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ザ・サン紙の記事には、誤爆を行った米軍機のコクピットビデオの15分余りの会話記録が全文掲載されているが、『歩く花』さんのエントリーで問題にされていたのは、朝日新聞が2月9日に報じた記事では、炎上する英軍車両を見ながら米軍パイロットが歓喜の声を上げたなど非常に極悪非道な書かれ方をしていて、一方でAFP通信では朝日新聞の訳とは随分ニュアンスが違うという点である。
朝日新聞 2007年02月09日11時44分
イラク戦争が始まった直後の03年3月末、同国南部バスラ近郊で米軍攻撃機が英軍の車列を誤射し、英兵1人を死亡させた際の音声付きの映像が6日、英大衆紙サンに暴露された。「機密扱い」を理由に映像の存在を遺族側に否定してきた米英国防当局は一転、3月から再開される英兵の死因審問に証拠として提出することを認めた。ブレア英首相は7日、下院での党首討論で「遺族に苦痛を与えたことを深く後悔している」と死因究明の遅れをわびた。
問題の映像は、米軍機2機の操縦士が標的を十分確認しないまま、車列を旧フセイン政権下のイラク軍と思い込み、2回にわたり攻撃を加えた際のやりとりが生々しく記録されていた。
操縦士の一人は、攻撃で炎上する車両を見ながら、「逃げてるぜ」と歓喜の声をあげた。その直後、英軍への誤射により1人が死亡、1人が負傷したことが明らかになると「ちくしょう、これで刑務所送りだ」「気分悪いぜ」と吐き捨てた。
攻撃で死亡した英陸軍のマティー・ハル伍長代理(当時25)の妻で、小学校教諭のスーザンさん(30)は7日付のサン紙のインタビューで、「操縦士たちがいとも簡単に夫を殺したと知り、打ちのめされた」と語った。映像の存在を再三にわたり否定してきた英国防省の姿勢を批判しつつ、検視官による死因審問での真相究明を求めた。
つまりこれだけ読めば、このパイロットが残虐非道で利己的な人物という印象を受ける。
以下が、無線通信の様子をもう少し詳しく書いたAFP通信の記事。これは朝日新聞の記事の3日前の報道。

AFP通信 2007年02月06日 20:26 発信地:英国
![]() 写真は、サン紙が入手し、スカイニューズ・テレビで6日に放送された米軍ジェット機のコックピット映像の一部。英軍装甲車を誤爆直後と思われる。© AFP/SKY NEWS |
【ロンドン/英国 6日 AFP】英サン(Sun)紙は6日、イラク戦争開戦から8日後の2003年3月28日、戦地で英国軍兵士が空爆により死亡した事件の重要証拠とみられる米軍ジェット機内のコックピット映像の一部を入手した。この映像から、英兵士空爆が米軍の誤爆であったことが明らかになった。
英国人兵士が乗った4台の「オレンジ色の車両」を、米軍が「オレンジ色のミサイル」と誤認したことが原因とみられる。誤爆したのは、米軍のA-10サンダーボルト・ジェット2機に搭乗した2人のパイロット。
コックピット映像には音声も含まれており、誤爆に至るまでの経過が克明に記されている。
(会話は一部省略しています)
パイロット1:「車両4台発見。オレンジ色のパネルが見える。このエリアに友軍は?」
米軍地上管制官:「北に800メートルの地点だな?」
パイロット2:「北に800メートルを確認。このエリアに友軍はいない。私は西に回るので、君に攻撃を任せる」
パイロット1:「了解。市内に進入される前に1台目を爆破しよう」
パイロット2:「急げ。早くしろ」
パイロット1:「了解。ああ、ロケット・ランチャーが見えるな」
パイロット1:「爆破完了」
サン紙によると、このときにパイロット1は英国軍部隊を誤爆。装甲車2台を爆破し、英国人兵士1人が犠牲となった。
パイロット2:「命中だ。・・・・・・ゴーグルをつけたからよく見えるようになった・・・・・・やっぱり友軍ではなさそうだな」
パイロット1:「大慌てで逃げてるぞ。どうだ、見えるか?」
パイロット2:「ああ、友軍じゃない」
管制官:「近くに友軍がいるから気をつけてくれ。黄色の小型装甲車だ」
パイロット2:「なんだって!? まずいな・・・・・・煙が見える」
管制官:「すぐに戻れ。非常にまずい事態だ」
(ここでパイロットがののしる声がしきりに聞こえる)
管制官:「途中にも友軍がいるから注意してくれ」
パイロット2:「了解。ええと、先ほどの友軍の現状は?」
管制官:「1人死亡、1人負傷との連絡があった」
パイロット2:「了解。・・・・・・なんてこった」
パイロット1:「・・・・・・どうすりゃいいんだ」
パイロット2:「聞いたか? 刑務所行きだな」
米軍空中警戒管制機(AWACS):「管制、A-10は友軍を誤爆した。作戦失敗だ」
英国軍パイロット:「作戦失敗、作戦失敗」
(ここでまた、米軍パイロットの罵り声がしきりに聞こえる)
パイロット1:「くそっ・・・・・・どうすりゃいいんだ(涙声)。・・・・・・オレンジ色のパネルが、ロケットに見えただけだ。それに、管制官も友軍はいないって言ったのに」
AFPの記事で受ける印象は少なくとも朝日新聞とはかなり違うにせよ、こちらに関しても問題ありで、AFPの交信記録は会話の90%が省略された「一部省略」とは到底言えない代物。特に誤爆に至るプロセスが省略され過ぎて全く不明になっており、更に多少の誤訳もある。
結局のところ元の会話を全て見て見ない事には何とも言えないので、ザ・サン紙が発表したコクピットビデオをチェックしてみた。
ザ・サン紙は2月6日にウェブサイト上で17分にわたるコクピットビデオを発表し、同日の記事で音声のテキスト全文を掲載している。以下は該当記事の冒頭部分および問題のコクピットビデオである。
トム・ニュートン・ダン(国防記事担当) 2007年2月6日 ザ・サン紙 (英国) これはハウスホールド機甲部隊への悪夢のような攻撃の最中のコールサイン[1]「ポポフ36」からのコクピットビデオの会話の全文である。 *1. コールサイン=無線呼び出し符号
15分以上に及ぶこのビデオは、A-10サンダーボルト機のパイロットが4台の英軍車両を発見する直前から始まっている。 現地時間は16:36、軍用のグリニッジ標準時は13:36である。 2機目のA-10で殺人攻撃を行った僚機の操縦士のコールサインは「ポポフ35」。
通信網のその他の主なコールサインは「マニラホテル」、「マニラ34」と「ライトニング34」で、これら3つは英軍部隊に配属された地上の米海軍前線航空統制官である。 その後、その他のコールサインが攻撃中止の緊急指令を伝達するためにネットワークに加わった。 それらは航空戦闘全体を統制している米軍AWAC[2](空中警戒管制機)の「スカイチーフ」と近くにいた英軍パイロットの「コスタ58」である。*2. 原文ママ。『AWACS』の間違い
時分秒のタイムコードは操縦席のディスプレイのデジタル時計から。 Transcript starts. 13:36.30 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:36.36 ポポフ35 [パイロット1]: 13:36.47 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:36.51 ポポフ35 [パイロット1]: 13:36.52 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:36.57 ポポフ36 [パイロット2]: 13:37.03 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:37.12 マニラホテル: 13:37.16 ポポフ35 [パイロット1]: 13:37.21 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:37.25 ポポフ35 [パイロット1]: 13:37.36 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:37.44 ポポフ35 [パイロット1]: 13:37.46 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:37.54 ポポフ35 [パイロット1]: 13:37.56 ポポフ36 [パイロット2]: 13:38.04 ポポフ36: 13:38.21 ポポフ35 [パイロット1]: 13:38.23 ポポフ36 [パイロット2]: 13:38.29 ポポフ35 [パイロット1]: 13:38.30 ポポフ36 [パイロット2]: 13:38.31 ポポフ35 [パイロット1]: 13:38.35 ポポフ35: 13:38.38 ポポフ36 [パイロット2]: 13:38.49 ポポフ36: 13:38.51 ポポフ35 [パイロット1]: 13:38.52 ポポフ36 [パイロット2]: 13:38.53 ポポフ35 [パイロット1]: 13:39.09 ポポフ36 [パイロット2]: 13:39.10 ポポフ35 [パイロット1]: 13:39.14 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:39.15 ポポフ35 [パイロット1]: 13:39.19 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:39.23 ポポフ35 [パイロット1]: 13:39.30 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:39.31 ポポフ35 [パイロット1]: 13:39.34 ポポフ36 [パイロット2]: 13:39.35 ポポフ35 [パイロット1]: 13:39.45 ポポフ36 [パイロット2]: 13:39.50 ポポフ36: 13:39.52 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:39.54 ポポフ35 [パイロット1]: 13:40.01 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:40.34[04] ポポフ35 [パイロット1]: 13:40.09 ポポフ36 [パイロット2]: 13:40.12 ポポフ35 [パイロット1]: 13:40.13 ポポフ36 [パイロット2]: 13:40.17 ポポフ35 [パイロット1]: 13:40.17 ポポフ36 [パイロット2]: 13:40.18 ポポフ35 [パイロット1]: 13:40.26 ポポフ35: 13:40.29 ポポフ36 [パイロット2]: 13:40.31 ポポフ35 [パイロット1]: 13:40.35 ポポフ36 [パイロット2]: (少しの間テープが聞き取れない) 13:40.52 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:41.00 ポポフ35 [パイロット1]: 13:40[41].12 ポポフ36 [パイロット2]: 13:40[41].15 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:41.21 ポポフ35 [パイロット1]: 13:41.24 ポポフ36 [パイロット2]: 13:41.32 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:41.37 ポポフ36 [パイロット2]: 13:41.40 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:41.41 ポポフ35 [パイロット1]: 13:41.49 ポポフ36 [パイロット2]: 13:41.50 ポポフ36: 13:41.53 ポポフ35 [パイロット1]: 13:41.55 ポポフ36 [パイロット2]: 13:42.04 ポポフ35 [パイロット1]: (ポポフ36は攻撃のために「旋回進入」し、英軍車列にA-10を垂直降下させ、シミター装甲車2台を破壊し、騎兵連隊伍長勤務のマティ・ハル上等兵が殺害された) ー 銃撃音 ー - GUNFIRE - 13:42.18 ポポフ35 [パイロット1]: 13:42.22 ポポフ35: 13:42.29 ポポフ36 [パイロット2]: 13:42.30 ポポフ35 [パイロット1]: 13:42.31 ポポフ36 [パイロット2]: 13:42.30[38] ポポフ36: 13:42.39 ポポフ35 [パイロット1]: 13:42.59 ポポフ35: 13:43.13 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:43.17 マニラホテル: 13:43.24 ポポフ36 [パイロット2]: 13:43.34 ポポフ36: 13:43.35 ポポフ35 [パイロット1]: 13:43.38 ポポフ36 [パイロット2]: 13:43.40 ポポフ35 [パイロット1]: 13:43.47 13:43.54 ライトニング34 [米航空統制官3]: 13:44.09 ポポフ35 [パイロット1]: 13:44.12 ライトニング34 [米航空統制官3]: 13:44.16 ポポフ35 [パイロット1]: 13:44.19 ポポフ35: 13:44.21 ライトニング34 [米航空統制官3]: 13:44.25 ポポフ35 [パイロット1]: 13:44.29 ポポフ35: 13:44.35 ポポフ35: 13:44.36 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:44.39 ポポフ35 [パイロット1]: 13:44.47 ポポフ35: 13:44.51 ポポフ35: 13:44.58 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:45.04 ポポフ36 [パイロット2]: 13:44[45].14 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:44[45].25 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:44[45].39 ポポフ35 [パイロット1]: 13:44[45].45 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:44[45].49 ポポフ35 [パイロット1]: 13:44[45].50 ポポフ36 [パイロット2]: 13:45.54 ポポフ35 [パイロット1]: 13:46.01 ポポフ36 [パイロット2]: 13:46.03 ポポフ35 [パイロット1]: 13:46.12 ポポフ35: 13:46.15 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:46.20 ポポフ36 [パイロット2]: 13:46.47 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:46.51 ポポフ35 [パイロット1]: 13:46.55 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:47.01 ポポフ35 [パイロット1]: 13:47.02 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:47.09 ポポフ35 [パイロット1]: 13:47.18 ポポフ35: 13:47.24 ポポフ36 [パイロット2]: 13:47.48 ポポフ35 [パイロット1]: 13:47.51 ポポフ36 [パイロット2]: 13:47.52 ポポフ35 [パイロット1]: 13:47.59 ポポフ36 [パイロット2]: 13:48.12 スカイチーフ [米空中警戒管制システム]: 13:48.18 マニラ34 [米航空統制官2]: 13:48.22 コスタ58 [英パイロット]: 13:48.25 マニラホテル [米航空統制官1]: 13:48.30 コスタ58 [英パイロット]: 13:48.41 スカイチーフ [米空中警戒管制システム]: 13:48.47 コスタ58 [英パイロット]: 13:48.54 スカイチーフ [米空中警戒管制システム]: 13:49.07 コスタ58 [英パイロット]: 13:49.11 ポポフ35 [パイロット1]: 13:49.14 コスタ58 [英パイロット]: 13:49.18 ポポフ36 [パイロット2]: 13:50.21 ポポフ36: 13:51.17 ポポフ36 [パイロット2]: 13:51.25 ポポフ35 [パイロット1]: 13:51.27 ポポフ36 [パイロット2]: 13:51.30 ポポフ35 [パイロット1]: 13:51.33 ポポフ36 [パイロット2]: 13:51.48 ポポフ35 [パイロット1]: 13:51.49 ポポフ36 [パイロット2]: 13:51.54 ポポフ35 [パイロット1]: Transcript ends [訳=岩谷] (原文:英語)
Dunn, Tom Newton. The tape they wanted to hide. The Sun, February 7, 2007.
[新URL]
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*原文で伏せ字になってる放送禁止用語の「F***」は「Fuck」、「S***」は「Shit」。
*全文を読むとパイロット(特にポポフ36)がもう一機の「キャスパー」が来るのを待たずに独断で暴走していた様子が分かる。
朝日新聞の記事の検証
問題の朝日新聞の超訳だが、以下に原文と比較をしてみる。
朝日新聞:『操縦士の一人は、攻撃で炎上する車両を見ながら、「逃げてるぜ」と歓喜の声をあげた。その直後、英軍への誤射により1人が死亡、1人が負傷したことが明らかになると「ちくしょう、これで刑務所送りだ」「気分悪いぜ」と吐き捨てた。』
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パイロットが「吐き捨てた」と取れる部分はサン紙の記事や交信記録のいずれにもない。ちなみに記事には「weeps」(嘆き悲しむ)、交信記録には括弧入りで「weeping」と書いてある(前記事付録の図解の3番に「breaks down and weeps」とあるので訳文には「泣き崩れた」を採用。実際ビデオの音声では半泣き状態に聞こえる) 。それに原文のどこにも「歓喜の声をあげた」とは書いていないし、ビデオの音声を聞いても至って平坦に話している。
「気分が悪いぜ」は恐らく交信記録13:47.18の「I'm going to be sick」をそう訳したのかもしれないが、これは「うんざりする」の意味から「気が変になる」までの意味を含むので、文脈から考えて当ブログとしては「気が狂いそうだ」に訳した。
二人のパイロットを一人にまとめてしまうなどいい加減さもさる事ながら、文章を組み替えたりして敢えてパイロットを悪人に仕立てている意図が見えるように思われる。
余談:
正直、この軍事用語とスラングだらけの英文訳は通常の記事や会話とも使われている言葉が違い、無線通信と言うものはまた特殊な言い方が目立つため、かなりリサーチが必要な作業だった。
例えばAFPの記事では、「Got a smoke」を「煙」とか「煙幕弾」と訳しているが、本物の煙なら「a」はつかない訳で、「a」がついた場合は一般的には「タバコをくれないか?」の意味になる。
しかしこの状況でタバコや煙幕団が出て来る筈もなく、この場合は「実体のない物」→「空気を掴まされた」→「無意味なことをした」→「まずい状況である」と言うニュアンスで用いられているように見える。
AFPは「abort」を「作戦失敗」と訳しているが、「abort」の本来の意味は「堕胎」なので、つまり「強制的に止める」と言う意味が第一にあり、これは動詞なので「中止せよ」の意味になる。「Abort」を「失敗」と訳すのは結果論であり、その場に於いては「中止せよ」「全て撤回せよ」のニュアンスになる。
(次回に続く)特集『米軍機による英軍誤爆事件』
1.
2. 命中の浮かれ騒ぎは一転して戦慄に (2007.2.14)
3. ザ・サン紙の圧力に米国防総省が屈服 (2007.2.15)
4. 米軍パイロットの実名報道 (2007.2.17)
5. 未亡人の苦悩 (2007.2.18)














