通訳を英語で「interpretation」と言うように、翻訳とは訳者の「解釈」が入るため、翻訳文から更に別言語に翻訳すると、細かい表現が全く別な物になったり、下手すると意味そのものが変わってしまう危険性があるので、原語から直接訳されたものでないと内容の正確さの保証はないと言うのが一般的な常識でありますが、ここに面白い例があるので、1年以上前の古いネタですが紹介します。
以下は昨年1月、小泉政権時代の当時の麻生太郎外相の天皇靖国親拝発言に関して日本と中国で報じられた一連の記事ですが、共同通信の日本語記事を元に新華社が中国語で報じ、新華社を元に日本国内の中華系メディア『中国情報局』が日本語で報じたら、二度の翻訳を介したため全く頓珍漢な正反対の意味になってしまったという「伝言ゲーム報道」の面白い例です。
まずは共同通信の記事。赤のハイライト部分に注目。
共同通信 2006.1.28 21:24
麻生太郎外相は二十八日午後、名古屋市で講演し、小泉純一郎首相の靖国神社参拝問題に関連し「英霊からしてみれば、天皇陛下のために『万歳』と言ったのであって、総理大臣万歳といった人はゼロだ。天皇陛下の参拝が一番だ」と述べ、天皇の参拝実現が望ましいとの認識を示した。
天皇の靖国参拝は一九七五年十一月以来、行われていない。麻生氏は「なぜ(参拝)できなくなったのかと言えば、公人、私人の話(問題)からだ」と指摘、A級戦犯の合祀が理由ではないとした。参拝実現の環境整備として宗教法人格の見直しなどが必要との認識を示したものとみられる。首相参拝で悪化している中韓両国との関係がさらに冷え込むのは必至だ。
麻生氏は講演で、小泉首相の参拝について「中国が(反対と)言えば言うだけ、行かざるを得なくなる。『たばこを吸うな、吸うな』と言われ、吸いたくなるのと同じ。黙っているのが一番だ」と述べ、参拝に反発している中国や韓国をけん制した。
靖国神社の法人格見直しは、中韓両国などに配慮する形で、九九年に野中広務官房長官(当時)が、宗教法人の靖国神社を特殊法人に改め、A級戦犯を分祀(ぶんし)ぶんしする考えを示したが、具体化はしなかった。二〇〇四年には自民党の山崎拓前副総裁も神社側に分祀を打診。神社側は神道の信仰上、分祀を否定。遺族の一部も拒否している。
麻生太郎外相講演の靖国神社参拝問題関連の要旨は次の通り。
靖国神社は東京都認可の宗教法人。国立でも何でもないから、靖国神社という一神社のやることに対して、国がああしろ、こうしろと言えない。
少なくとも日本国首相が自分の国内で、ここは行っていいけど、こっち行っちゃいかんというようなことを外国から言われて、決めるのは絶対通るところではない。
中国が言えば言うだけ、行かざるを得ないことになる。やめろ、やめろと言ったら行くんだから。たばこ吸うな吸うなと言えば吸いたくなるのと同じことだ。黙っているのが一番。
祭られている英霊の方からしてみれば、天皇陛下のために万歳と言ったのであって、総理大臣万歳と言った人はゼロだ。天皇陛下の参拝なんだと思う。それが一番。天皇陛下の参拝がなんでできなくなったのかと言えば、公人、私人の話からだから、それをどうすれば解決できるかという話にすれば、答えはいくつか出てくる。そういった形にすべきだと思っている。
これを受けた翌日の中国の新華社通信の報道は以下です。
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新華社電 2006.1.29 14:36
【新華社電東京 1月29日(記者:何徳功)】日本の麻生太郎外相は28日、名古屋での演説で日本の天皇は靖国神社に参拝するべきだと吹聴した。日本の小泉純一郎首相の靖国神社参拝に中国が反対しても、その効果は予想の逆にしかならないと公言した。
麻生外相は天皇靖国神社参拝の理由として、戦死者の角度から見れば、当時彼等が叫んだのは「天皇万歳」であって、一人として「首相万歳」とは叫んでいない。よって、天皇が靖国神社を参拝するのが最も適切である、と外相はそこまで言うに至った。
靖国神社参拝は、日本の指導者が日本の戦争の歴史問題という厳粛な政治問題に正しく対処出来ないことを反映している。しかし日本の外相の詭弁は、中国が反対すればするほど、小泉首相は靖国神社参拝をせざるを得なくなり、まさしくそれは、喫煙するなと言われて、もっと喫煙をしたくなるが如くであると。彼の甚だしく理不尽な発言は、靖国神社参拝の問題で、中国の最良の対応は沈黙を守る事とのことである。
日本の裕仁天皇は第二次大戦後に靖国神社に参拝したが、1978年のA級戦犯の合祀以降、彼は参拝活動を停止した。明仁天皇はこれまで靖国神社を参拝をしたことがない。日本の一部の右翼団体は、天皇の靖国神社参拝の再開を鼓吹し続けているが、麻生太郎外相の発言は日本の極右勢力の立場を代表するものだ。
それを受けて、この新華社通信の記事を基に同日夜に共同通信が記事を書いてます。
共同通信 2006.1.29 23:07
【北京29日共同】中国の国営通信、新華社は29日、天皇の靖国神社参拝実現が望ましいとした28日の麻生太郎外相の発言を「こともあろうに天皇参拝を吹聴」との見出しで伝え、強く批判した。
新華社電は、靖国参拝は日本の指導者が正確に歴史に直面していないことを反映した「厳粛な政治問題」だと指摘し、麻生外相は「中国が反対すればするほど首相は参拝をやめられなくなるといった詭弁(きべん)を使っている」と非難。その上で、麻生外相の談話は天皇の参拝を求める右翼勢力の立場を代表するものだと批判した。
最後がその翌日の中国情報局の記事。

新華社等:麻生発言に反発、日中関係には一定の配慮か
中国情報局 2006.1.30 12:30
麻生太郎外務大臣が28日、「天皇の靖国神社参拝が望ましい」と発言したことに対して中国メディアが強く反発している。国営の新華社、中国新聞社ともに29日付で、批判記事を発表した。
新華社は、麻生外相の「中国が反対すればするほど、小泉首相は参拝せざるを得なくなる」という論法を、タバコを吸ってはいけないと言われた人が、「なおさら吸いたくなる」というようなものだと、皮肉った。
ただし、「このような、まったく道理が通らない発言に対して、中国は黙殺することがベストだ」と、「麻生外相の発言により、日中関係をこれ以上こじらせるべきではない」と考えているとも解釈できる論評をつけ加えた。
さらに新華社は、「1978年にA級戦犯が靖国神社に祀られるようになってから、裕仁天皇(昭和天皇)は靖国神社参拝を停止した。明仁天皇(今上天皇)は、靖国神社を参拝したことがない」と解説している。
そして、「麻生外相の発言は、日本の極右勢力の立場を代表するものだ」と主張した。
一方、中国新聞社は「靖国神社問題に対する、中国政府の態度は明確だ」として、「日本の指導者がA級戦犯が祀られている靖国神社に参拝することに反対している」と、従来からの主張を述べ、その上で「日本の指導者には天皇も首相も含まれる」とした。(編集担当:如月隼人・恩田有紀)
いかがでしょうか。青でハイライトした部分など、新華社の報道の段階で論評が付け加えられたり、麻生氏の発言の趣旨が摺り替えられているのは中国側の都合として、自家製記事を逆輸入という形の共同通信は新華社の論評の部分を中心に報じていますが、一方中国情報局は赤でハイライトした部分が二重翻訳の結果全く頓珍漢な内容になっています。
以下該当部分の比較です。
共同通信 (1.28 21:24):新華社 (1.29 14:36):
可是、日本這位外相却詭弁説、中国越反対、小泉変得越不能不去参拝靖国神社、正如有人告訴你不要抽烟、你反而越想抽烟一様。他甚至無理地説、在参拝靖國神社問題上、中国最好保持沉黙。
(麻生外相は)日本の小泉純一郎首相の靖国神社参拝に中国が反対しても、その効果は予想の逆にしかならないと公言した。
しかし日本の外相の詭弁は、中国が反対すればするほど、小泉首相は靖国神社参拝をせざるを得なくなり、まさしくそれは、喫煙するなと言われて、もっと喫煙をしたくなるが如くであると。彼の甚だしく理不尽な発言は、靖国神社参拝の問題で、中国の最良の対応は沈黙を守る事とのことである。
共同通信 (1.29 23:07):
中国情報局 (1.30 12:30):
ただし、「このような、まったく道理が通らない発言に対して、中国は黙殺することがベストだ」と、「麻生外相の発言により、日中関係をこれ以上こじらせるべきではない」と考えているとも解釈できる論評をつけ加えた。
確かに新華社の原文が文法上の問題か何かでどれが主語だか分かりにくいのですが、共同通信は情報発信源だから間違える訳がないとして、中国情報局は見事に正反対の意味に訳してしまったという「伝言ゲーム」です。
例えば前回の沖縄のニュースなどを始め、日本のニュースが外国で報じられたものを日本語訳する場合、特に英語メディアの場合日本人の人名表記や日本語における固有名詞がアルファベットでは分からないのと、日本で一般的に用いられてる用語を用いる必要があるため、検索して確認する必要がありますが、いずれにしても内容の確認のために日本語の関連ニュースを複数チェックします。
この中国情報局の場合、麻生発言が日本発のニュースであるにも拘らず、日本の報道をチェックせずに中国の報道だけを見て記事を書いてしまったからこそ、こういう間違いが起こった訳です。
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