」とはアメリカのクリスチャンらしい発想であり、またここに出て来る「科学を信じながらも人間の尊厳は守る」という表現自体が「進化論VS創世記」のような議論の起こる米国の背景を暗に示しているが、米国のマジョリティを動かすには結局「自由」と「宗教」というキーワードが大きい面は少なくとも軽視出来ない要素ではある。

 人体展に関する米メディアの記事で見かけた興味深いものが、シンシナティやピッツバーグなど人体展の開催された都市で、地元のカトリック系の学校が「教育目的としての人体展見学」に対し宗教的な理由から否定的な見解を出しているというものである。

 これは『創世記』の「神の姿に似せて人類を作った」(1:27) と、『カトリック教理』の「人は人としての尊厳を持ち、物ではなく人間である」(357)[>>8]から、葬儀と埋葬を受けるべき“人”の尊厳を考えた時に、人体展を子供達に見せるべきではないという意見。一方でカトリックは医学と教育目的の献体は奨励しており[>>9]、エンターテインメントと営利目的の展示に否定的という事になる。

 またドイツのプロテスタント教会会議のエルンスト・ベンダ議長は人体展に対して、医学と科学に貢献する献体を除き、人は自ら肉体を処分する権利はないとコメント[>>10]するなど、プロテスタントからも疑問の声が聞かれ、カトリックとプロテスタントの両方の教会が人体展に関して、道徳と倫理に反するだけでなく、キリスト教の原理と自然法に逆らう行為であり、死後の人間の尊厳は尊重されるべきだと主張[>>11]するなど、キリスト教界からの批判もこの法制化の動きの背景にあるのかもしれない。


 そもそも、西欧における「人権」の概念そのものが聖書を根拠とする部分もあり、例えば『GotQuestioning.org』という聖書質問サイトでは聖書における「人権」の記述について以下のように説明している。

聖書に「人権」はどのように書かれているか?

聖書を学ぶものは、人類は確かな「人権」を授けられた特別な神の創造物であると理解しなければならない。… 聖書では人類は神の姿に作られ (創世記1:27)、そのため、人類は尊厳を持ち、その他の創造物の上位に位置するもの (創世記1:26) と書かれている。…

 聖書では、キリスト教徒は人種、性別、文化背景や社会的立場で差別してはならず (ガラテア3:28、コロサイ3:11、ヤコブ2:1-4)、全ての者に親切に (ルカ6:35-36)、貧民や虐げられた者を利用する事を厳しく戒め (使徒の働き14:31)、その代わり神の使徒は救いを求めるものを助ける (使徒の働き14:21、マタイ5:42、ルカ10:30-37) と教えている。歴史的に多くのキリスト教徒は人類の仲間を手助けする事がその責任であると理解している。…

 ここに書かれている事と西洋の戦乱と植民地の歴史が余りにも矛盾しているのである意味非常に違和感はあるが、一方ではアメリカ人のマジョリティの思考回路や行動原理を見たときに、その原点にあるものの背景としては興味深いものがある。

 ここでは「人種や社会背景で差別をしてはならず」「虐げられた者を利用する事を厳しく戒め」「救いを求める者を助ける」辺りが、人体展の問題とシンクロする部分があり、自身がカトリック教徒である呉氏がアメリカの民衆に訴える手段としてこのような語り口を選んだのだろう。

次回に続く


初稿:2008年9月8日、「一連のスクープや運動の立役者」の序文追加:2009年8月12日、「ノースカロライナの主婦活動家」を追加:2009年9月21日






関連資料:

法案 HR5677 (2008年4月2日)

HR 5677 IH

第110回議会

第二会期

H. R. 5677

プラスティネーション人間死体の米国輸入を禁止するため、1930年関税法を修正。

下院において

2008年4月2日

エイキン議員 (とウォルフ議員) が以下の法案を提出した。これは歳入委員会で審議された。



法案

プラスティネーション人間死体の米国輸入を禁止するため、1930年関税法を修正。

 アメリカ合衆国議会両院によって制定される。

セクション1. プラスティネーション人間死体の輸入禁止

(a) 1930年関税法 (19 U.S.C. 1304他) の第3章第1部にセクション308の後の項目を追加する事で修正。

セクション308A. プラスティネーション人間死体の輸入禁止

 
(a)このセクションでの定義:
(1) 関税法:この用語「米国関税法」は、国家安全保障省の米国税関国境警備局によって実施・管理された他の法や規則も意味する。
(2) 人物:この用語「人物」は、米国の管轄を条件とするいかなる個人、組合、企業、協会、組織、信託、政府邦人その他の実体を含む。
(3) プラスティネーション人間死体:この用語「プラスティネーション人間死体」は、人間の死体の水分と脂肪分をポリマーに置き換えて腐敗防止保存をされた組織、器官その他の人体パーツを含む人間の死体を意味する。
(4) 長官:この用語「長官」とは国土安全保障長官を意味する。
(5) 米国:この用語「米国」とは、合衆国の通関テリトリーを意味し、統一関税分類 (HTSUS) の注意2において定義されている。
(b) 禁止:いかなる者も米国にプラスティネーション人間死体を輸入する事は違法とする。
(c) 罰則
(1) このセクションやこのセクションに基づく規定に違反するいかなる者も、連邦法第18章やその他の法規定に基づくその他の刑罰に加え、当局に定められた民事刑罰を課されるものとする:
(A) 意図的な違反は一件毎に1万ドル以内の罰金;
(B) 著しく怠慢な違反の場合は一件ごとに5000ドル、又は
(C) 怠慢による違反は一件ごとに3000ドル。
(2) 没収:このセクションの条項やこのセクションに基づく規則に逆らって輸入されたプラスティネーション人間死体は米国によって没収される。
(d) 実施:サブセクション (b) の禁止に関して、長官がこのセクションの条項を実施する。
(e) 法規:このセクションの制定から270日以内に、通知と説明の機会の後、長官はこのセクションの条項を実施する法規を発令するものとする。
(f) その他の法律との調整:このセクションの何物も、米国関税法に基づいた長官の職務と責任に取って替わったり制限すると解釈されないものとする。
(b) 発効日:サブセクションが追加された1930年関税法のセクション308Aは、この法令が制定された日以降にプラスティネーション人間死体の輸入に関して適用される。


[訳=岩谷] (原文:英語)





脚註:(脚註を見る)




写真:

  1. ^ The American Society for the Defense Tradition, Family and Property. "“Bodies Revealed” Protest in Kansas City", March 2008. [魚拓]
  2. ^ Martin Ennals Foundation. "Martin Ennals Award for Human Rights Defenders: Harry Wu". [魚拓]
  3. ^ Duke Human Rights Center. "Sarah at Bodies5". flickr, Aug 26, 2007.
  4. ^ Duke Human Rights Center. "Bodies flyers". flickr, Aug 26, 2007.
  5. ^ Duke Human Rights Center. "6mall security and sheriff 9-01-07". flickr, Aug 26, 2007.
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