
シー・シェパードやドルフィン・プロジェクトなど反イルカ漁の活動家が太地町に常駐する大きなきっかけとなった映画『ザ・コーヴ』(ルイ・シホヨス監督、2009年)を制作したOPS(海洋保全協会)が、『ザ・コーヴ2.0』と題した同映画の第二弾を制作するとして寄付金を募っている。12月20日に同団体が明らかにした。
同団体によると、太地町の漁師が屠殺方法をより人道的な方法に変えて来たと国際メディアに対し語ったとし、それに対して未公開映像を用いて反論し「彼らを永久に黙らせる」と主張している。
またOPSは寄付金アピールとして、この映画の影響で日本で数万頭のイルカが助かり、映画の影響を受けた活動家により小型鯨類の屠殺が82%減少し、太地町の各世帯に同映画のDVDを郵送した事でイルカ肉の消費が60%減少したとも主張。
日本のメディア向けに制作するというこの映画の詳細はOPSは明らかにしていないが、二か国語のショートフィルムになるという。同団体は寄付金の目標額を17万5000ドル (約2000万円) としている。
『ザ・コーヴ』以降に屠殺法が改良されたという嘘
ここで言及されている「国際メディア」とはガーディアン紙のジャスティン・マッカリー記者の12月11日付けの記事「恥じる事はない - 映画『ザ・コーヴ』に関して太地のイルカ漁師が沈黙を破る」の事である。
そもそも太地町漁協の関係者はこれまでも国内メディアの取材には応じているが、欧米大手メディアの取材を受けたのは恐らくガーディアンが初となる。
記事中で漁協参事が答えている事は国内視点では特に目新しいものではないが、欧米メディアのインタビューという形で直接英語で発信されたのは恐らくこれが初めてである。その発言のうち以下の部分にOPSが噛み付いている。
ガーディアンの記事より
(漁協参事は)漁師が際立って残酷な方法でイルカを殺すというその主張を否定する。
「我々が取っている方法は時代と共に変化して来た。」
批判に応じて漁師達は現在は首にナイフを刺し脳幹を切断する方法でイルカを屠殺している。これが可能な限り最も人道的な方法だと彼は主張する。しかしそれは苦痛を伴わず即死する事にはならないと一部の専門家は言っている。
OPSの寄付金サイトより
ザ・コーヴが出て以降彼等は新しく改良したより人道的な屠殺技術を開発し、イルカはより短時間で苦痛を伴わず死ぬと彼等はその国際メディアで主張した。我々がその屠殺方法のHD映像を持っている事をイルカ殺し達は知らない。未公開映像を使って新しい映画を作りたい。それは彼等を永久に黙らせる事になる。
ガーディアンの記事で「苦痛を伴わず即死する事にならない」と主張しているのは「一部の専門家」であり、漁協側の発言は「可能な限り最も人道的な方法」である。そもそもガーディアンに書いてある事ですら話のすり替えが行われている。
2009年8月に米国で初上映された『ザ・コーヴ』が出て以降に屠殺方法が改良されたと言うのなら、『ザ・コーヴ』が公開されて以降に太地町に寄り付いていないOPSが新方法の動画を撮影しているという主張は、『ザ・コーヴ』で散々用いた時系列を無視した強引な手法そのままである。
実際は、延髄を切断して即死させるというフェロー諸島を参考にした屠殺方法が水産庁の指導で段階的に導入され始めたのは2000年頃からであり、ザ・コーヴの隠し撮りが行われた2007年1〜2月はその両方の方法が併用されていた時期である。
併用と言っても既に新方法が大半の鯨種に適用されていた段階で、一番適用困難だったスジイルカのみがこの時期にはまだ旧来の「追い込み後の突きん棒」(銛で突いて失血死させる)の方法が取られていたという事らしい。
ショッキングな流血映像を求めていた『ザ・コーヴ』では、隠しカメラの遠巻き撮影ではインパクトの薄い新方法の映像は一切用いられず、当時廃止直前だった旧方法によるスジイルカの屠殺映像のみが執拗に用いられている。
しかし海水の着色疑惑が出た事に対する反論として2014年3月にOPSが公開した隠し撮り映像は、彼等が持っている映像の大半が新方法の映像である事を物語っており(そもそもそれ以前からOPSの未公開の隠し撮り映像は流出していたが)、『ザ・コーヴ』では都合が悪いから排除したネタを今更使って何の映画を作るのかという話である。
新屠殺方法に関しては、2011年にドイツの団体『アトランティック・ブルー』が、タープの下に設置した隠しカメラで至近距離で撮影された映像が既に活動家やネチズンに十分ネタにされており、これも目新しいものではない。
『ザ・コーヴ』の影響で日本でイルカの屠殺数が減ったという嘘
OPSによると『ザ・コーヴ』(2010年7月に日本で劇場公開)の影響で日本で数万頭のイルカが殺されなくなり、活動家によって小型鯨類の屠殺が82%減少したとある。
OPSの寄付金サイトより
我々が最も誇れる事は、『ザ・コーヴ』の暴露により毎年数万頭のイルカが屠殺されなくなった事である。この映画やキャンペーンに大きく影響された活動家により、日本の小型鯨類の屠殺数は82%減少した。
シー・シェパードが太地町に常駐を開始した2010年の翌年に全国の捕獲総数が減ったのは事実だが、これは 東日本大震災で被災した東北地方のイシイルカやリクゼンイルカの突きん棒漁が停止したために、日本全体での捕獲数が激減したというのが実際の事情である。
その一方、活動家が物理的な妨害は出来ない太地町において捕獲数自体は何の影響も受けていない。
太地町の捕獲枠は全国総数の約1割の約2000頭なのに対し、震災以前の岩手県では年間約1万頭が捕獲されていたのであり、東日本大震災で減少した捕獲数をさも自分達の手柄のように主張するのはこういった団体の寄付金アピールの常套手段である。
『ザ・コーヴ』のDVDを太地町住民に配布したのでイルカ肉の消費が60%下がったという嘘
OPSの寄付金サイトより
促進キャンペーンでOPSは日本語版の『ザ・コーヴ』の3444部を太地町在住の各個人に届けた。ほぼ一晩で町内での食用イルカ肉の需要は60%下がった。
太地町の全世帯に「海を考えるグループ」名義で『ザ・コーヴ』の日本語吹き替え版が郵送されたという不気味なニュースが報じられたのは2011年2月末の事である。その数日後にシホヨス監督が「太地町の人々へのラブレター」だと自分達が郵送したと公表している。
『ザ・コーヴ』でイルカ肉の水銀問題を指摘されたから誰も食べなくなったという印象操作の意図が見えるが、実際農水省が海産物の水銀に関する注意喚起をしたのは2003年で、太地町が自主的に国立水俣病総合研究センターに依頼して住民の水銀検査を実施したのは2009年7月であり、いずれも『ザ・コーヴ』公開以前の話である。
太地町は金儲けのツール
寄付金を集めるためにこれらの「存在しない成果」を主張するのはシー・シェパードと同じ手法だが、ドキュメンタリーと称したヤラセや、根拠のない主張の寄せ集めと映像の切り貼りによる虚構のストーリーで知られる『ザ・コーヴ』の製作者の言う事などそもそも眉唾ものではあるが、相変わらずこじつけと根拠のない事を主張しているといった印象である。
2010年には「日本人に真実を知らせるための映画だ」と豪語していた一方で、その発言の矛盾をNHKの『クローズアップ現代』で指摘されてスカイプインタビューで激しく動揺していたルイ・シホヨス監督だが、『ザ・コーヴ』から8年経ってこの一発屋が日本のメディアに対して一体どんな奇天烈なショートフィルムを発信するのか、お手並み拝見ではある。(了)
関連動画
テキサス親父のトニー・マラーノ氏も早速この件を動画にしている。日本語版も近々出る予定。
テキサス親父"The Cove" Part two
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