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尖閣ビデオの欧米メディアでの報道2

 尖閣ビデオがリークした当初の海外メディアの報道状況は前エントリーでまとめた通りであるが、日本メディアからの情報を仕入れて報じる事実報道が主である初期報道から数日経つと、論評を始める海外メディアもちらほらと出て来る。


エコノミストは強烈な菅政権批判

 その中で今のところ唯一大手メディアによる論評は英国の週刊新聞の『エコノミスト』である。このメディアのシニカルな皮肉の効いた辛口論評は他の英語メディアとは一線を画している事が多かったが、今回は尖閣ビデオリーク事件に絡めて、日本を貶めたのはビデオでなく菅政権であると、強烈な菅政権への批判記事である。

 この記事ではまず、中国の漁船が明らかに意図的な攻撃性を持っていた事がビデオで暴かれた事に言及した後、ビデオの公開と中国政府の恫喝に対して日本政府の弱腰姿勢が菅政権に与えたダメージの大きさは周知の事であり、菅首相の政治手腕は鳩山氏などの素人臭い前任者と何ら変わらないと、その記事の大半が菅政権の批判である。

写真:9月7日、閩晋漁5179に乗り込む海保隊員。(AllVoices)



Asia
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途方に暮れる (全ては海上で)
エコノミスト 2010年11月10日 6:39 (日本時間15:39) by H.T.

 【東京】もしそれがPRによる政変だったとしたら、その機会を想像してみよう。
 党代表戦の熾烈な戦いの後に日本の首相が自分自身の信用を強化する必要があるように、そして米国との半世紀の安全保障同盟への支持を集めるために、彼の政府は今や悪名高い中国トロール漁船の船長の攻撃性が赤裸裸に録画された証拠を入手している。




 その実際のビデオは明白に (2:15を参照)、船長がエンジンをふかして加速し船を日本の警備艇に激突させている様子を映している。日本の警備艇は尖閣諸島 (中国名:釣魚) の近くの日本が領海とみなしている水域での彼の操業を停止させようとしていた。
 その島自体を遠くに見る事が出来る。中国の近隣諸国に対してエスカレートしている独断性のシンボリックな証拠として、この映像に勝るものはない。

 しかし現実世界では、菅直人首相の政府はこの事件を非常に不適切に扱い、その彼自身へのダメージは中国政府のいかなる策謀家が敢えて望む事よりも更に悪い。
 連夜、日本のテレビは激突の場面を繰り返し放送するが、中国が事件に関しどれだけ大袈裟に振る舞ったかを視聴者に思い出させる代わりに、日本がどれだけ弱々しく空しく反応したかに注目を集めさせている。

 中国人船長を釈放したような大胆さで、政府はビデオを正式公開するべきだった。
 その代わり政府は臆病にもビデオを秘密にし、それがネットにリークするまで卑屈に振る舞っていた。

 テレビニュースは今、ビデオをアップした犯罪者を見付けるために怒りで息を切らす警官に満ちあふれているが、それは「薫製ニシン[*]」である。
 人々は誰が日本を貶めたのかを知っている。それは菅首相とそのチームである。
 この不器用な政府と関わる事で名誉を汚されたくない野党の新公明党が補正予算案の支持を取り下げ、政権支持率は低迷している。

 停滞を避けるのに必死な菅首相の民主党にとって、この全てが不吉な兆候である。 この「ねじれ国会」で参議院のコントロールのない政権は野党との協調が必要である。

 過去数十年間政権を持っていた自民党は言うまでもなく、党内の対抗勢力よりもより近代的な政治アプローチに菅氏が向かうと信じていたため、本紙は菅首相に対し疑わしきは罰せずのスタンスであった。
 しかしこれまでのところ残念ながら、彼は政治と外交の日々の職務において、素人臭い前任者達よりも手腕があるようには見えない。

* 薫製ニシンの虚偽 (red herring):意図的に論点をすり替えたり議論を発散させる行為。
[訳=岩谷]
Economist. "All at sea", Nov 10th 2010, 6:39.

 タイトルの「All at sea」は、「at sea」が「海上、航海中」と「途方に暮れて」の2つの意味があり、このタイトルは“海上で起こった事で菅政権が途方に暮れている”というダブルミーニング的使い方である。

 そもそも日本メディアでない英国紙でなぜここまで露骨で感情的な菅政権への批判記事が書かれたのかはいささか不可解ではある。
 「H.T.」とクレジットされているこの記事の作者は東京特派員のようであるが、日本人なのか英国人なのか詳しい情報は分らない。


AOLニュースは日中双方の危機管理能力の低さを指摘

 次は米国のAOLニュースのジョナサン・アダムス記者による論評記事。AOLニュースはメディアとしてはマイナーであるが専属のスタッフを持ち、89人の記者は全てフリー契約のようである。
 アダムス記者はプロフィールによれば、現在台湾在住で、グローバルポスト、クリスチャン・サイエンス・モニター、インターナショナル・ヘラルドトリビューンやニューズウィークなどに記事を書いているフリージャーナリスト。

 ビデオリークの翌日に出たこの記事では、ロシアとの北方領土問題と中国との尖閣諸島問題を結び付け、上海協力機構などに見られるような近年の中露の結束に警戒感を示すとともに、日米条約により米国が巻き込まれる可能性と、尖閣と北方領土それぞれに対する米国のスタンスに関して論じており、やはり米国人ジャーナリストらしい視点である。

 また今回の中国とのトラブルに関しては、日本と中国の両方の政府の危機管理能力の低さから来ており、政府の能力の低さが深刻な事態を招くと、こちらもエコノミストほど強烈ではないにせよ、菅政権に対して全く評価をしていない。




日本は領土問題で南北から挟み撃ち
ジョナサン・アダムス AOLニュース
11月6日15:33 ET [日本時間 7日5:33]



ジョナサン・アダムス
投稿者
 【台北】島国である事で安全保障に恵まれて来た日本が、小さな島嶼に関する別々な領土問題でチャレンジされている。

 北のロシアと南の中国が何らかの形で協調しているかは不明確だが、アナリストは日本で1年前に成立した世界情勢に未経験の中道左派政権が辛口の外交洗礼を受けていると分析する。


Mikhail Klimentyev, AFP / Getty Images
ロシアのドミトリー・メドベージェフ大統領 (右) とサハリン州のアレクサンドル・ホロシャビン知事がクリル諸島の一つの島を訪問する。日本との長年の数十年にわたる係争の中心である遠隔領土である
 この二つの揉め事はまた、日米安保同盟の強さを試しているようである。この同盟は昨年沖縄の米軍基地の移転計画に関する強い不合意で深刻な緊張状態にあった。

 両方の領土問題で米国はその両方に対し二国間協議を促したが、中国もロシアも米国に耳を貸さない。

 トロント大学の東アジア海洋紛争の専門家のジェームズ・マニコム氏は電子メールで「中国とロシアは、米国の善意の仲裁を受けるには米国を十分に信用してなく、それを米国の介入だと見ているだろう」と述べた。

 今週初めに中国は日本との紛争への米国の調停のオファーを拒絶した。


 第二次大戦以来ロシアが支配し日本が領有権を主張している日本の北海道の北東に伸びる諸島をドミトリー・メドヴェージェフ大統領が月曜日に訪問し、外交的小競り合いを起こした。 日本政府はロシア大使を召喚し抗議をした。 (この地図と以下のロシアトゥデイの動画レポートを参照)




 ロシアで「クリル諸島南部」、日本で「北方領土」と呼ばれるこれらの諸島は第二次大戦以来係争中であり、二国が平和条約に正式に署名する事を妨げている。長年の間の様々な申し出や対案はさほどの成功をもたらしていない。

 日本のメディアは、メドヴェージェフ大統領の挑発的訪問を、師であるヴラディーミル・プーチン首相やライバルとの権力闘争を前に彼のナショナリスト的信任に磨きをかける欲求であると分析する。
 この訪問はまた、ロシアが島を「不法占拠」していると昨年ぶしつけに発言した前原誠司外相への牽制と見られる。

 ウォータールー大学の原貴美恵教授はこの訪問は中露の結束を肯定するものであると見ている。原教授は電子メールで「ロシア大統領の係争諸島への訪問は9月下旬の北京での対日戦争 (1936-45) での中ソ同盟65周年式典のための計らいであり、彼等の連帯感を確認するためのもの」と述べた。

 中国人のアナリストはグローバルタイムズへのコメントで「メドヴェージェフ大統領の諸島訪問という強いメッセージは、中国の日本との紛争への強固なスタンスの影響を受けたもの」と同じ分析をしている。


 日本の南端の小島の紛争はより爆発的と見られる。日本で尖閣、中国で釣魚と呼ばれるこの無人島は1972年より日本が実効支配し、中国と台湾が領有権を主張している。

 島の近海で9月に起きた中国漁船と日本の海上保安艇の衝突は、アジアの2大大国の間に少なくとも過去5年間で最悪の外交的緊張を引き起こした。
 この衝突は日中の両方で、大規模な売り言葉に買い言葉のナショナリストの抗議デモの引き金となった。

 今日本と中国は諸島近辺に武装した定期的巡視を行なっている。マニコム教授は「船舶間のこのような誤算の潜在性はこうして高まる」と述べた。

 ワシントンDCのブルッキングス研究所の日中セキュリティ関係の専門家のリチャード・ブッシュ氏は「本当に悪い事が起こる可能性は極めて低いが、結果は非常に悪い」と語った。
 「東シナ海の権益の競争のため、二国間の海軍勢力の何らかの衝突の可能性は増加している」

 ブッシュ氏は、両国の危機管理能力の低さから、些細な出来事が制御不能になると警告をした。
 「プレイにおける制度上の要因として、二つの政府がそういった出来事を抑制し危機を望まない事が、彼等が将来的に事件を抑える事を意味しない」とブッシュ氏は述べた。
 「どちらも本当の危機を望まなくても、本当の深刻な衝突の中でそれを避ける事は困難になる」


 対照的に北方の紛争に関しては潜在的危機はより扱いやすく見える。 原教授は2006年に紛争諸島の近くで日本の漁師がロシアの警備隊に射殺された深刻な事件に言及した。
 「しかし状況はより巧みに処理され」、日露のどちらでも抗議は起きなかったと原氏は述べた。南方では「今回緊張がエスカレートしたのは新米の [民主党] 政府が方策を誤ったからだ」


 条約義務のため二つの紛争は潜在的に米国を巻き込む可能性がある。米日防衛条約により、日本の領土が攻撃を受けたときに米国政府が応じる義務がある。

 新華社によれば、米国はロシアとの係争島嶼に関して日本の主張を支持するが、問題の諸島が日本の支配下にないため防衛条約は適用されないと表明しているという。

 南では状況は逆である。米国は係争諸島の主権に関して何の立場も表明していないが、諸島を日本が管理しているため米日防衛条約の範囲に含まれるとしている。

 月曜日に、9月7日の中国の漁船と日本の警備船の衝突を映したビデオが日本の国会議員に公開された。
 その抜粋と称するビデオがその後リークされYouTubeにポストされた (Japan Probeとアルジャジーラの報道のリンクを参照)




[訳=岩谷]
AOL News (Jonathan Adams). "Japan Besieged From North and South by Island Claims", Nov 6, 2010 3:33pm ET.

 ここで日本が尖閣諸島を1972年から実効支配と説明されているのは、これは沖縄返還以降という意味。



ジャカルタグローブのヨタ記事の作者はオーストラリア人

 最後はインドネシアの英字紙『ジャカルタグローブ』に寄稿された論評コラム。これは2008年に発刊した新しいメディアで政治・社会・ビジネス・スポーツをカバーする総合紙で、インドネシアの華僑系財閥『リッポーグループ (力宝集団)』傘下のメディア。

 ここで記事を書いているジョエル・ラサス氏はプロフィールを見ると、東アジアの国際政治経済と日中関係が専門で、オーストラリアのアデレード大学で最近博士号を取得し、明治大学でも博士号を取得し、2008-10年に文部科学省の研修員と紹介されており、東アジア関係のネットメディアに記事を書いたり、日本では2009年に「戦略研究学会」で研究発表をしたりなど、日本とも接点のある人のようである。

 記事では「sengoku38」の由来をシナ戦国時代に由来する名前 (戦国時代の国名?) であり「戦国」を日本語読みしたもので、「38」は支那事変とも結び付けたという、いかにも東アジア史と日本語をかじったオーストラリア人といった分析をしている。

 尖閣リークビデオに関してはこれは中国漁船側の故意による衝突と論じているが、その後に日本の海上保安庁が中国船を拿捕したのは不法であり、それが中国を怒らせているという、独断的な内容でありながら完全に中国側の視点で発言し、リークした人物を戦争賛美のネオナショナリストと断じている、これを書いたのが中国人かと思うほどバイアスのかかった反日記事である。

 しかしこれは完全に事実誤認から書いている内容であり、ラサス氏の記事は根拠のない事を独断的・断定的に論じるヨタ記事であり、ジャカルタグローブに寄稿された記事の質の低さの印象は免れない。



国家の衝突
ジョエル・ラサス
ジャカルタ・グローブ 2010年11月8日


 先週金曜日に、日本の海上保安庁によって撮影された9月7日に起きた中国の漁船との衝突のビデオが「Sengoku38」というユーザーによってYouTubeにリークした。これが本物の映像である事の疑いの余地はない。

 中国の船舶名の文字「閩晋漁」は中国史における戦国時代初期に由来するのは皮肉である。この繋がりは映像をリークさせた人物が採用し、その名前の意味は「戦国38」である。

 この「38」は1938年の第二次日中戦争に由来し、ネオナショナリストの不穏な提案であると見られる。

 実にこの名前はこの事件が単なる日中のライバル性よりも、敵対関係の始まりの可能性を象徴する名前に見える。

 それが何を示すのか?


 この映像は6つの部分でリリースされ全体が44分である。

 最初の3本は単に海上保安庁が漁船に対し日本の領海に入っていた事を (中国語で) 警告し退去を命じているものである。
 動画中の声はその時刻 (10:05) と場所を提供する。

 衝突は4本目で起きている。

 藺桐坐ツ垢郎能蕕粒ぞ緤欅堕「よなくに」が「前を通過する」のを待っていたと見られ、すなわちそれは「閩晋漁」の真っ正面垂直位置であり、突如加速して「よなくに」に向けて舵を切った。藾ツ溝Δ衝突を避ける事は容易であり、一回目の衝突の性質からそれが故意である事に疑いの余地はない。

 5本目は2つめの海上保安艇の「みずき」が「閩晋漁」と並航している所から始まる。
 サイレンが鳴り響く中、中国語と英語と日本語で「ストップエンジン」の警告が発せられる。 10:55に「閩晋漁」は突然左に舵を切り「みずき」の中央部に衝突している。

 6本目は同じものを警備艇「はてるま」から映したものである。 映像では「閩晋漁」が明らかに無謀に振る舞い2回目の衝突を起こしている事を映している。


 最初の事件の場所は、1997年の日中漁業協定の暫定処置水域の中であり、従ってこの海域の共同利用のための規定外となる。

 これはフラッグステート (船舶の登録国) が逮捕・拘束を行い、又は条約不履行の調査が許可されている事を意味する (日中漁業協定委員会の通知に応じなければならないにせよ)。
 日本は漁業違反の疑いのある船舶を取り締まる許可を受けていない。

 しかし挑発が何であろうと、日本は漁船に対してアグレッシブな行動を起こす許可がされているのか?

 その答えは議論の余地はあるが、それは少なくとも、日本が海洋安全を守るためなのか、それとも尖閣/釣魚台諸島近辺の現状を変える事で自らの国益を更に狭めるための行動なのかによるだろう。

 中国を怒らせているのは明らかに、日本側が「閩晋漁」に乗り込み船長を逮捕した事で、日本が国連海洋法の下での主権的権利を行使する気があるという事である --- 日本の行動が現状を変えるためのものでなかったとしても。


 藾ツ垢梁疂瓩肋彳佑ら12時間近く経ってから決定された。
 これは逮捕を行なうための慎重な決定がなされ、その決定が恐らく外務省との相談において日本政府のトップ (菅直人首相と前原誠司外相) によるものである事を示唆している。

 実に、中国はハノイで外相をその発言に関して名指ししている。

 日本の政治家達が個人的にビデオ映像を見ていたとしても、その時それを一般公開する決定とはならなかった。
 それに続くこのリークは菅首相、前原外相と北沢俊美防衛相を、リーク元の調査に関して無能に怒鳴らせるだけだった。

 興味深い事に、この事件の影響で1997年の漁業協定が廃止されてはいない。少なくとも今のところは。この協定は一方側が通知をすれば6ヶ月後に失効する。

 仙谷由人官房長官は、二国がまだなお現状復帰を事に取りかかる意思を示す何かしらのシンボルであるこの協定の存在を支持すると表明した。

 まず何よりも、単に2国が敵対している余裕がない事は認めるところである。

東アジアフォーラム

[訳=岩谷]
Jakarta Globe (Joel Rathus). "The Thinker: Nations Colliding", November 08, 2010 .

 突っ込み所を以下にリストしてみる:

  1. 中国の戦国時代と「閩晋漁」との繋がりという日本人の視点からはいささかマニアな事を考える以前に、日本にも戦国時代はある。

  2. 支那事変 (第二次日中戦争) が始まったのは盧溝橋事件、通州事件、第二次上海事変のあった1937年であり、一方中国側は1931年の満州事変が開戦と認識しているため、開戦でも終戦でもない「1938」という数字を特に支那事変と結び付ける根拠は乏しい。

  3. 尖閣ビデオで「ただ今の時刻は10:05」と言っている場面はない。聞き間違いと見られる。

  4. 衝突現場は尖閣諸島の久場島から北北西約12キロの地点であり、これは12海里 (22.22キロ) 以内を領海と定めた国連海洋法条約では日本の領海内となるため、ここに日中漁業協定の暫定処置水域の問題を持ち出すのは間違い。

 動画で暴かれた部分は仕方ないとして、それ以外をここまで中国の忠実な僕として記事を書くのは、『ジャカルタグローブ』の親会社が華僑系財閥であるからなのかは知らないが。

 一方、オーストラリア人も大戦に関しては世界でトップクラスに反日の傾向が強く、白人移民国家の主要メディアのABCニュースの日本特派員もアレルギー的に「ナショナリスト」を毛嫌いしているのも何か関係しているのだろうか。(了)




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