
3月31日に判決が出された国際司法裁判所での調査捕鯨裁判の判決内容は既に各メディアに報じられ、巷でもいろいろ分析がされていると思われるが、同日に出た5ページのプレスリリースの忠実な訳を試みてみた。
全76ページの判決文も既に公開されているが長大なため詳細分析は専門家にお任せする。
この判決の主要争点は2005年度より行われている日本の調査捕鯨の「第二期南極海鯨類捕獲調査」(JARPA II) が国際捕鯨取締条約における「科学研究目的」の調査捕鯨として妥当かどうかであり、反捕鯨団体が主張するようなアニマルライツや調査捕鯨自体の是非は議題ではない。
従って日本の調査捕鯨そのものを禁じる判決ではなく、条件さえ満たせば再開可能というものである。
判決内容として2005年より実施されたJARPA IIが:
A. 国際捕鯨取締条約の第8条第1項の「科学的研究 [目的] のため」に該当するかどうか→×
B. 商業捕鯨を禁じる同条約付表の第10項 (e) に該当しないかどうか→×
C. ミンク、マッコウ、シャチ以外の鯨の捕殺処理を禁じる同付表の第10項 (d) を順守したか→×
D. 南洋サンクチュアリでの商業捕鯨を禁じる同付表の第7項 (b) を順守したか→×
E. 調査の許可発給前にIWCに通知するという同付表第30項に日本が従ったか→〇
一方のシーシェパードだが、コメンタリーを出すなど歓迎の意思は示しているのだが、シーシェパードのキャンペーンとは全く関係ない所で調査捕鯨の差し止めとなった辺りや、テレビ番組『鯨戦争』になるなど彼等の最大の広告塔キャンペーンの対象そのものが無くなってしまうというジレンマからか今一つ歯切れは良くない様子に見える。
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非公式 |
2014年3月31日
裁判所は、南極海での日本の捕鯨プログラム (JARPA II) が国際捕鯨取締条約付表の3つの条項に従っていないと認める
【2014年3月31日:デン・ハーグ】国連の主要司法機関である国際司法裁判所 (ICJ) は本日、南極海での捕鯨(オーストラリア対日本:ニュージーランド訴訟参加)に関する訴訟への判決を言い渡した。
抗告のない確定裁判の判決において裁判所は:
(1) 2010年5月31日にオーストラリアによって提出された出願を扱う管轄権を [裁判所が] 持つ事を満場一致で認める;
(2) JARPA IIに関して日本が与えた特別許可は、国際捕鯨取締条約第8条第1項の規定に該当しない事を12対4で認める;
(3) JARPA IIの遂行にあたりナガスクジラ、ザトウクジラおよび南極ミンククジラの捕獲・殺害・処理の特別許可を与える事で、日本が国際捕鯨取締条約付表第10項 (e) の義務を順守して来なかった事を12対4で認める;
(4) JARPA IIの遂行にあたりナガスクジラの捕獲・殺害・処理に関する国際捕鯨取締条約付表第10項 (d) の義務を日本が順守して来なかった事を12対4で認める;
(5) JARPA IIの遂行にあたり「南洋サンクチュアリ」におけるナガスクジラの捕獲・殺害・処理に関連する国際捕鯨取締条約付表第7項 (b) の義務を日本が順守して来なかった事を12対4で認める;
(6) JARPA IIに関して国際捕鯨取締条約付表第30項における義務に日本が応じて来た事を13対3で認める;
(7) JARPA IIに関連して出されたいかなる残存する認可・許可・ライセンスも日本が撤回し、同プログラムの遂行の更なる許可を出す事を自粛するものと12対4で査定する。
裁判所は、本法定の管轄権の根拠としてオーストラリア側が、国際司法裁判所規定第36条第2項に基づいて両当事国によって出された訴えを援用 (主張) していると認識している。
日本はオーストラリアが提出したこの紛争に対する裁判所の管轄権に反論し、「海事区域の境界設定」や「紛争エリアや境界設定が未解決のそういった海事区域の隣接 [海域] の [経済的] 利用の内外の問題に起因し、それに関する」紛争に関連したオーストラリアの訴えに含まれる同国のリザベーション (権利保留) (b) に該当すると主張する。
リザベーションが適用可能であるためには、裁判に対して両国間の海洋境界設定に関する紛争の存在が要求されると裁判所は思慮する。
南極海での当事国間の海事境界設定紛争がなく、現在の紛争は適合性の問題であり、又は条約の義務を伴った日本の捕鯨活動の問題ではないため、裁判所の管轄権に対する日本側の異議は是認出来ないと裁判所は締結する。
条約第8条の解釈と適用が現在の訴訟の主要課題である。
特別許可の要求を拒否するか又は許可付与条件を指定する事に関してこの条項は条約締約国に裁量権を与えるが、裁判所の検証では、要求された特別許可に従った鯨の捕獲・殺害・処理が、単にその国の認識に依存する事が出来ないかどうかの問題である。
そして裁判所は条約第8条の「科学的研究 [目的] のため」のフレーズの意味に話を進める。
裁判所の検証では、このフレーズの二つの要素は累積的である。
結果として、ある捕鯨プログラムが科学研究を含んでいたとしても、そういったプログラムに従った鯨の捕獲・殺害・処理は、それらの活動が科学研究の「目的のため」でない限りは、第8条には該当しない。
従って、「科学研究」の一般定義の提供や、「目的のため」の言葉の意味に注意を集中する事が必要だとは裁判所は思料しない。
とりわけ、あるプログラムでの致死メソードの使用が科学研究の「目的のため」かどうかを確かめるために、そのようなプログラムの計画と実施の要素が、その調査の目的とされる物に対して合理的かどうかを裁判所は思料する。
両当事国の議論で示されるように、これらの要素が含むのは:
・致死メソードの使用に関する決定;
・プログラムの致死サンプル使用の規模;
・サンプル量の選択で用いられた方法論;
・目標サンプル量と実際の捕獲量の比較;
・プログラムと関係したタイムフレーム;
・プログラムの科学的アウトプット;
・プログラムの活動における関連研究プロジェクトとの調整の程度
である。
JARPA IIが大まかには「科学研究」として特徴付けが出来ると裁判所は認める。
それで裁判所はその計画と実行がプログラムの研究目標とされる物の達成に関して合理的かどうかを調査する。
致死メソード使用に関する日本の決定への調査で、JARPA IIのサンプル量設定や、近年に同プログラムが同一サンプル量の目標を維持した事のいずれにも、非致死メソードの実現可能性や実行性が何らかの検討がされたという証拠を裁判所は認める事は出来ない。
また、日本がJARPA IIの研究目標達成の手段として、より少ない致死捕獲と非致死サンプル増加の組み合わせが実現可能かどうかを検討したかの証拠に関しても裁判所は認める事が出来ない。
JARPA IIの致死メソード使用の規模に関して話を進めるが、JARPA IIとその前身プログラムのJARPAの [二つの] 研究計画間の比較により、その二つのプログラムの主題・目的・メソードに相当な重複がある事が明らかになった事を裁判所は認識している。
裁判所にとってこれらの類似は、生態系観察と多重種競合に関するJARPA IIの目標が、ミンククジラのサンプル量の大幅な増加とその他2種の致死サンプルを必要とするJARPA IIの顕著な特徴という日本側の主張に疑問を抱かせる。
また、特別許可が当事国によって出される前に、特別許可と審査の下に実施された研究結果を分析し、特別許可を審査・論評する科学委員会(条約に基づきIWCが設立した組織)によるJARPAの最終審査を待たずに日本がJARPA IIを開始したと裁判所は認識している。
JARPA IIのサンプル量の続行決定を、JARPAの審査の前に決定した事に対する日本側の説明の不十分さが、それらサンプル量とJARPA IIの開始日が厳格な科学的考察によって決められた物ではないという検証に根拠を与えると裁判所は思料する。
種ごとのサンプル量の決定に対する広範囲な調査により、JARPA IIに関する証拠は全体のサンプル量を算出する基本的決定のためのわずかな分析と正当化しか提供せず、プログラムが示す研究目標の達成に関してJARPA IIの計画が合理的かどうかの更なる懸念を引き起こすと裁判所は認識している。
裁判所はまた、JARPA IIの目標サンプル量と実際の捕獲量の間に相当の隔たりがある事を見ている。
裁判所の検証では、JARPA II研究計画におけるナガスクジラとザトウクジラの目標サンプル量と実際のこれらの2種の捕獲量の隔たりは、JARPAと比べてより大きなミンククジラの目標サンプル量を正当化する、生態系研究と多重種競合に関連した目標という日本の主張の土台を損なうものである。
科学研究目的のプログラムというその特徴の説明に対して、更なる疑いを抱かせる3つの追加的観点がJARPA IIにある事を裁判所は認識している:
・プログラムの無制限な時間枠、
・現在までのところ限られた科学的アウトプットしかない、そして
・南極海でのJARPA IIとその他の国内外の研究プロブラムとの共同性の欠落。
全体として見ると、JARPA IIは大まかには科学研究の特徴を持つ活動を含むと考えられるが、「そのプログラムの計画と実行が目標とされる物の達成に関して合理的との証拠とならない」と裁判所は思料する。
JARPA IIに関する鯨の捕獲・殺害・処理で日本が与えた特別許可は、条約第8条第1項に従った「科学的研究 [目的] のため」ではないと裁判所は結論付ける。
日本が付表の幾つかの条項に違反したというオーストラリア側の主張に照らして、次にその結論に関わる事に関して話を進める。
付表第7項 (b)、第10項 (d) と第10項 (e) に関して、これらの付表の文言は [それぞれ] 異なるとして、先住民生存捕鯨以外の全ての捕鯨は第8条第1項には該当せず、それは3つ全て条項の条件であると裁判所は思料する。
従って裁判所は日本が:
(i) ミンククジラ、ナガスクジラ、ザトウクジラの年間捕獲数ゼロに制限されている商業捕鯨モラトリアム;
(ii) 各解禁期の捕鯨母船モラトリアムにおいてJARPA IIでナガスクジラの捕獲・殺害・処理;そして
(iii) 各解禁期の商業捕鯨が禁じられている南洋サンクチュアリの商業捕鯨禁止においてJARPA IIでナガスクジラの捕獲
の違反をして来たと結論付ける。
科学委員会の査読・論評への十分な時間を与えるため、締約政府は科学許可を出す前にIWC事務局長に通知する事を要求する付表第30項に日本が違反したというオーストラリアの主張に裁判所は話を進める。
この件に関して、日本がプログラムへの最初の許可を出すのに先駆けてJARPA II研究計画を科学委員会に提出し、その後の全ての許可も査読のために提出した事を裁判所は見ている。
裁判所はまた、JARPA II研究計画がその条項に指定された全ての情報を出している事を認識している。
これらの理由に関して、裁判所はJARPA IIに関する限りは日本が付表30の要求を満たしていると思料する。
裁判所はJARPA IIが進行中のプログラムである事を知っている。
これらの状況において、確認判決を上回る方策の根拠がある。
従って裁判所は日本がプログラムの遂行にあたってJARPA IIに関係した鯨の捕獲・殺害・処理へのいかなる残存する認可・許可・ライセンスを撤回し、条約第8条第1項による更なる許可発給の自粛を命じる。
裁判所は、第8条の意味に該当する科学研究目的でないいかなる特別許可捕鯨の認可や実行を日本に自粛を要求するという、オーストラリアの要求する更なる対策を命じる必要は見いださない。これらの義務は既に全ての関係国に適用されているからである。
裁判所の構成
裁判所は以下から成る:トムカ裁判長;セプルヴェダ=アモール副裁判長;裁判所:小和田、アブラハム、キース、ベノウナ、スコトニコフ、カンカード=トリンダーデ、ユースフ、グリーンウッド、スー、ドノグー、ガヤ、セブティンデ、バンダーリ;チャールズウォース臨時裁判所;クヴレール記録官(中略)
判決の要約は「要約第2014/3号」に掲載される。
このプレスリリース、要約と判決全文は裁判所ウェブサイト (www.icj-cij.org) に「裁判」のタイトルでアップされる。
備考:裁判所のプレスリリースは情報の目的のみのために記録係によって作成され、公式文書にはならない。
(以下国際裁判所に関する説明のため略)International Court of Justice. "Press Release" (No. 2014/14), 31 March 2014. (PDF)
参考資料:
法令用語日英標準対訳辞書 日本法令外国語訳データベース (法務省)
関連資料:
1. この条約の規定にかかわらず、締約政府は、同政府が適当と認める数の制限及び他の条件に従って自国民のいずれかが科学的研究のために鯨を捕獲し、殺し、及び処理することを認可する特別許可書をこれに与えることができる。また、この条の規定による鯨の捕獲、殺害及び処理は、この条約の適用から除外する。各締約政府は、その与えたすべての前記の認可を直ちに委員会に報告しなければならない。各締約政府は、その与えた前記の特別許可書をいつでも取り消すことができる。
国際捕鯨取締条約附表-Ⅲ.捕獲より
サンクチュアリーおよび商業捕鯨モラトリアムに関する項を抜粋
7.(b) 条約第5条1(c)の規定により、南大洋保護区と指定された区域において、母船式操業によるか鯨体処理場によるかを問わず、商業的捕鯨を禁止する。この保護区は、南半球の南緯40度、西経50度を始点とし、そこから真東に東経20度まで、そこから真南に南緯55度まで、そこから真東に東経130度まで、そこから真北に南緯40度まで、そこから真東に西経130度まで、そこから真南に南緯60度まで、そこから真東に西経50度まで、そこから真北に始点までの線の南側の水域から成る。この禁止は、委員会によって随時決定される保護区内のひげ鯨及び歯鯨資源の保存状態にかかわりなく適用する。ただし、この禁止は、最初の採択から10年後に、また、その後10年ごとに再検討するものとし、委員会は、再検討の時にこの禁止を修正することができる。この(b)の規定は、南極地域の特別の法的及び政治的地位を害することを意図するものではない。
10.(d) この10の他の規定にかかわらず、母船又はこれに附属する捕鯨船によりミンク鯨を除く鯨を捕獲し、殺し又は処理することは、停止する。この停止は、まっこう鯨及びしゃち並びにミンク鯨を除くひげ鯨に適用する。
10.(e) この10の規定にかかわらず、あらゆる資源についての商業目的のための鯨の捕獲頭数は、1986年の鯨体処理場による捕鯨の解禁期及び1985年から1986年までの母船による捕鯨の解禁期において並びにそれ以降の解禁期において零とする。この(e) の規定は、最良の科学的助言に基づいて検討されるものとし、委員会は、遅くとも1990年までに、同規定の鯨資源に与える影響につき包括的評価を行うとともに(e)の規定の修正及び他の捕獲頭数の設定につき検討する。
国際捕鯨取締条約附表ーVI. 必要な情報より
30. [各] 締結国政府は、科学的許可の発給に前もってそれらが査読・論評される十分な時間を与えるためにIWC事務局長にその企画を提供するものとする。この許可の計画は:
(a) 研究目標;
(b) 捕獲対象の数、性別、大きさと生息数状況;
(c) 他国の学者の研究参加の機会;そして
(d) 生息数への影響の可能性
を具体的に述べるものとする。
許可の計画は年次総会における可能時に科学委員会によって査読・論評されるものとする。次回の年次総会に先駆けて許可が発給される時は、事務総長は許可計画を科学委員会の委員に論評と査読のために郵送するものとする。その [前持った] 許可に起因するいかなる研究の予備的成果も科学委員会の次回の年次総会時に準備されているものとする。
"International Convention for the Regulation of Whaling, 1946 - Schedule" (Ammended July 2012). International Whaling Commission. (PDF)
国際捕鯨取締条約 (英語) (外務省)
International Convention for the Regulation of Whaling, 1946 - Schedule (英語) (IWC)
関連ブログ・サイト:
国際司法裁判所の判決に科学性なし (katabire)
国際司法裁判所判決に関する私的解説 (色々様々綴る雑記帳)
Wikipedia項目:
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