9月13日付のワシントン・ポストの社説で、「日本の後退?」と題して安倍首相の退任と小沢党首のテロ対措法延長反対に対する危惧が書かれています。これが日本のメディアでは時事通信、朝日新聞、産經新聞で報じられていますが、今回はその比較を行なってみようと思います。
このワシントンポストの社説は一昨日『
歩く花』さんで取り上げられていたのですが、ウェブ翻訳だと半分位は意味不明になってしまうので、暗に訳を頼まれていたようですw。ま、彼とも付き合いが長いのでやってみる事にした訳ですが、今回は同じ社説を元に朝日と産経が正反対の主張をしているので、比較検証のネタにしてみます。
まず時事通信ですが、米東部時間の午前2時21分に出た最初の記事で、短い速報的な記事です。
テロ特措法延長反対に憂慮=「日本の信用損なう」と警告−米紙
時事通信 2007.9.13 15:21
【ワシントン13日時事】13日付の米紙ワシントン・ポストは、安倍晋三首相の退陣に関する社説を掲載し、民主党の小沢一郎代表がインド洋での海上自衛隊の給油活動の根拠となっているテロ対策特別措置法延長に反対していることに憂慮を表明した[*1]。
社説は、国際安全保障面で経済力に見合う責任を担いたいとした小泉純一郎前首相の方針は「現在でもなお正しい政策」[*3]と強調。党利のための政策変更は国際社会での日本に対する信用を損なうことになると警告した[*4]。
次は産經新聞。これが一番長い記事ですが、基本的には産経と時事通信は同様の内容を報じています。
給油中断なら信頼損ねる 安倍首相退陣で米紙警告
産経新聞 2007.9.13 17:53
【ワシントン=有元隆志】米紙ワシントン・ポストは13日付の社説で、安倍晋三首相の退陣表明に伴い、日本が海上自衛隊によるインド洋での給油活動を中断することになれば、「日本に対する米国や国際社会の信頼を長期にわたり損ねることになる」と強く警告した[*4]。
「日本の後退?」と題した社説は、安倍首相の退陣は「驚くことではない」とし、韓国や中国との関係改善は行ったものの、慰安婦問題で強制性を否定したほか、閣僚が相次いで辞任したなどと指摘した。
「通常は日本が新たな出発をする機会と歓迎するのだが、安倍首相をとりまく状況をみると、懸念要因になっている」として、民主党の小沢一郎代表が11月に期限切れとなるテロ対策特別措置法の延長に反対している状況に危惧(きぐ)を表明した[*1]。
安倍首相が活動継続に「職を賭して取り組む」との決意を示したにもかかわらず直後に退陣に追い込まれたことで、小沢代表らに、「反米感情を利用することが成功するとの危険なシグナルを送っている」として、首相の対応を批判した[*2]。
そのうえで、2001年の米中枢同時テロ後、小泉純一郎前首相が国際的な安全保障でも責任を担うとして、インド洋に自衛隊を派遣したことについて「今でも正しい政策だ」[*3]として、活動継続を求めた。
それで最後が朝日新聞。タイトルこそ「小沢氏に再考求める」ですが、その中身は丸っきり安倍批判であり、産経と比べただけでもワシントンポストの社説が「安倍首相の批判社説」に演出されてるのが分かります。
給油活動、小沢氏に再考求める ワシントン・ポスト紙
朝日新聞 2007.9.13 18:19
13日付の米紙ワシントン・ポストは、海上自衛隊のインド洋での給油活動について「日本の撤退?」と題して社説で取り上げた。反対姿勢をとる民主党の小沢代表らに再考を求めている。
社説では、この問題を理由に挙げた安倍首相の退陣表明について「普通なら我々は再出発を歓迎するが、これは懸念材料だ」と批判[*1]。給油が継続できなければ退陣するとの決意を示した直後に退陣したことを「非常にお粗末な読み」とこきおろした。反米感情に訴えることが政治的に受けるという「危険なシグナル」を小沢氏らに送った、と分析している[*2]。
一方で、「アフガン戦争は米国が国際社会の合意なしに始めた」とする小沢氏らの主張は「ばかげている」とも指摘。「短期間の党派的な利益のために正しい政策[*3]を捨てれば、米国と国際社会における日本の信頼は長期的なダメージを受ける」としている[*4]。
それでは、元になったワシントンポストの社説の全文訳です。
社説
日本の撤退?
首相の辞職は、アフガニスタン駐留の同盟国への日本政府の責任意識への不信感を引き起す
ワシントンポスト 2007年9月13日 (木)、A18面
9月10日の所信表明演説後の安倍首相 (Photo: Itsuo Inouye - AP) |
それは突然の事でありながら、日本の安倍晋三総理の辞職は驚くべき事ではなかった。安倍氏はまず韓国や中国との関係改善を行なったが、大戦中の日本がアジア女性を性奴隷へと強制した事への否定によって、昨今は反日感情が高まっていた。彼の閣僚のうち四人が不正や不適格によって辞任した。うち一人は自殺をしている。彼の自由民主党が2カ月前に国政選挙で大敗北をし、参議院でのコントロールを民主党を中心とする野党連合に明け渡したのは別段不思議な事ではない。
私達はいつもであれば日本の新たな出発の機会を歓迎する筈であるが、今回の安倍氏の失脚にまつわる状況はむしろ懸念すべき事である[*1]。最近安倍氏は、民主党とその党首の小沢一郎氏から、インド洋における米国を中心とする連合軍への協力として日本の海自を派遣している件に関して攻撃に晒されていた。日本の任務は同盟国軍への給油に限られている。与えられた平和憲法とその過去の軍国主義など、この派遣は論争を引き起こしていた。しかし小沢氏は「国際社会の同意を待つ事なく米国は一方的にこの戦争を始めた」という不用意な発言でアフガニスタン作戦自体の正当性を否定し、深刻な論争の域に踏み込んだ。
(Photo: Reuters) |
小沢氏は、タリバンやアルカイダとの戦いへの日本船舶の協力を許可する特別法の延長を防ぐために、参議院での民主党の勢力を使うと公言した。今週まで安倍首相は、この問題を譲るよりは辞任を選ぶと同じ位強い調子で公言していた。それが非常にお粗末な読みであった事を、彼の辞職がそれを明白にしてしまった。またそれは、
反米感情を利用する事が日本の政界での勝利法であると言う危険なシグナルを小沢氏などに送ってしまったという事だ[*2]。
攻撃対象の安倍氏がもはやいないので、小沢氏と民主党には彼等の立ち位置を再考するための理由は数多くある。インド洋に於ける日本の役割は決して小さなものではない。しかしカナダ、ドイツ、フランスなどのように実戦部隊を送っている同盟国の負担に比べれば、その政治的対価に関しては日本の方が少ない。2001年に日本が西南アジア支援を始めたのは、国際安全保障面で経済力に見合う責任を担いたいと、小泉純一郎元首相が求めていた事を示すものであった。これは今でも正しい政策である[*3]。短期的な党派争いの政治的利益のためにこの政策を今転換する事は、米国や国際社会における日本の信頼は長期的なダメージを受ける事となるであろう[*4]。
第一段落部分には中韓との関係改善が言及されたり、閣僚の辞任が安倍政権のダメージに大きく繋がった件などが書かれていますが、そこは産経のみが報道。一方小沢党首の「国際社会の同意を待つ事なく米国は一方的にこの戦争を始めた」をばかげた発言 (announcing, absurdly) という表現は朝日のみが取り上げています。
それでは項目別に比較をしてみます。
1. 私達はいつもであれば日本の新たな出発の機会を歓迎する筈であるが、今回の安倍氏の失脚にまつわる状況はむしろ懸念すべき事である。(WP)
Ordinarily, we'd welcome the opportunity for Japan to make a fresh start. But the circumstances of Mr. Abe's downfall make it a cause for concern.
時事通信と産経では、その「懸念」に関して「小沢代表がテロ対策特措法の延長に反対している状況」としているのに対し、朝日はそれを「安倍首相の退陣表明」についてと全く別な解釈をしている。しかしワシントンポストには「安倍氏の失脚にまつわる状況」(the circumstances of Mr. Abe's downfall) と書かれており、それに続いて小沢党首と民主党からの「攻撃に晒されていた」 (under attack) と書かれているため、これは朝日新聞の方が解釈が不自然。
2. 反米感情を利用する事が日本の政界での勝利法であると言う危険なシグナルを小沢氏などに送ってしまったという事だ。(WP)
It also sends Mr. Ozawa and others the dangerous signal that exploiting anti-U.S. sentiment can be a winning gambit in Japanese politics.
産経ではワシントンポストが「首相の対応を批判した」としているのが、朝日では「分析している」とニュアンスがかなり違う。要するに産経がこのWPの見解を支持し、朝日は一つの考え方として扱ってると言う事になる。
3. 2001年に日本が西南アジア支援を始めたのは、国際安全保障面で経済力に見合う責任を担いたいと、小泉純一郎元首相が求めていた事を示すものであった。これは今でも正しい政策である。(WP)
In 2001, when Japan first stepped up to help in Southwest Asia, it demonstrated that then-Prime Minister Junichiro Koizumi wanted Japan to assume international security responsibilities commensurate with its economic might. This is still the right policy.
「正しい政策だ」(This is still the right policy) の部分を朝日はぼかしている。
4. 短期的な党派争いの政治的利益のためにこの政策を今転換する事は、米国や国際社会における日本の信頼は長期的なダメージを受ける事となるであろう。(WP)
To reverse it now for short-term partisan political advantage would do lasting damage to American and international perceptions of Japan's reliability.
時事と産経が「と警告した」「と強く警告した」としているのに対し、朝日は「としている」と全くニュアンスが違う。産経はこの部分をトップに持って来て強調しているの対し、朝日はWP社説に書かれてる順番通りに言及。
そもそもこの社説全体を読めば「安倍批判」ではなく「小沢批判」の社説であり、「カナダやドイツやフランスに比べて日本の政治的対価は少ない」などかなり強いトーンでテロ対策特措法の延長を要求してるので、産経や時事が警告と捉えてるのに対し、全体的に朝日はどうも「ワシントンポストは何を言ってやがる」というニュアンスに見えます。
この手の分析は、以前は朝叩き板などによく投稿していたのですが、朝日と産経は主張がはっきりしていて、こういう結果になるのはある意味いつも通りの想定範囲内です。むしろ読売や毎日、共同通信、NNN、TBS辺りが割とブレが大きいのと、東京新聞は時には朝日よりも過激なので、各メディアがどういうスタンスを取るかがむしろ興味深かったりします。今回時事通信は産経と揃った報道で、WP社説との趣旨のニュアンスの違いはむしろ朝日が目立った印象です。
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