
5月28〜29日に姫路市で開かれた日本動物園水族館協会 (JAZA) の通常総会において、協会総裁として出席された秋篠宮さまがJAZAの決定に対して「協会全体として将来的にプラスに働くことと思います」と発言された件に関して、早速シーシェパードとドルフィンプロジェクトの両方が「日本のプリンスがイルカ漁禁止を支持した」と騒いでいる。
実際に日本で報じられた秋篠宮発言の全体の文脈を見れば、JAZAへの支持といったはっきりとした意思表示ではなく、「多数決で決めた事だから協会全体としては差し引きプラスだろう。苦しい決断だった事は理解する」といった趣旨に読める。
それに対し、ドルフィンプロジェクトは「プリンス・アキシノがJAZAへの支持を表明した」と表現している一方、シーシェパードに至っては「プリンス・アキシノがWAZAに同意した」とまで話が飛躍している。
両団体とも29日午前に閉幕した総会の閉幕の同日中に声明を出すなど非常に素早い反応だが、ドルフィンプロジェクトに関しては同日日付で出た毎日新聞の英語版に掲載された共同通信の英語記事を情報源としており、シーシェパードに関してもタイミング・内容的に情報源は共同通信英語版である。
ドルフィンプロジェクト(アースアイランド)
ドルフィンプロジェクトが出した声明の本文中に毎日新聞掲載の共同通信の英語版記事のリンクがあり、記事から引用もされている。
…共同通信によると:「総会の初日には協会総裁を務める秋篠宮さまが、イルカに関して水族館に予想される苦難に憂慮を表明されたが、JAZAの決定は将来的にポジティブな影響を生み出すだろうとも述べられた。」とある。
伝えられるところによれば、参加者はプリンス・アキシノのこの問題に関する歯に衣を着せない発言に面食らったという。
…JAZAの決定へのプリンス・アキシノの支持は、我々がこれまでに見た日本におけるイルカのための最も重要な支持である。
ひょっとすると彼や皇族は、捕鯨やイルカ政策に関して日本の水産庁が国全体を世界の嫌われ者にしている事にうんざりしているのかもしれない。
日本がイルカや鯨の殺戮から離れ、海洋哺乳類に関して国際コミュニティにおける日本の科学的で協力的な機能に向かう事に彼と皇族が役に立つ事が出来る。
ウィキペディアで調べただけの不正確で雑な秋篠宮さまのキャリアの紹介や、「参加者はプリンス・アキシノの歯に衣を着せない発言に面食らった」などどこの報道にも書かれていない事が書き加えられるなど相変わらずのいい加減さである。
またJAZA離脱を検討している水族館が複数ある事は既に複数のメディアで報じられている既成事実だが、それを「噂」で済ましてしまう辺りも英語圏に対する実績アピールが白々しい。
シーシェパード
一方でシーシェパードは日本時間29日19:11にポール・ワトソンのFacebookでコメンタリーを出している。
…しかしながら、メンツが大いに重視されている国において、プリンス・アキシノがWAZAに同意した事は、この小さなコミュニティが日本の国家全体にこのような恥を長年もたらして来た事に対する平手打ちである。
我々はプリンス・アキシノがイルカ殺戮を公式に直接非難するか、太地のイルカキラー達を公式に非難する事を期待はしていないが、今後の捕獲の禁止への支持声明は、彼がイルカ殺戮を承認しない事への可能な限りの最も強いメッセージである。
WAZAはJAZAがWAZAの倫理方針を受け入れるように要求し、プリンス・アキシノとJAZAがこれらの倫理方針を受け入れる事を公式に声明で述べた事で、彼らはイルカ殺戮が非倫理的だという立場という事になる。これは太地のイルカ追い込み殺戮の最強の告発である。
…現在日本におけるイルカの議論には二つのサイドがあり、プリンス・アキシノはキラー達の味方はしないと宣言をした。
多少は節度を持っているドルフィンプロジェクトの声明に比べるとワトソンの声明は、秋篠宮さまがWAZAを支持したかのように報道にすら書かれていない事を吹聴するなど、かなりダイナミックな大法螺吹きぶりと、『ザ・コーヴ』の時のようにシーシェパードが何の貢献もしていないWAZA問題への便乗アピールぶりもいつもの通常運転である。
勿論第二次大戦の敵国である米国の団体が、現在の日本の皇族の権限が極めて限定されている事を知らない筈もないのだが、皇族が口を開けば日本人は従うだろうといういつもの有名人ビジネスか、それともいつものワトソンの日本に対する敵国史観と知ったかぶりの一環だろう。
フライング声明の原因は共同通信の英語記事か?
それにしても両団体の解釈の仕方が全く同じという不自然さがあるのだが、実際の秋篠宮さまの発言は以下である。
複数の国内報道からまとめ世界動物園水族館協会=WAZAは、追い込み漁そのものについてではなく、あくまでそこで捕獲されたものの購入について問題にしています。また、本協会がWAZAからの除名ということになると、今後の希少動物の繁殖や種の保全に大きな支障が出てきますし、日本がその分野において、国際的な貢献をしにくくなることも明らかでありましょう。
日本に古くから伝わる文化の問題と本協会がWAZAという組織の一員であることは、分けて考える必要があると考えております。その意味において、難しい判断だったことと推察いたしますが、今回の意思決定は協会全体として将来的にプラスに働くことと思います。[>>2-5]
秋篠宮さまは要するに、水族館が被る被害と動物園が被る被害の両方に言及をしたうえで、JAZAが多数決で決めた事だから協会全体では差し引きプラスだろうという点と、JAZAの決定と追い込み漁の是非の議論は別問題だ[>>6]という趣旨の事を発言されたのであって、シーシェパードが勢い付いているような、WAZAを支持する、又はイルカ漁を認めない等のニュアンスは微塵もないのだが、問題は共同通信の英語記事の内容である。
共同通信英語版
総会の初日には協会総裁を務める秋篠宮さまが、イルカに関して水族館に予想される苦難に憂慮を表明されたが、JAZAの決定は将来的にポジティブな影響を生み出すだろうとも述べられた。
文脈を見ないで直訳したのか案の定本来の趣旨とは異なる解釈になっているが、それだけでなく「協会全体として」の部分を省いているために意味不明で唐突なニュアンスになっている。
引用ならクオテーションマークをつけるのだが、ここにはないため、これは意図的な要約である。
「generate」は「生み出す」「作り出す」「引き起こす」などの意味、「positive」は「前向きな」「建設的な」「有望な」、「consequences」は「結果として生じる影響」の意味となるため、これではJAZAの決定が何か新たな展望を生み出すような意味に解釈されてしまっても不思議はない。
案の定日本語版は以下の内容である。元々直接的な表現を避けた皇族発言の短い引用のみ見て文脈を理解しないで訳せばこういう事になるのだろう。
共同通信日本語版それにしてもこの共同通信英語版は、太地町に一つしかない畠尻湾に関して「coves」と複数形で書いたり、船体につけた金属管を金槌で叩いて音を出す追い込み漁の説明で「金属ポールで船首を打つ」など当事者が聞いたら仰け反りそうな頓珍漢な記述があったりなど、見るからに知識なしの付け刃で書かれたような雑な記事である。
雑な報道で済めばいいのだが、案の定エコテロどもに政治利用されてしまうという展開になってしまっている。(了)
備考:
昨年リック・オバリーがアースアイランド研究所と寄付金の問題で揉めた事で同研究所を辞めて「リック・オバリーのドルフィンプロジェククト」を興したため、アースアイランドの一プロジェクトである今回声明を出した方の「ドルフィンプロジェクト」は現在オバリーとは関係ない。
それでもアースアイランド研究所は、エルザ自然保護の会と並んで今回のWAZAへの中心的圧力団体の一つであり、今回のWAZAの一件は手柄として誇りたいのだろう。
WAZAに対する圧力は過去数年はエルザ自然保護の会、アースアイランド研究所やリックオバリーが行っており、今年になってオーストラリア・フォー・ドルフィンズがWAZAへの恫喝訴訟を起こした事でWAZAが震え上がってJAZAと日本の水族館を生贄に差し出したという顛末のようだが、シーシェパードが実際関わった形跡はない。
脚注・資料:
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