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【FOXニュースの研究所流出説報道③】中国を追求できない欧米の学界

 FOXニュースの『ネクスト・レボリューション』での新型コロナウイルス「研究所流出説」報道の全訳の第3弾。

 コウモリ由来とされる2001年のSARS流行を受けて、コウモリコロナウイルスが人獣共通ウイルスへの変異や進化する事を予測するために、既存の天然コウモリウイルスをヒトへの感染性や病原性を増強するように武漢ウイルス研究所で遺伝子操作されたウイルスが、何らかのミスや事故で流出した可能性を疑うのに十分な理由があるというのが、FOXニュースがこれまで展開して来た特集の内容である。

 2月8日放送分の第3回は、過去2回の復習が中心だが、後半ではこのFOXニュースの報道に呼応したようなワシントンポスト紙の社説と、武漢ウイルス研究所に研究資金を提供をしていた国立衛生研究所 (NIH) のFOXニュースに対する2回目の声明が紹介されている。

FOXニュースの研究所流出説報道
1. 中国に委託されたウイルス改造研究 (1月26日放送分)
2. 2つの隠蔽工作 (2月1日放送分)
3. 中国を追求できない欧米の学界 (2月8日放送分)


・注釈番号をマウスオーバー (PC)、タップ (モバイル) で脚注の追加説明が表示されます。

コロナウイルスの起源への答えを得るまで私達が止まる事はない
誰かを非難するのではなく、次のパンデミックを防ぐ教訓を学ぶため
ザ・ネクスト・レボリューション
FOXニュース
2021年2月8日放送
解説:スティーヴ・ヒルトン

動画 (6'42")

 我が国の国立衛生研究所 (NIH) から委託された「危険な研究」が、武漢ウイルス研究所に下請けに出されていたという、このパンデミックの最もありそうな起源を示す証拠を、過去2回にわたってお届けした。

 このタイプの研究は、既存のウイルスをより危険で感染力のある状態に作り変える事を目的とする事から「機能獲得ウイルス研究」と呼ばれる —— ウイルスに特定の機能を獲得させる事で、私達はそれを研究し、より適切な防御体制を整える事が出来るというものだ。

 2014年に、研究室漏洩という危険なバイオセーフティ事故を多数受け、オバマ政権は「機能獲得研究」に対してモラトリアムを出した。

The New York Times

危険な生物学的研究への助成金を停止 ホワイトハウス


 “ホワイトハウスによると「連邦研究施設における最近のバイオセーフティ事故を受けて」モラトリアムの決定がなされたという。”

McNell, Donald G., Jr. "White House to Cut Funding for Risky Biological Study". New York Times, The, October 17, 2014.

 しかし、これまでお伝えしたように、それにもかかわらずNIAID (国立アレルギー感染所研究所) はこの研究に資金提供を続けていた。

 禁止期間中にも3回の支出が行われ、合計180万ドル以上が支払われている*1

交付
年度
助成
年度
受取者名
 交付年度:2017 (小計=$597,112)
2017 2017 エコヘルス・アライアンス
 交付年度:2016 (小計=$611,090)
2016 2016 エコヘルス・アライアンス
 交付年度:2015 (小計=$630,445)
2015 2015 エコヘルス・アライアンス
DUNS番号
 
077090066
 
077090066
 
077090066
 
プロスペクト・パーク
 
プロスペクト・パーク
 
プロスペクト・パーク
 
NY
 
NY
 
NY
CFDA
番号
 
93.885
 
93.885
 
93.885
CDFAプログラム
タイトル
 
アレルギー感染症研究
 
アレルギー感染症研究
 
アレルギー感染症研究
助成
コード
 
000
 
000
 
000
予算
 
4
 
3
 
2
実行日
 
2017年5月26日
 
2016年7月22日
 
2015年6月10日
実行
タイプ
 
非競合継続
 
非競合継続
 
非競合継続
実行額
 
$597,112
 
$611,090
 
$630,445

 エコヘルス・アライアンスへの助成金。この団体を運営するピーター・ダザック氏は、このNIAID助成プロジェクトを武漢ウイルス研究所に下請けに出している。同研究所の感染症部門の責任者である石正麗氏は、2002年のSARSエピデミックの起源解明でダザック氏と共同研究をした人物である。

ピーター・ダザック氏(左)、石正麗氏(右)

 NIAIDのために武漢研究所が行った作業は、この助成プロジェクトに関連して2017年に発表された論文に詳しく説明されており、その具体的な内容を私達は知る事が出来る。ピーター・ダザック氏と石正麗氏はこの「中間報告」の共同執筆者としてリストされている。

武漢ウイルス研究所

 彼等はコウモリコロナウイルスを分析し、それらの遺伝子情報をシーケンスした。そして彼等は様々なキメラを構築し、実験室で遺伝子操作によって新しいウイルスを人工的に作成した

PLOS

コウモリSARS関連コロナウイルスの豊富な遺伝子プールの発見が、SARSコロナウイルスの起源に新たな理解を提供する


コウモリSARS関連コロナウイルスのレスキューとウイルス感染実験


 “単一個体のフンのサンプルから、更に新型のSARS関連コロナウイルスRs4874の培養に私達は成功した。(中略)WIV1*2をバックボーンとする感染性細菌人工染色体 (BAC) のクローン群と、8種類の異なるコウモリSARS関連コロナウイルス由来のS遺伝子変異体を私達は構築した。(中略)Rs4231とRs7327の感染性クローンのみが、トランスフェクション後にベロ6細胞における細胞変性効果に至った。”

胡犇, Peter Daszak, 石正麗 et al. "Discovery of a rich gene pool of bat SARS-related coronaviruses provides new insights into the origin of SARS coronavirus". Public Library of Science, November 30, 2017.

 彼等は実験室でヒトの細胞をそれらに感染させ、自作の人工ウイルスが機能的ウイルスとして自己複製できる事を示した

 “ベロ6細胞が、2つのレスキューされたキメラ型SARS関連コロナウイルス、WIV1-Rs4231S、WIV1-Rs7327Sと、新たに単離されたRs4874にそれぞれ感染した時、全ての感染において効率的なウイルス複製が検出された。(中略)全てのウイルスは、ヒトACE2発現細胞において効率的に複製した。

 パンデミックの発生直後に、石正麗氏と武漢研究所は、そのパンデミックウイルス*3が、彼等の収集サンプルにある「RaTG13」*4とよく似ているという論文を発表した。彼等は丁度その事を発見したのだという*5

nature

コウモリ由来とみられる新型コロナウイルスに関連した肺炎の激増


 “それから、以前に雲南省のナカキクガシラコウモリから検出されたコウモリコロナウイルス (BatCoV RaTG13)*4 のRNA依存性RNAポリメラーゼ (RdRp) の短領域が、2019-nCoV*6との高い配列相同性を示した事を私達は発見した。”

周鵬、揚興婁、[...] 石正麗. "A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin". nature, February 3, 2020.

 しかし、それが事実でない事も私達は私達には分かっている。

 彼等が丁度発見したと主張しているこのウイルスは、数年前にコウモリのフンと濃厚接触をした3名の鉱夫が死亡した、SARSのような致死性呼吸器疾患の調査中に、彼等が発見したコウモリコロナウイルスと100%一致するものだった。

 重要な問題は、彼等がこのウイルスに対しヒト間の伝染性を増強する「機能獲得研究」を行なっていたのかどうかだ。

 トランプ大統領の元国家安全保障補佐官のマット・ポッティンガー氏が、英国政府関係者の一団に対し、「相次ぐ証拠」が武漢研究所からのウイルス漏洩説を裏付けたと、非公式に語ったと報じられている。

NEW YORK POST

「相次ぐ証拠」が、中国の研究所からのCOVID-19の漏洩を物語る 米政府関係者

 英国版CIAのMI6 (英国秘密情報部) 元長官のリチャード・ディアラブ氏は「それは武漢研究所から漏洩した人工物だ。つまり、それは事故の結果だという、私はその事実を話しているまでだ」と述べている:

COVID-19の起源に関するMI6元長官のリチャード・ディアラブ氏の発言
 “それは武漢研究所から漏洩した人工物だ。つまり、それは事故の結果だという、私はその事実を話しているまでだ。” —— リチャード・ディアラブ
スカイニュース
2020年7月
(0:24〜35)
Sky News. "Former MI6 chief claims coronavirus came from Wuhan lab". YouTube, July 6, 2020, at 0:25-0:35.

 2018年に国務省の非機密公電では、武漢研究所は安全管理面の深刻な弱点が警告されている。

The Washington Post

コウモリコロナウイルス研究を行う武漢の研究所における安全問題の通告を公電 国務省


 “その米国政府の関係者は、今回の訪問で知った事に深い懸念を抱いたため、彼等は『機密扱いでないが慎重に扱うべき』のカテゴリーで2本の外交公電を政府に送り返した。この公電は、武漢ウイルス研究所の安全管理上の虚弱性に関して警告し、より多くの注意と対処を提案した。”

 国務省によると、2019年秋に武漢研究所の複数の職員がCOVIDの症状になっていたという。彼等が最初に発生が特定された症例だったのだ。

U.S. DEPARTMENT of STATE

ファクトシート
武漢ウイルス研究所における動き


 “米国政府は、武漢ウイルス研究所内部の複数の研究者が、大流行の症例が初めて確認される以前の2019年秋に、COVID-19や一般的な季節性疾患の両方と一致する症状の病気になっていたと確信する理由がある。”

"Fact Sheet: Activity at the Wuhan Institute of Virology". U.S. Department of State, January 15, 2021, sited in U.S. Embassy in Lebanon.


情報を隠す中国と、中国を追求できない欧米の学界

 全ての証拠が武漢研究所を指し示す事を、中国政権は非常に懸念をして、昨年2月に、彼等は武漢ウイルス研究所の責任者を生物兵器プログラムの責任者に交代させた*7

The Washington Times
Reliable Reporting. The Right Opinion.

生物兵器の経歴を持つ中国の少将がコロナウイルスとの戦いで役割を担う

Gertz, Bill. "Chinese general with bioweapons background takes leading role in coronavirus fight". Washington Times, The, February 16, 2020.

 そして、NBCニュースが報じたように、有用な証拠は破棄された。

NBCニュース 2021年1月25日(動画) (0:33-55)
COVIDの起源はどこか別な場所だ 中国の科学者が示唆
 中国側が何を研究していたかの重要な手がかりになる、武漢ウイルス研究所のデータベースが、昨年春に削除されていた事を、NBCニュースは確認している。研究所の幹部はセキュリティ上の理由で削除されたと話している。

 このような圧倒的な状況証拠があるにもかかわらず、研究室漏洩説に対する本格的な調査がないまま1年以上が経過した。

 昨年、オーストラリアの要求に対し、中国政権は大麦への関税で報復した。

中国が大麦への関税でオーストラリアに報復 近年の関係悪化で

Patton, Dominique and Colin Packham. ""China hits Australia with barley tariff in latest blow to relations". Reuters, May 18, 2020 / 8:44PM.; 日本語編集版:『中国、豪州産大麦に80.5%の関税 不当廉売などで19日から』. Reuters, 2020年5月18日23:50.

 パンデミックに関して嘘をついていると、中国政府を批判した中国人科学者が中国脱出を余儀なくされた。

NEW YORK POST

中国政府によるコロナウイルスの隠蔽を批判した中国のウイルス学者が潜伏

Bowden, Ebony. "Chinese virologist in hiding after accusing Beijing of coronavirus cover-up". New York Post, July 10, 2020 | 12:07pm.

 ここ米国でさえも、科学者達は声をあげる事を恐れて来た。彼等への助成金がカットされたり、あるいは陰謀論を支持していると非難される事を恐れているからだ。

 しかし、ついに変化は始まった。


中国への不信感は大手メディアや学界にも広がる

 一昨日、ワシントンポスト紙は、機能獲得研究、我が国のNIAIDの助成金、雲南省の鉱山への繋がり、武漢研究所で実際に起きた事への隠蔽といった、私達が過去2週間で放送した全ての重要ポイントを網羅する広範な社説を掲載した。

The Washington Post

私達は未だにこのパンデミックの起源に関する説明を受けていない。その答えを中国は握りつぶしている。


「機能獲得」研究
 “石博士がコウモリコロナウイルスの「機能獲得研究」を行なっていた事は公開資料により知られている。(中略) 米国、中国やヨーロッパから長年にわたり資金援助を受けている。助成金の資料によると、この研究はコウモリコロナウイルスの種間波及の潜在性の判断を目的としていた。”

 私達と同様に、ワシントンポスト紙は答えを要求した。

 “2012年、雲南省の廃鉱でコウモリのフンを除去していた6名がCOVID-19と非常によく似た症状の疾患を示した。(中略) 2013年にその鉱山で採取され「RaTG13」と名付けられたウイルスは、「SARS-CoV-2」に最も近い既知の近縁種と説明されている。”

 スタンフォード大学のデビッド・レルマン教授は、ビル・ナイ氏のポッドキャストに参加し、私達に必要な事を詳しく説明した:

COVID-19の起源を調査するスタンフォード大学のデビッド・レルマン教授
 “調査団が本当にしなければならない一つの事は、武漢の研究所に行き「冷凍庫の中の全ての物、そこに過去にあったものの全ての記録、近年集めた全てのデータ、そして調査済の如何なるサンプルの配列情報を含む全てに、我々は目を通さなければならない」と伝える事だ。”
ビル・ナイのサイエンス・ルールズ!
2021年2月1日
"Coronavirus: Did COVID Escape From a Lab‪?". Science Rules with Bill Nye in Apple Podcasts Preview, February 1, 2021.

 彼の言う通りだ。しかしその代わりに私達が得たものはこれだ。

 今週ついに、WHOのチームが武漢研究所を視察したが、その後にピーター・ダザック氏はこのツイートをした:



本日、石正麗博士を含む武漢ウイルス研究所のスタッフとの非常に重要なミーティング。率直でオープンな議論。重要な質問は回答を得た。

 ああ、それで結構だ。そういう訳で、この「重要な質問は回答を得た」と発言している人物は、NIAIDの「機能獲得研究」の助成プロジェクトを武漢ウイルス研究所に下請けに出した張本人だ。

 さて、これで私達は家に帰っていいのか? これで一件落着なのか?

 なぜ誰も、NIAIDの責任者であるファウチ氏にこの質問をしないのだろうか? 昨今は彼を見ない日はない。このような重要な質問を受ける代わりに、こういったように:

ホワイトハウス 2021年2月4日(動画)(0:12〜24)
Q: 朝のルーティンは何ですか?
A: 5時頃に起床、シェイビング、シャワー、朝食を少々、新聞にざっと目を通し、電子メールをチェックし、NIHに出かけます。
Video: "Dr. Fauci Answers Questions". YouTube, February 5, 2021.

 そんな事は知らなくていい。

 しかし、過去100年で最悪の世界的大惨事に繋がったと考えられる研究に、当時は禁止されていたにもかかわらず、米国政府がなぜ資金提供をしたのか、そして未だに資金提供を続けているのかどうか、それが私達に語られる事はあるのだろうか?


NIHの2度目の声明

 私達は再びNIHに連絡を取ったが、またしても公開資料と直接矛盾する否定を受け取った。

NIHの声明
 “対象ウイルスの病原性や伝染性の増強を伴うものではないため、その研究が「機能獲得研究」ではないと、助成金の慎重な審査の後にNIAIDが判断しています。従って、この研究は「機能獲得研究への助成停止」や、その後継・・・のいずれにも該当していません。”
2021年2月7日

 この件に関して私達が間違っていて、彼等がそれを示す証拠を持っているのなら、これらの誤魔化しの声明に隠れるのではなく、NIHの誰かがこの番組に出演して私達の質問に答えられないのか?

 これらの答えを得るまで私達が止まる事はない。誰かを非難するのではなく、次のパンデミックを防ぐための教訓を学ぶのだ。

[聞き取り・訳=岩谷]
小見出し(色付き)は訳者が追加。画像は番組で表示されたもの。黄ハイライトはオリジナル、赤ハイライトは訳者による。

NIHからの2度目の声明

 興味深い事の一つは、この2月7日付のNIHの声明の抜粋は、この前週の番組で紹介されていた1月29日付の前回の声明を多少いじって語順を変えた程度のほぼ同じ文章であり、FOXニュースの再度の問い合わせに対し、前回と同一内容の返信を送りつけている点である。

1月29日付のNIHの声明

...the research...did not involve the enhancement of the pathogenicity or transmissibility of the viruses studied. Therefore, after review NIAID determined the awards were not subject to either the Gain-of-Function Research Funding Pause or its successor...

...その研究は、研究対象ウイルスの病原性や伝染性の増強を伴うものではありません。従って、この助成金は「機能獲得研究への助成停止」や、その後継・・・のいずれにも該当しないと、審査後にNIAIDが判断しています。


2月7日付のNIHの声明 (赤文字は追加・変更された部分)

After careful review of the grant, NIAID determined the research was not gain-of-function research because it did not involve the enhancement of the pathogenicity or transmissibility of the viruses studied. Therefore, the research was not subject to either the Gain-of-Function Research Funding Pause or its successor…

研究対象ウイルスの病原性や伝染性の増強を伴うものではないため、その研究が「機能獲得研究」ではないと、助成金の慎重な審査の後にNIAIDが判断しています。従って、この研究は「機能獲得研究への助成停止」や、その後継・・・のいずれにも該当していません。

 質問には答えずに話をすり替えていた事が指摘されたのが前回の声明であり、再度の問い合わせに再び同じ文章を送って来るというのは、日本風に言えば「暖簾に腕押し」的なのらりくらりの対応だが、こういう返答はアメリカ人がよくやる常套手段の「問答無用のサイン」でもある。

 論文は最新版を参照するという慣習から、1回目の声明の時点ではNIH側の調査不足という可能性も考えられたが、明らかに嘘である事が立証された事を2回にわたって主張するという事は、これは意図的であり悪質な対応と言わざるを得ないだろう。


ワシントンポストの社説

 もう一つ興味深いのが、米国の医学界の主流派が研究所流出説を否定している中、大手紙であるワシントンポスト紙が、FOXニュースと同じ視点の社説を出している事だ。

 以下は関連部分の抜粋。

The Washington Post
私達は未だにこのパンデミックの起源に関する説明を受けていない。
その答えを中国は握りつぶしている。
中国の研究所は調査団に開放されなければならない。

社説
2021年2月5日

 (前略) しかしもう一つの経路がある。これもまた信憑性があり、調査の必要がある。それは、実験室の事故か漏洩の可能性だ。不適切に廃棄されたウイルスが関係したか、あるいは、実験室の1人の技師を感染させ、そこから他の人々に感染した可能性がある。
 人口1,100万人の武漢市は中国の主要な交通の要であり、ウイルス研究の中心地だ。感染性病原体を扱うバイオセキュリティレベル3の実験室を備えた施設が少なくとも6箇所ある。これらの施設のいくつかがコロナウイルス研究に非常に活発である事を、発表された数々の論文が示している。
 最も活発なのは武漢ウイルス研究所であり、今回の世界的パンデミックを引き起こしたウイルスと非常によく似たコウモリコロナウイルスを、徹底的に研究し実験して来た研究チームを、石正麗氏が率いている。(中略)

 中国はパンデミックの初期段階を積極的に隠蔽し、自国民と世界からウイルスの伝染性を隠蔽し、2019年12月下旬に懸念を表明した武漢市の医師達を処罰した。
 習近平国家主席は1月中旬まで、中国の国内や国外の人々に警告をしなかった。

 それから、中国の当局や科学者達は、メリーランド州フォートデリックの米軍生物防衛研究所から来た汚染された冷凍食品のパッケージ、またはミンク農場から中国に持ち込まれた可能性があるといった、ウイルスの起源が中国の国外であるかのような、怪しい理論を数多く展開して来た。
 デマ情報は、中国が何かから注意を逸らしたり、隠蔽しようとしているという疑念を高めるだけでしかない。

「機能獲得」研究

 武漢ウイルス研究所 (WIV) などにおいて実験室の事故があったかどうか見極めるためには、コウモリのサンプル、ウイルス株や同研究所が収集している全ての配列はもちろん、研究室ノートのアーカイブ、実験とデータの記録、電子メールなど施設内の通信を含む、それらの施設で行われた研究への綿密な調査を調査団は行いたいはずだ —— パンデミックウイルスの既知の遺伝子設計図とそれらを比較するために。
 それには、透明性と、データとサンプルの出処に対する検証が必須だが、それは未だに実現していない

 石正麗氏がコウモリコロナウイルス「機能獲得研究」を行なっていた事は公開資料により知られている。この研究では、新たな宿主種への感染能力、あるいは宿主間を容易に感染する能力など、ウイルスに新しい特性を与えるための遺伝子改変が含まれる。
 これまで存在しなかった危険物を生み出す事の出来る「機能獲得実験」 —— そのような研究は論争の的になっている。(中略)

 石正麗氏が行なった研究は、米国、中国やヨーロッパから長年にわたり資金援助を受けている。助成プロジェクトの説明によると、この研究はコウモリコロナウイルスの異種間波及の潜在性の判断を目的としていた。その研究は、未発表の自然コロナウイルスの異なるスパイクタンパク質を使用する、一連の新種キメラウイルスの構築を含んでいた。
 その結果生じた新種ウイルスの培養ヒト細胞への感染能力、そして実験動物への感染能力がテストされるものだった。これには、ヒトの呼吸細胞と同じ反応をするように遺伝子操作された細胞を持つマウスでの実験が含まれていた。(中略)

重要なデータベースがアクセス不能に

 石正麗氏の作業の中核となっているのは同研究所のデータベースだ。研究者と科学者のネットワークの「DRASTIC」*8の調査によると、これは中国における最も重要なコウモリコロナウイルスのデータベースだという。
 そのデータベースは全般的には、同研究所による長年の採取活動で集めたウイルスを含む、約22,000点のサンプルと、その一部の遺伝子配列の記録が格納されている。同研究所はコウモリから15,000点以上のサンプルを収集し、1,400点以上のコウモリウイルスを網羅している。
 このデータベースには、パンデミックの起源を突き止める上で大いに役立つであろう、100点以上の未発表のコウモリコロナウイルスの配列が収集されている。

 特に興味深いのは、雲南省の未確認の場所で2015年に採取された8点のウイルスの完全な配列で、これはつい最近公表されたものだ。
 2012年、雲南省の廃鉱でコウモリのフンを除去していた6名がCOVID-19と非常によく似た症状の疾患を示した。最終的に3名が死亡した。彼等の病気の原因の調査結果は完全には開示されていない
 これらの6名が感染している間に、その近辺の地域で武漢ウイルス研究所とエコヘルス・アライアンスによるコウモリウイルスの採取活動が開始された*9
 2013年にその鉱山で採取され「RaTG13」と名付けられたウイルスは、「SARS-CoV-2」(新型コロナウイルス) に最も近い既知の近縁種と説明されている。
 それらの配列に関する限られた情報に基づくと、その他の8点のウイルスは「RaTG13」に非常によく似ており、進化の手がかりを持っている可能性がある。

 データベースのうち1つのセクションはパスワードで保護され、アクセス不可となっていた。これは、武漢ウイルス研究所の科学者達が、ウイルスと配列に関する科学論文を、他に先駆けて書けるようにするための資料保護のためというのなら理解できる。
 しかし、データベースの利用記録を調査した「DRASTIC」によると、プライベートセクションを除いて、2019年9月12日まではそのデータベースはアクセス可能で、その日から研究所外からのアクセスが遮断されたという*10。では、なぜなのか?
 セキュリティ上の理由から非公開にしたと石正麗氏は話している。彼女はBBCに「私達は隠す事は何もない」と語っている。

 中国を厳しく批判していたマイク・ポンペオ前国務長官は、政権末期に「米国政府は、武漢ウイルス研究所内部の複数の研究者が、大流行の症例が初めて確認される以前の2019年秋に、COVID-19や一般的な季節性疾患の両方と一致する症状の病気になっていたと確信する理由がある」と断言するファクトシートと声明を出した。(中略)

 武漢ウイルス研究所の傘下にある「国家ウイルス資源センター」が制作した、中国の第二のウイルスデータベースのポータルサイトもアクセス不能になっており、その結果、武漢ウイルス研究所が管理する主要なウイルスデータベースの全てが現在はアクセス不能となっている。

 2月3日、ウイルスの起源調査でWHOの調査団が武漢ウイルス研究所を訪問した。そこで何が語られたかは不明である。しかし、その目標は研究所の閉ざされた扉を開く事でなければならない。
 武漢ウイルス研究所が流行発生の火付け役ではなかったのであれば、「SARS-CoV-2」(新型コロナウイルス) の進化の起源を科学者達が正しく理解するために、彼等にデータベースを安心して公開する事は、石正麗氏にとって比較的容易な事のはずだ。(後略)

 中国のウイルス研究の中心地であり、コウモリコロナウイルスの研究を専門に行い「機能獲得変異研究」のエキスパートである研究チームのある武漢市で、その研究対象だった特定のコウモリコロナウイルスと非常に類似する新型のヒトコロナウイルスが市中発生したという不自然さへの疑問は、FOXニュースほど直接的ではないが、ワシントンポスト紙の社説でも示唆されている。

 ここで興味深いのは、武漢ウイルス研究所のデータベースが非公開になった2019年9月という時期だ。新型コロナウイスル発生直前であるこの時期の一連の動きを時系列で並べるとこうなる:

  • 7月24日:NIHからエコヘルス・アライアンス経由で武漢ウイルス研究所に下請けに出された助成プロジェクトの要旨から「機能獲得研究」の説明が徹底的に抹消された。
  • 9月12日:武漢ウイルス研究所のデータベースが非公開になった。
  • 秋:同研究所の複数の職員が新型コロナのような病気になっていた(米国国務省の主張)

 公称では、2019年12月8日に武漢市で初症例が確認されたという新型コロナウイルスだが*11、その数ヶ月前の同年夏から秋にかけて、武漢ウイルス研究所やその周辺で何かしらの問題があり、それを隠そうとしたように見えるのは、中国というお国柄を考えればやはり何か裏にあると考えるのが自然な感想だろう。(続く)

FOXニュースの研究所流出説報道
1. 中国に委託されたウイルス改造研究 (1月26日放送分)
2. 2つの隠蔽工作 (2月1日放送分)
3. 中国を追求できない欧米の学界 (2月8日放送分)



脚註:

  1. *1 ^ このモラトリアムはトランプ政権下の2017年12月に解除されているため、禁止期間は2014年10月17日〜2017年12月19日。エコヘルス・アライアンスへの6回の助成 (2014〜2019年度) のうち2015年6月10日、2016年7月22日、2017年5月26日付けで交付された3回がその期間内となる。 "NIH Lifts Funding Pause on Gain-of-Function Research". National Institute of Health, December 19, 2017.
    なお、新型コロナ流行下の2020年4月27日に同団体の「機能獲得研究」への助成は完全に禁止された。 Owermohle, Sarah. "Trump cuts U.S. research on Bat-human virus transmission over China ties". Politico, April 27, 2020.
  2. *2 ^ Bat SARS-like coronavirus WIV1 (Bat SL-CoV-WIV1)(コウモリSARS様コロナウイルスWIV1):中国のナカキクガシラコウモリから見つかったSARSの症状を引き起こすコロナウイルス。WIVは「武漢ウイルス研究所」(Wuhan Institution of Virology) の略。 葛行義; Jia-Lu Li [...] Peter Daszak, 石正麗. "Isolation and characterization of a bat SARS-like coronavirus that uses the ACE2 receptor". nature, October 30, 2013.; Cited in Segreto, Rossana and Yuri Deigin. "The genetic structure of SARS-CoV-2 does not rule out a laboratory origin" (PDF). Sience Open, September 2, 2020.
  3. *3 「パンデミックウイルス」は新型コロナウイルスの事を指す。
  4. *4 a b RaTG13:通関銅山で2013年7月24日に採取され武漢ウイルス研究所が保存していた、新型コロナウイルス (COVID-19) と96.2%の遺伝子配列の一致を持つコウモリSARS関連コロナウイルス。2020年2月3日のネイチャー誌で石正麗氏ら中国の研究チームが発表。「ナカキクガシラコウモリ (Rhinolophus affinis) 通関 (Tong-Guan) 2013」の略。平井良和. 『第1回「あそこへは行くな」 中国・雲南、ウイルスが潜む山』. 朝日新聞デジタル, 2020年12月10日 17時30分.
  5. *5 ^ 通関銅山で武漢ウイルス研究所のチームが2013年に発見したウイルス「RaTG13」の遺伝子構成が新型コロナウイルスと96.2%一致したという情報は、2020年2月3日のネイチャー誌掲載の中国チームによる論文で発表されたもので、これは昨年7月以降にサンデー・タイムズをはじめ各メディアで報じられている。 Arbuthnott, George; Jonathan Calvet and Philip Sherwell. "Revealed: Seven year coronavirus trail from mine deaths to a Wuhan lab". The Times, Saturday July 04 2020, 6.00pm BST, The Sunday Times.; Seal, Thomas. 『新型コロナに類似した標本、7年前に武漢研究所に送付-英紙サンデー・タイムズ』. Bloomberg, 2020年7月6日 9:36 JST.; カシュミラ・ガンダー. 『新型コロナの起源は7年前の中国雲南省の銅山か、武漢研究所が保管』. NewsWeek, 2020年7月13日(月)11時10分.; 平井良和. 『第1回「あそこへは行くな」 中国・雲南、ウイルスが潜む山』. 朝日新聞デジタル, 2020年12月10日 17時30分.
  6. *6 ^ 2019-nCoV:新型コロナウイルス感染症の正式名称がWHOによって「COVID-19」と定められる以前の呼称。「2019 novel (or new) coronavirus」(2019年新型コロナウイルス) の略。日本の法令による「新型コロナウイルス感染症」の呼称はここから。 『COVID-19 (旧称: 2019年新型コロナウイルス、2019-nCoV)よくあるご質問について』 (PDF). Hawaii State Department of Health, 2020 年 2 月 13 日改定.
  7. *7 ^ 中国工科大学の学者で、中国軍事科学アカデミー軍事医学研究所の研究者である、人民解放軍の陳薇少将は、コロナウイルス対策全権を委任されたのであって、武漢ウイルス研究所の王延軼所長と交代したという情報は確認できないので、「交代させた」(replaced with) という記述は不正確。 『武漢新型コロナウイルス対策全権を委任された中国人民解放軍チェン・ウェイ少将のインタビュー全文』. In Deep, 2020年2月13日、2020年8月20日更新.
  8. *9 ^ 通関銅山で6名が謎の疾患にかかったのが2012年4月26日〜5月2日にかけてで、8月13日までに3名が死亡し、生存者の最後の退院は9月10日のため、同年8月から2015年に行われた武漢ウイルス研究所による採取活動は、時系列的にはやや重なっている。 Rahalkar, Monali C. and Rahul A. Bahulikar. "Lethal Pneumonia Cases in Mojiang Miners (2012) and the Mineshaft Could Provide Important Clues to the Origin of SARS-CoV-2". frontiers in Public Health, October 20, 2020.
  9. *10 ^ Anonymous OSINT Contributor, Billy Bostickson, Gilles Demaneuf. "An investigation into the WIV databases that were taken offline". ResearchGate, February 2021.
  10. *11 ^ 『新型コロナウイルス-中国』. 厚生労働省検疫所FORTH, 2020年1月12日更新.
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コメント

edward.naka@gmail.com

世界の主要国は、建前上は生物兵器を禁止していながら、生物兵器の研究は行っているわけですが、あくまで対抗手段としての研究に限定されるべきなんでしょうけど、実際は感染力の上がるメカニズム調査して、対抗策を練るのが効率的なのでしょうね。

しかし、危険な研究を中国に下請けに出していたとすると、あながち中国だけを責められないわけですが、漏洩事実の隠蔽は弁解の余地ないですよね。

  • 2021/11/12(金) 14:03:30 |
  • URL |
  • ednakano #1mRmjf4U
  • [ 編集]

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